家族になろうよ 【ザイン視点】
やっとここまで書けたよ…〇トラッシュ。
なんだかとっても眠いんだ…(※室内が寒すぎるせい)
「お前ら! 俺の家族になってくれないか?」
キョトン。
…なるほどね。アレはいわゆるコミック的な擬音表現だと思ってはいたが、まさか実際に聞こえてしまうとは。というかこのクマ、そんな表情できたんだな。
ただ、目の前のウルフだけじゃあなく、周りの連中も同じ表情をしていたのが妙にツボに入って笑けてしかたない。真面目な表情は諦めて、ここは会心のアルカイックスマイルを試みる。
ウルフが口をパクパクさせてる内に横から声が掛かかった。
「ちょ! ちょっと待ってくれよ? アンタ、それを本気で言ってるのか!? 俺達を殺す代わりに奴隷として要塞に売り払うとかでもなく…」
「ん。そんな気なんて更々無いんだが? ところで…あー。 君は?」
ウルフの前に立ちはだかった4人。ゴブリン?とリザードマン?と忍者?とハーピー?とは別の人物が急に俺に話しかけてきた。犬系の獣人…ナットー達の話じゃあ人間種のはずだが。
ふむ。これが【獣人】か…確かにケモ成分が多いな。と言っても顔は普通に人間に近い。ウルフは完全に動物のソレだから違いがハッキリわかる。ウルフの嫁さんも獣人なんだろうが、混血のキナと比較してもあまり変わらないように見えるな。男女差が大きいのかも。その男が手に持った武器を慌てて捨てる。それを見た他の連中も武器をしまい出す。
「お、俺はサンカク。その、ウルフの嫁の兄だ…よく垂れた耳が似てるって言われる。へへ…」
「(………そこ? 他はあんまり似てねえな)そうか、アンタの妹だったのか。改めて言うが、俺の名前はザインだ。アンタ達は俺のことをヒューマン、ヒューマン言ってるが俺はピンとこなくてな。ぶっちゃけた話、実はこの世界の人間じゃあないんだ。…あ。連れはごく普通の一般人だぞ?」
俺の言葉を聞いて周辺はざわつく。
「セカイ? セカイってなんだ? もしかしてこの土地の名前か…?」
「いやいや、俺の死んだ爺様は確かス、ステイ、クオ? だとか言ってたぞ?」
「じゃあ、あの人って人間種じゃあないの? ヒューマンじゃなくて?」
「そりゃそうだろ! たぶん、新種の亜人だよ。だってあのウルフをパンチ一発でぶっ飛ばしたんだぜ? イヤ~凄かったなあ」
「噓でしょ?! あのウルフを? というかウルフよりも強いんだ…(チラチラッ)」
「…よく見たらけっこーイケメンよね? 後で声掛けてみようかな(モジモジ)」
「………ポッ」
ウルフの妻の兄であるサンカクがより難しい顔をして尋ねる。
「えっと…俺達にもう酷いことはしないってんならそれでいいがよ。じゃあ、アンタは一体何者なんだよ? 何をしにこんなところにきたんだ?」
「…やっと話せるよ。ここに来た目的は人探しだ。まあそれはいったん置いといてだな…ほらっ!ウルフ、もう立てるか?」
俺はウルフに触れるとスキルを使用する。
☛スキル【極値】によりウルフの【生命力】が41に変化。
スキルを継続する限り、他の能力値が1に変化。
これでウルフが持つスキル【妖巨人】の修整も加算して【生命力】は56になった。これで通常の回復力の倍以上になったはずだ。てか種族特性で素の状態でも凄いんだからその効果は推して知るべしだろう。その証拠にHPは一瞬でほぼ満タンになった。
「グアッ?! ナンダァ! お、おれノ体ガ、傷ヤ痛ミノカケラスラ無クナッタ…」
「ははっ…脅かせちまったか?」
俺はウルフを軽々と片腕で引き上げるとその場に立たせる。その様を見て、周囲であがっていた姦しい声も一瞬で掻き消える。
「………。 オマエ、…イヤ。アナタハ、一体何者ナンダ…?」
俺はウルフの手を離すと極めて真剣な(のつもり)表情をつくって口を開いた。
「俺は、使徒だ。この世界を滅びから救う為に女神によってこの地に降ろされた」
そこから俺は知ってる限りのこと、女神から伝え聞いたこの世界の歴史を語った。多少、俺の考察も交えてだがな。キナ達にも、まあ知っていて欲しかったことだしな…。
俺の話をここにいる住民の半分も理解できていないようだったが、無理もない。歴史、文化、技術、そして女神への信仰。余りにも失われたものが多過ぎた。
この世界でも数少ない【信仰】を持ち続けていた老エルフ、ナットーは膝から崩れ落ちる。それをキナが必死になって支えている。ナットーは滂沱の涙を流し呻く。
「なんと…!なんということだ…!! この世界の有様は、我ら人間の下らぬ争いの果てにもたらされたものだったというのか…!? 女神が地上を安寧につとめようとされる慈悲の奇跡を強欲によって独占せんが為にか…!なんと、愚かなことなのだ…どれだけ、どれだけの多くの民が傷つき、飢え、死んでいったのだ。死者ですら安息を得られずにアンデットとなって永劫に彷徨うこの地獄は、儂らそのものが毒し、腐らせていたというのか…! …それなのに、女神はこんな儂ら、人間をまだ救おうとなされておるっ!儂らは、この世界は女神に見放されたのではなかったのか…! うぅっ! あああぁあ…!!!!」
地面にうずくまるナットーを同じく涙を流すキナが優しく抱きかかえる。
「…恐らくだが、その争いの中心にいた連中はほんの一部の権力者達だったようだが、女神は滅んだと言ってたからな。さしずめ、この世界に生き残ってるのはその被害者の末裔ってところだな。だが女神の力が失われたこの世界に蔓延る毒は未だにこの世界を蝕み続けている。爺さんが教えてくれた【エーテル】ってのがもしかしたらそうなのかもしれねえがな。それが単なる獣をモンスターに変え、死人をゾンビにしちまうんだろう」
そこに身体を震わせるゴブリンのジョニー?だったかが、俺の顔を見つめながら訴える。
「は? じゃ、じゃあなにか…俺ら亜人は、亜人はよお…モンスターなんかじゃあなかったっていうのかよぉ? …他の連中から化け物、化け物って呼ばれ続けてきたのによォ…!」
ジョニーの眼には薄っすらと涙が滲み。ここの住人の大半が同じ亜人種。またはその混血のようであったが、言葉にならない感情に皆震えているようだった。
「…長く失われた歴史の中でなにがあったのか俺は知らん。けど、アンタらは人間種とさして変わらない…もとをただせば、ヒューマン・エルフ・獣人。そして亜人。同じ赤い血が流れてる、"みんな同じ人間"だ。混血がその証拠だろうぜ」
俺の言葉を聞いてジョニーやその仲間が顔を伏せて手で押さえる。女達の一部は泣き崩れていた。…よほど迫害されてきた歴史があるんだろう。ここにいる連中には悪いが、これは簡単に解決する話じゃあなさそうだ。
「だが、亜人種は身体的特徴からなのか…もしかしたら【エーテル】の影響を受けやすいのかもしれない。このまま何も手を打たずに放っておけば、亜人種だけじゃあなく全ての人間がモンスターになっちまうかもな。そうなればもはや手遅れになる…!」
ナットーやジョニー達が一斉に顔を上げる。ウルフが真っ直ぐに俺を見る。
「どうだ? 俺に力を貸してくれないか? なに、タダなんて言わないさ。ウルフ、お前らこれまで随分と酷い目に遭ったみたいだが。今後は少なくともいまよりはマシな暮らしをさせてやる! 嘘じゃあないぜ? 俺、こう見えて、ケッコー強いんだぜ? だろ? …だから。俺がお前らを、家族を守ってやるよ。俺も家族に入れてくれるんだから当然だろ?」
「…!! ダ、ダガ…おれハ、おれ達ハ山賊ダゾ? イイノカ…?」
…まーだそんな事言ってやがんのかよ。見かけによらず気の弱いヤツだな?
俺は腕を組んで胸を張る。んでこう言ってやったんだ。
「ああ、お前には言ってなかったっけ? イヤ、ウルフ知ってただろう? 俺は山賊だ。ってな」
俺はウルフ達に向かってニカッと笑みを浮かべた。
【獣人】
人間種。かつて女神が人間を創造した時、非力で毛皮すら持たない彼らを哀れみ、過酷な地で生きる者に精霊の力を与えてエルフとし。獣の力を与えて獣人とした。
男女で外見にかなり差がある。イメージ的に女性は獣の耳と尾、肌に模様を持つだけの人間然とした姿。男性は屈強な体躯と爪や牙を持つ者もおり、顔以外は毛皮で覆われている。
【亜人】
その多くが人間種、特にヒューマンから忌避されてきた歴史を持つ悲劇の種族。
その正体は、世界崩壊のはるか昔に叡知を手にしたヒューマンが他生物の細胞を取り入れて生まれた新たなる種族である。
過酷な環境や病魔に対抗する為にある者は腕を翼に変えてハルピュイアとなり、ある者は熱毒への耐性を得る為に爬虫類の遺伝子を取り込みリザードマンとなった。
現在生きる亜人種はその末裔。多種多様な姿をしている故にモンスターと混同される。




