狼と家族
連日投稿!
書けなかったぶん書いてやるのさあ…ゴフッ(吐血)
だから短め。
「うあ~★ すっごい馬鹿力っスね~? てかその見た目、…キモ過ぎて割とガチで引くんスけどw」
「うっせ!ほっとけ」
ザインはスキル【極値】を解除し、元の姿へと戻る。内心、天使のマユに言われた自身の見た目の指摘には概ね同感であった。【生命力】100がなせる筋力特化の変身形態、ムキムキマッチョ・マジキチモンスター(仮)となった自分の姿を第三者から素でキモイと呼ばれてザインは少なからずショックを受けていた。
ザインが元の姿に戻るや否や、周囲から悲鳴が上がる。
「「「「「「「「ウルフゥゥゥゥ~!!?!」」」」」」」」
「嘘だろっ!ウルフがやられた!?」
「クソっ!ウルフの奴はまだ生きてるんだろーなぁっ!」
「早くっ!ウルフのとこに!」
トロルと狼のハーフである身の丈2メートルを超す巨漢の獣人。厳密には亜人種とモンスター種との交雑種であるから半魔半亜人とでも呼ぶべき稀有な存在ではるが、ウルフはザインの絶望的な一撃を見舞われ吹っ飛んだ。背後のアーチ門を砕き、さらにその奥の遺跡の建造物を3棟は貫通し、噴水かなにか広場のモニュメントだったようなものにめり込んでいた。そこにウルフの仲間達が我先にと駆け付ける。
「ウルフ!ウルフっ!頼む起きてくれっ!」
「こりゃあ…酷ぇ!こんな姿はじめて見るぜ…」
「死ぬなっ!ウルフ!オメーまだ自分の子供に名前もつけてねーだろがよっ!?」
ウルフを囲んだ者達は表情を歪めて嗚咽混じりの涙を流した。
そこに上着を肩に引っ掛けたザインが裸足でペタペタと歩みよってきた。
「おーおー、たいしたもんだな!あの一撃で五体満足どころか、まだ息があるとはな。これなら蘇生は必要ねえな」
そのウルフを容易く打ちのめした鬼人の言葉に、決死の表情を浮かべてジョニー達が立ちふさがる。もはや武器は無意味と打ち捨て、手を左右に大きく開き仁王立ちとなる。
「チクショー、化け物め!ウルフは殺らせねーぞ!」
「クソッ…わてがいながら…!ウルフ、堪忍な…」
「フシュッ!フシュシュゥゥ!」
ザインは困った表情を浮かべる。
「あのね? 最初から言ってんでしょ、俺はあんたらを「ウグッ… …ま、 まるゥ…」どうこう ってもう意識が戻ったのかよ? スゲーなトロル。うわっ?! さっきまで一桁だったHPがもう3分の1近くまで回復してやがるし…流石は【生命力】20越えだなぁ」
「ウルフ!」
「良かった!ウルフ気が付いたかっ!」
ガラガラと石片を落としながらウルフが顔を動かす。流石にまだ体を起こすことはできないようだ。
「ググゥッ… じ、じょに… どな…てろ、ゆき…」
「無理すなぁ!わてらがなんとか時間を稼ぐ、早くウルフを手当てするんじゃあ!」
「おうよっ!おい黒髪っ!俺が"狼の歯"のアタマ、ジョニーだ!賞金首はウルフだけだが俺も立派な山賊だぜ。先ずは俺から殺すのが筋ってもんだろうがっ!」
「フシュウゥ!」
「だから~俺は賞金稼ぎだとかじゃ…「風の凶弾!」 って、オイオイ!」
ザインは急にその場から飛びのく。地面に数ヶ所、孔が穿たれ土煙が舞う。
「「ザイン様っ!」」「ザイン殿ぉ!」
そこに遅れて駆け付けたキナ達がにわかに悲鳴を上げた。
「なんだあ? 魔法…【混成魔法】か?」
ザインの目の前にフワリと降り立つ翼を持った少女。亜人種ハルピュイアのチュチュである。
「当てる気でギリギリまで近づいタ…!なのにコイツ…強イ」
「…ちゅちゅ? 何故オマエガココニイル…女ト、がき共ハ…?」
ウルフが怪訝な声を出すと、ウルフが先程出てきた扉が開き女達に混じって老人と呼べる年齢の者までがなけなしの武器を手に持ちワラワラと出てきた。その手は恐怖で震えている。
「ッ!? ウ、ウルフぅ!」
「まるッ!? バカヤロウ!早クがきヲ連レテ逃ゲロッ!」
「やだようっ!ウルフ、子供に名前を付けてくれるって約束したでしょ!? 死ぬまでずっと一緒だよ!」
「…ま、まる…」
「ウルフ!儂らは皆種族は違えど家族じゃっ!お前だけを見捨てて逃げるような者は誰ひとりおるもんかいっ!」
「そうよそうよ!」
「馬鹿バカリダナ…フ、ファウハハッ!! ググッ…!」
ウルフの目元がキラリと光ったかのようであったが、無理矢理体を起こし、埋まっていた石塊が完全に崩壊する。
「ウルフ!俺も最後まで付き合うぜ!」
「わてもじゃ!わての忍術があれば勝機はまだある!」
「フシュウゥ~!」
「アタシもネ」
「…オトコト、オトコノ勝負ニ水ヲ差スナァ!!!!」
ウルフの咆哮が響き渡る。
ウルフは死に体を引きずってザインの前で膝を付き手を付く。まるで土下座のようなポーズを取る。
「…ざいん。おれノ負ケダ。…おれノ首ハクレテヤル。奴隷ニナレトイウナラバソレデモイイ。ソレデ他ノ家族ヲ見逃シテクレ…おれノ最後ノ頼ミダ!」
「…ウルフ!」
沈痛な空気が流れる中、ザインは大きな溜息を吐き出す。そしてズカズカとウルフの前まで歩み寄るとウルフの頬をペチペチと叩いて顔を上げさせる。
「だ~!か~!らぁぁ~!ひとの話をちゃんと聞けぇ!!?! このクマ野郎っ!」
バチコン。頭上から垂直に振り下ろされたザインの平手を喰らってウルフの顔面が地面に埋まる。だが勘違いしてはいけない。この程度で済むのは相手が人間種より遥かに頑強なウルフであればこそ。並の人間がこれを喰らえば頭と胴が切り離され、原形をとどめない可能性すら有りうる。それはザインの平時の素手攻撃が【攻撃力】10もあるからだ。これはまず常人ではありえないことで、ウルフは垂直落下してきた丸太が直撃した以上の衝撃に等しい折檻を受けていたのだ。
周囲から小さな悲鳴があがるが、ザインはしゃがみ込んで構わず続ける。
「あのなあ、ウルフ。だれがお前の首なんて欲しがるんだよ? そんな猟奇的な趣味が流行ってるのかぁ?」
「ボソリ(…でも、敵性亜人の素材、というか腕を嬉々として持ち歩いてたくらいだからなぁ)」
「ん? なんか言ったか、ボンレス」
「いえっ!何も言っていませんよ。ザイン様」
「………(ジト目)んんっ!だから俺が欲しかったのはお前の首じゃあなくてその腕っぷしなんだよ、ウルフ。だから、俺の仲間になってくれないか?」
「ナ、仲間…ダト?」
ボコリとウルフが地面から顔を引っこ抜くと信じられないといった表情でザインを見上げる。周囲のウルフの家族達も困惑した視線をザインに浴びせる。
「おれハ亜人ダゾ? 家族ノ中ニハ亜人以外ノ種族モイルガ…」
「亜人? 関係ないねっ!お前の嫁さんだって人間種、まあ獣人なんだろーが何が違うってんだ? 同じ笑ったり泣いたりする人間だろーが。俺はそんな些細なことなんて気にもならねーし、むしろ亜人種って奴の方が人間種より能力値も高そうだし…いったい何の文句があるってんだ? この世界の住人どもは」
「「「「「なっ…!」」」」」
ザインを囲む周囲の面々はまるで信じられないものを見たような表情を一様に浮かべる。
「それに、俺は協力者…イヤ単純に仲間が必要なんだ。それも多分大勢な。んで、俺はお前らが気に入った。キナ達と変わらない暖かい血が通ったお前らをな! だから勝負に勝ったらお前ひとり貰う気だったが変更だな。対象はお前ら全員にする!まあ、受け入れるか受け入れないかは任せるけどな? そうだな…だからアンタ達の流儀に合わせるとだなぁ~…」
ザインが周囲をぐるりと見渡し、ウルフに視線を戻す。
誰かが唾を飲み込んだ音が聞こえる。
ザインは満面の笑みを浮かべてウルフに顔を近づける。
「お前ら! 俺の家族になってくれないか?」




