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山賊の王  作者: 佐の輔
第一章 新しい仲間
25/35

君に決めたっ!


時間設定投稿使ってみました! まる


 【パアルス遺跡】の先住者は、若い男女、子供や老人も合わせて80人近くいた。この乱れた世界を生き残る為、仕方なく山賊行為を働いてしまった家族。家族といっても全員の血が繋がっているわけではない。そもそも大半が亜人種である彼らはそれぞれの姿が異なる。灰緑がかった肌を持つ人間種よりもひとまわり小柄なゴブリン。爬虫類のような鱗を持つリザードマン。翼を持つ美しい女の姿をしたハルピュイア。獣の手足と頭部に角と大きな毛耳を持つアルミラージ。ゴブリンよりも大きな体躯を持つオーク。逆に小柄で子供ほどの背丈しか持たない手足と首を毛皮で覆われたコボルト。他の様々な亜人種とそして人間種である獣人とその混血の者達だった。…しかし、彼らは種族の垣根を越えて寄り添い、血の繋がり以上の絆を持っていたのである。



 そんな彼らは遺跡の広場に集まり、大きな車座となって笑い声を遠慮なく口から零していた。


「うまあぁぁぁぁいっ!」

「なんだぁー?! この食いモンはぁ~!!?!」

「はぐはぐあぐっはぐ!(一心不乱)」

「母ちゃんっ!オイラこんなうまいモノはじめて喰ったよ!」

「グス…よかったわね。本当に、よかった…!」


 広場に集まっている者達は大いにはしゃぎ、笑った。まるで今だけはこの世の憂いを全て忘れ去ったかのようだった。彼らもまた、山賊などと言う肩書きを持ちながら、常に外敵から襲われる恐怖にさらされているのである。むしろ簒奪者からの略奪やモンスターの襲撃を受け続け、その心は飢えと怒りと悲しみで荒んでいた。だが、この瞬間だけは違った。今迄の人生で口にしたこともない美味なるものを口いっぱいに頬張り、その幸福感に全てを忘れ、笑い、涙した。また、今後はザインというウルフすら超える強者に擁護して貰えるという希望が彼らの表情を明るく照らしていた。



 ザインはキナ達にも手伝って貰いながら、新たな仲間達に【ストレージ】から取り出したパンと水を配って歩いていた。ザインはそれぞれの家族のもとに座り込んでは笑いながら話しかけ、名前や色んなことを聞いて回った。大概はザインの存在にまだ畏怖の感情があるのか、頭を下げ、何度も礼をしてくるが、それ以上なかなか口を開いてもらえなかった。しかし、若い女達と子供達だけはザインを取り囲みむしろ質問攻めにしてきた。


「なあ!ウルフをパンチ一発でやっつけたってホント?」

「ねえねえ!兄ちゃん、変身できる亜人なんだろ? もう1回オイラに見せてくれよ~」

「え~凄いなぁ。…僕も大きくなったらそんなことできるのかな?」

「…あの~ザイン様。オークの女ってどう思います?」

「今夜、お暇ですか…?(上目遣いのコボルトの女)」

「………。ムニッ(大きな胸を押し付ける角を持った少女)」


 ザインは幼さ故の無茶なリクエストや過剰な女達からのスキンシップには若干困ったが。それでも嫌な気分はせず、交流を深めていった。

 そんな最中、ザインはめざとくある母親や老人達の手元を注視する。夢中でパンを頬張る子供を幸せそうに見つめている。しかし、自分が手に持ったパンにはほとんど口をつけていない。それを物足りなさそうにしている子供に譲ったり、ある者は袂に隠したりしている。ザインはそれを見て無言でズカズカと近づいて行く。

 急に目の前に現れたザインに驚き、叱責されるかと身を固めた母親にザインは、

「おい!遠慮なんかするなよ。パンならまだあるぞ? それに明日も明後日も十分みんなが食える量はあるから心配すんな。その内、もっと美味いものが食えるようにするからさ? 俺達はもう仲間、家族だろう? ほれっ!腹いっぱい喰いなっ」


 そう言ってザインはニカッっと笑い、母親の両手と子供の手に取り出したパンを押し付ける。そして角を持った柔らかい子供の髪をグリグリと撫でまわす。


「あんちゃん。あ、ありがとう!」

「おうさっ!いっぱい喰って大きくなんなっ」


 ザインはフラリとその場を離れまた別の家族のもとへとパンと水を配りに戻った。


 母親はパンを抱えこむと涙を流して俯く。彼女はかつて飢えによって子供を失っていた。山賊ゆえ、亜人ゆえに人間種から食糧を分けてもらうことすらままならず、失意の中で我が子の亡骸を抱いていた過去があったのである。

 また、老人達はザインに向かってただひたすらに平伏していた。そして誰かがポツリと呟いた。


「…もう、もう大丈夫だ。儂ら年寄りは安心していつでも死ねるだろう。自分の子供ばかり先に死んで、運悪く生き残ってしまったが…こんな景色を眺められる日がこようとは…!」


 すっかりと痩せこけ、ゴブリンと区別がつかなくなった老オークが涙を流しながらザインを見やる。そこにはザインを囲む巨体のウルフ。ピンク色の髪を持った半獣人の少女と子供。エルフの老人と人間種の青年。ゴブリンにリザードマン、獣人と集まって笑い声を上げている。もはや、そこに種族の差を感じさせるものなど欠片も無かった。



「…わぁ~可愛いぃ~❤」

「おお~指を引っ張る力がかなり強いな…イテテっ。双子かぁ。男の子と女の子…というか、どっちもウルフに全然似てねえな?」

「「そんなことないですよ!(ないわよっ!)」」


 意地の悪い顔を浮かべたザインに同時にツッコミが入る。


「髪の毛色なんて父親のウルフさんにソックリですよ? 目元なんかも。ねぇ~❤」

「あ、わかるぅ? 将来はウルフみたいに男前と美人になること間違いなしよ! ねぇ~❤」

「へー(百歩譲って男前はいいとして、美人…?)」


 ザインはどこか温度差を感じたが、キナとウルフの妻であるマルはすっかり意気投合し仲良くなってしまったようだ。蕩けるような表情でウルフの双子の子供をあやしている。

 そこに実質、この大家族のまとめ役であるゴブリンの男、ジョニーと老エルフ、ナットーの会話が耳に入る。


「ところで、お前さんがたはどれくらい此処に住んでおるのだ?」

「まあ、かれこれ8年にはなるか…ご老体は?」

「儂らは【ステークオ】の南の端、【マッメ】近くの隠れ里の出だがのう。賊に焼け出されて旅をしてきた」

「…アンタらも苦労してんだな。はあ、【マッメ】ねぇ。知らない場所だが、俺達もこの土地に明るいわけじゃあないからな。元は【シャイサ】と【チェティエット】の境にある集落の生まれなんだが、モンスターと"同族襲い"に追われてな。それで何年もかけてここまで生き延びたんだ。途中で家族を増やしながらな。…ただ、賞金稼ぎ共がウヨウヨいる【ロアッツ】を通れねえからな。砂漠を渡ったんだ。そこから【メエラズォ】と【ロアッツ】の山の境に流れる黒い運河を伝ってこの遺跡まで辿り着いたわけだ…」



       ■■             ■■   ■■■■■

         ■■■   クー  ■■■       ■■■

            ■■    ■    ジルモ    ■■

 チェティエット     ■■■■■           ■■■

         ■■■■     ■■■   ■■■■■■■■

       ■■       ■■   ■■■    ■■■■

   ■■■■ シャイサ ■■■              ■■

■■■  ■     ■■                 ■■

      ■■  ■                  ■■■

        ■■     ロアッツ      ■■■■■■■

 サンカラーフ  ■             ■■   ■■■■

       ■■ ■          ■■       ■■

      ■    ■■■      ■   ステークオ  ■

      ■       ■    ■            

       ■       ■  ■     ★       

        ■ メエラズォ ■ ■■            

        ■     ■■■■■■■          ■

        ■  ■■■■■■■■■■■         ■

      ■■■■■■■■■■■  ■■■■       ■■

    ■■■■■■■■■■  コトラン ■■■  〇  ■■■

  ■■■■■■■■■■ ■■    ■■■■■■   ■■■■


★が現在地。

〇がもともとキナ達が住んでいた【マッメ】近辺。


「砂漠…あの帰らずの【サンカラーフ】をか!それは、それは難儀であっただろうのぉ」

「ああ…酷いもんだった。たくさん死んだよ…俺のオヤジもオフクロや兄弟も。俺と同じ村で生き残ってんのは俺の嫁さんのひとりだけさ」


 ジョニーが思い出すかのように顔を顰める。ジョニーがナットーに話した"同族襲い"とはかつて同じ亜人種であった者達、モンスターと化してしまった敵性亜人(デミ・モンスター)のことである。


「フシュウゥ…」

「ああ、わかってるよ。気にするな、ドナテロ」

「ふむ。おぬしドナテロと申すのか。ひどく【先祖返り】しておるようだのう? おぬしほどの者は初めて見るのう」


 ジョニーとリザードマンの男、ドナテロは僅かに驚く。ただドナテロの容姿はトカゲ、というか人型になったイグアナそのものであった為、長年生活を共にした者でなければ感情すらつかめないようなものではあったが。


「ご老体、わかるのか?」

「儂も若い頃は色んな土地を見て回った。リザードマンも何度も遭うたことがある。まあ普通のリザードマンといえばあの程度であろう?」


 そう言ってナットーが指をさした方向にリザードマンの男女がいた。ただ彼らの容姿はドナテロとだいぶ違っていた。手足と顔の一部を鱗に覆われているだけで人間種とたいして変わらなかった。因みに夫婦であるという。ドナテロは独り身である。


「意思の疎通に難があるほどまでに達する者がおるとはなぁ」

「まあコイツもな。ウルフと同じで俺が拾ったガキだったんだ。まあ、親に捨てられたのか…それとも追われたのか…そんな奴らが多いぜ。家族の中にはなぁ」

「フシュ…」


 ジョニー達がザイン以外のキナやナットー達とこんなにも早く打ち解けたのには理由があった。なんとザイン達の尋ね人であるナットーの旧友、センテと彼らは既知の仲であった為だ。ジョニー達よりも前に遺跡近くに住んでいたセンテはとても清廉で情の有る人物らしく、彼らをなんの疑いも無く受け入れたばかりか、当初は積極的に世話をやいてくれたという。山賊である"狼の歯"の傷を癒し、救え切れなかった者を手厚く葬ってくれたりとセンテは彼らにとって大恩人であった。そんな彼の知り合いだと知って朴訥な彼らは喜んでキナ達を受け入れたのだ。

 ただセンテが住まう寺院跡地は此処から近いものの、すっかりと日が落ちてしまったので明日、改めて案内してくれるとザイン達と約束した。


「いやあ、まるく収まった良かった! さぁて、今日はそろそろ解散しようかね。爺さん、土の繭(シェルター)の魔法頼める? いや待てよ、今日は俺がオシャレなログハウス風の「待ってくれ」ヤツにチャレnって何だ? ジョニー」


 そこにジョニーから声が掛かり、それを気に他の住民達がザインを全周囲から囲んで一斉に膝を付く。それを見ていた子供達は一瞬、ポカンとした表情をしたが、周囲の真剣な眼差しを見て慌てて親達に習って同じ姿勢をとる。


「なんぞっ!?」

「ザインの旦那!アンタが今からここの()だ。俺達は皆、アンタに付き従って生きていく!だから、アンタは俺達を見捨てずに女子供を守ってくれるか?」


「無論だ。誰ひとり見捨てることなんて無い。俺の命を懸けて約束する!」

 ザインは胸を張って答える。その声はどこまでも響いていくかのような覇気を帯びていた。


「ならば、今日は祝いの日とする!おい…ウルフ?」

「…アア。ナラバ、ざいん。ココニイル女達ハスベテアナタノモノダ。好キナ女ヲ選ンデ連レテヤッテクレ。何人デモカマワナイ」

「え゛!?」

 

 ザインは酷く動揺し、半泣きになりながらナットー達に助けを求める。


「ちょ!ちょっとコレどういうことなの?」

「うーむ。まあ、そこまで驚くことは…常識内の範疇では?」

「なんの常識なの?!」

「ん~…基本的にどんな集落でもそうだと思うんですけど。成人した女性は余程の理由が無い限り、そこの権力者の所有になるんですよ」

「マジでか!ボンレス、その話」

「土地にもよりますがなぁ~、新しい権力者に女を送る。まあ平たく言えば夜伽の相手をさせるのはどこにでもある決まりですな。まあよほど信頼を得ていると喜ぶべきかと、思いますがの?」

「まあ、大きな立場が変わることなんて滅多にあることじゃあないですけど」

「じゃ、じゃあ何か? ここにいる女達は皆、そこにいるジョニーかウルフの女だってこと?」

「さあ? そこまでは…」


 ザインはぐるりと顔を回転させジョニーとウルフを睨む。

「ザインの旦那、俺は嫁が3人で子供が7人いるぜ。ガキを産んだ女は必ず嫁にするって決めてるんでね」

「おれハ、まるサエイレバイイ…」

「ウルフ…❤」

「そこ、見つめ合うなっ」


 ザインは若干ウルフとマルにあてられながら視線を戻す。

「マジかよ…なんというカルチャーショック…!どうしたらいいんだ…」

「ザイン殿。お悩みの様ですが、ここは相手を選ばねばなりますまい」

「やっぱり?」

「僕もそう思います。女と信頼、割と重要視されることですし」

「ああぁ~!」


 斜向えに位置するキナから冷凍光線ばりの極寒の視線を浴びながらザインが頭を抱えて悶える。そして、こんな時には不可視の存在。天使のマユも空気を呼んだのか姿をいつの間にか消していた。

 そこにフワリと降り立つ者がいた。ザインがマユかと思い目を開けるとそこにいたのはハルピュイアのチュチュであった。


「相手が決められないのカ? 意外と初心なんだナ。まあ、そんなところもそそるネ…❤ ウルフよりモ、ここにいる他の男の誰よりも強イ、ザイン。…今夜からアタシト、(つが)ってくれナイカ?」

「ぎゃ、逆ナン?」


 美しい短く切り揃えた金髪を揺らすハルピュイアの少女。チュチュがどこか妖艶な笑みを浮かべながら、彼女の前半身の肌を唯一隠す毛皮で織っただけの前掛けをわざとチラチラとなびかせる。


「チュチュ、お前ウルフ狙いじゃあなかったのか?」

「…ウルフはマル以外、興味ナイネ」

「そういや、ちょっと前にドナテロに告られてなかったっけ…?」

「アタシ、食べるハ好きダケド。トカゲなんて産みたくナイネ」

「…しゅー」

「お、おい。ドナテロ、泣くなよ…なあ?」

「ちょっとチュチュちゃ~ん? トカゲは禁止って言ったでしょう。ドナに謝りなさいよぉ?」

「メンゴ」


 男達のテンションと反比例して女達の様子が姦しくなってくる。だいぶカオスな雰囲気にザインは腹を括る。


「よし!わかった。俺も男だ、誠意に応えよう!」


 なかばヤケクソ気味に叫ぶザインに女達が声を上げる。若い娘だけではなく、自分の妻までもが何故か頬を染めて身だしなみを気にしている素振りを男達はジト目で見ていた。


「…………。…ん~っ、よしっ!君に決めたっ!」


 ザインがビシリとある相手を指さした。そこに全員の視線が集まる。


 そこにはこの喧噪とはまるで別世界に存在していたかのように気配を絶ち、暗闇に溶け込むような苔色の装束に身を包んだ少女が建物の瓦礫を背にちょこんと体育座りをしていた。


「はえっ?! わ、わて…?」


 装束の隙間から見える銀色のまつ毛がパチパチと瞬かれる。




「…フラれタ」



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