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山賊の王  作者: 佐の輔
第一章 新しい仲間
22/35

トロルとアリ 【ウルフ視点】


先々週から出張で身も心もボロボロな僕でした…生きたい(希望)


更新が遅れて申し訳ありませんご。<(_ _)>


 オレの名前はウルフ。男。


 図体だけが頼りのならず者だ。自分の力だけが多少は使い物になるくれぇで他に自慢できるものなんて無い。

 …イヤ、ある。 …オレの家族だ。


 オレはこの世界の端っこ。遥か北西の【チェティエット】のジャングルで生まれた。親の顔なんて憶えちゃあいない。捨てられたのか、それとも死んじまったのか… 気付いたときにゃあひとりで生きてた。んで未だにマトモに喋れねえこともある。ジョニーに拾われるまで言葉(・・)なんて知らなかったしよ。

 ジョニーはゴブリンの亜人で、俺の父親代わりみたいなもんでな? あの顔のくせして面倒見が良いんだよ。オレは、ジョニーと他の家族に返しきれねえ程の恩がある… 俺が暴れ過ぎて賞金を掛けられちまったから、"狼の歯"なんて皆には名乗らしちまってるがよ。リーダーは俺なんかじゃあねえ。オレ達が守る家族の柱はあくまでジョニーなんだ。オレは死ぬまで皆の楯になってやるのさ。昼夜問わず集ってくる山賊や盗賊、ろくでなし共を蹴散らす為なら何だってやってやるぜ。


 …そう思ってたらほんの数日前にガキが産まれた。もちろん俺の。しかもふたりも。

 俺の嫁、マルって獣人の女なんだが、かなり無理をさしちまったみたいだ。なんせ亜人の…巨人のガキをふたりも胎に預からしちまったんだからな。よく腹が裂けないもんだとオレは気が気じゃなかったが、チュチュ達から女はこれくらいじゃあくたばらないと怒られてからマルに一日中ひっつくのを止めた。

 巨人。ああ…トロルって種族らしいとトカゲのドナテロが教えてくれたんだった。あ。トカゲじゃなかった、ドナテロもリザードマンって種族だったな。俺の体に流れるトロルの血のおかげで俺は簡単にゃあ死なねえらしい。オレが山賊共から毒が塗られた矢を何十本と喰らった時も、首に血も涙もねえ賞金稼ぎの斧を喰らった時も…そりゃあちょいと死に掛けたが現在はなんともねえし、傷一つ残っちゃあいねえ。まあ、オレが毛深いから傷を見つけられねえだけかもしれんが…と笑い話にもならねえなあ。だが、オレは簡単に死ねなくなった。家族の為に…マルとガキ達の為にもまだ死ねない。しかも、今日もマルがオレにいい加減にガキの名前を決めろと言って怒りやがる。最低でも片方の名前はオレが名付けろと言ってきかない。 …無理だろ? オレの名前だってジョニーが付けてくれたくらいだし。ジョニー達に相談しても父親の責任だと言ってきやがる。ニヤニヤしやがって…アイツら。


 そんな束の間のあたたけえ日にその時はやってきたんだ。


 …襲撃者。数は少ない。しかし見たことも無いような連中で、賞金稼ぎ共の総本山であるという【ロアッツ】から精鋭が送られてきたのかもしれない。自惚れてぇわけじゃあねえが、この見てくれだ。オレよか高額の賞金首は腐るほどいるだろーが、オレの首は目立つだろうさ。持って帰って剥製にでもして飾って置きたいのかもなあ。


 チュチュ達が皆に知らせて回り、女達、まだマトモに戦えねえガキとジジババ達を隠れ家に押し込めやがる。そしてオレも。

 オレは食ってかかるが、ジョニーは断固として首を縦にやあ振らねえんだ。万が一、拙い相手が来ちまったら裏からガキと女を連れて逃げろだと? ふざけるなっ!? 何故お前らが楯になるんだっ! それはオレの役目だろう? オレが家族に唯一してやれることだろう!

 オレが吠えるとジョニーに殴られた。痛くも痒くもねえが、ジョニーに殴られるなんて何年振りだ? オレが賞金首になっちまった時以来だったかな…。


「いいかよく聞け、ウルフ。お前が家族の中じゃあ一番腕っぷしもあるし頑丈だ。強い弱いなんて下らねーことじゃあねーぜ? …ウルフ。お前なら家族を俺よりも多く守ってやれる。俺の嫁達や子供達を精々庇ってくれや。お前達もそれで文句ねーだろ?」

「そりゃあよ! 俺の可愛い嫁さんと子供を任せられるのはウルフしかいねーしな」

「ウルフ、妹を頼むぜ! …なんならオフクロも付けるからよ? フヒヒ」

「フシュウ…!!」

「…イヤ、ドナテロ。なに同乗してんだよ? お前は嫁も子供もいねーだろが。さっさと行くぞ」


 そう言ってジョニー達が外に出ていき、扉を閉めた。オレは心配そうにするマルの顔を見つめるしかなかった。


 それからたいして時間が経たないうちに外が騒がしくなる。ついに来やがったか…!


 ガキ共が漂う緊張感を感じとったのか泣き出しちまった。女達が必死にあやしている。オレは耐え切れずに腰を上げる。


「駄目だよっ!ウルフ行かないでっ!ジョニーさんにも言われたでしょ? 皆を守ってって!」

「まる… ダガ聞コエタンダ、微カニダガ。男ノ声デおれ達ガ、奥ニ隠レテルノヲ知ッテルヨウナ、口振リデ喋ル声ガナ」


 マルが表情をより暗くして両手に持つ我が子を強く抱きしめる。

「…なら逃げようっ!裏口から皆でさ?」

「…ダメダ。恐ラク隠シ通路モバレテイル。ちゅちゅ!隙ヲミテ皆ヲ逃ガセ。…頼ム!」

「…止めても無駄だネ? わかタ」


 空を飛べるハーピー?いやハルピュイアだったけか?兎に角、チュチュなら家族の中で最も探索能力に長ける。女達を任せても大丈夫だろう。オレは縋り付く女達をどかして閂代わりに挿していた棍を背負った。


「ウルフ…!」

 マルをまた泣かせちまった。また皆から怒られるな。…だがすまん、オレにはこんなことしかできねえんだ。


 オレはマルとガキ達の姿を目に焼き付けると背を向ける。


「…まる。おれガ簡単ニ負ケテヤラレルハズガネエダロ? ソレニヨ、…名前、マダ決メテネーカラヨ。…スグモドル。約束、ダ…!」


 オレは扉を開いて外に出た。



 ◇◆◇◆◇

 


 なんだ? コイツらは。

 

 それがオレが思った最初の感想だ。

 半獣人の娘。まあ、マルの方が美人だな…自慢じゃあないぜ?

 その身内と思われるエルフのジジイと腰を抜かしているただの男?

 そして見たことも無いモンスター?に曳かれた変な箱にもうひとりその半獣人の女の弟が乗ってるらしい。


 …して、オレの眼の前で堂々と腕を組んでいる小僧。山賊などとぬかすが、コイツら。どっからどう見ても山賊や賞金稼ぎみたいな物騒な奴にゃあみえないぞ? だが、オレ達がこの遺跡に居付いてるのを知られちまったからなあ、要塞や他の集落にはもう帰すことはできねえぜ。ジョニー達はどうすんだ?


 そう思ってジョニー達を伺うが、どうにも様子がおかしい…。なんでこんな相手にまだ武器を下げねぇんだ? 特に、あの目利きであるユキムシが警戒をあらわにしている。…間違いなく、この黒髪のヒューマンひとりに。


 するとその黒髪の小僧が何をトチ狂ったのか上着とブーツを脱ぎ捨てズボンだけになると俺に勝負を挑んできやがった。…しかも素手だと?

 どうやら本気らしい。小僧はザインという名らしいが、その周りでソイツの連れが騒いでいる。そりゃあ、そうだろうよ。オレとこの小僧の体格差は絶望的だ。それは種族の格も相まって、オレにとっちゃあまるで"アリ"だ。踏んで終わり。それだけの力量の差は明確だろう。

 だのに、このザインとやらはまるで負ける気が無いようだ。おかしな奴だ。だがいい、のってやる。不思議とオレは興味を持っちまったようだ。棍と身に着けていたプロテクターを外して地面に放り投げる。もし、他の奴から魔法が飛んできたとしてもだ。オレならば簡単にくたばらねえだろう。というかそんな魔法なり方法を持っていやがったら、とっくのとうに遺跡ごと吹っ飛ばされてるだろうしな。


 オレ達は互いに構えをとった。ジョニー達から野次が飛んでくるが無視してやった。純粋な獣人くらいしか持たねえだろう爪と牙、それに毛皮を持つオレと無手の勝負じゃあ話にならん。オレは素手で人間種なんぞ簡単に八つ裂きにできる。…まあ、殺す気なんてねえが死んだらそれだ。むしろその方が他の連中は言うことを聞きやすいだろうしな。


 だが、その考えは間違いだった。

 奴が拳を握りしめた途端、急に悪寒が走りやがった。拙い!オレは自分でも思った以上の声を張り上げて奴の突き出した拳目掛けて全力の正拳突きを放つ。


 ゴキィン。


 まるで金属製の戦槌で殴り合ったような鈍い音が響く。オレの全身の毛が逆立ったかのようだった。音が消え去っていくほどの時間が流れた後、オレの指にメキッという衝撃が伝わる。


「グガァァァァァッ?!」


 オレの指が折れてやがった。信じられねえっ! 仮に相手が鋼鉄の籠手を着けていたとしても互角、むしろ相手の指がひしゃげることすらできる全力の一撃だったはずだ…!


「おっとっと。痛かったか? スマンスマン★」

 手を押えるオレを見てニヤリと笑みを浮かべやがった。…コイツ!やべーぞ。只の純血のヒューマン野郎かと思ったが、とんだ食わせ物だったな!恐らく徒手空拳のスキル持ちだ。


「ウルフ!どうしたんだよっ!」

「しもうた!奴のクラスは修行者(モンク)系かもしらん!マトモに殴り合うなっ!」

 ジョニーやユキムシ達が叫ぶ。


 なるほど。だから敢えて武器も防具も捨てたか。…聞いた話じゃあ、その手の格闘系のスキル持ちのクラスは装備制限を自ら行うことで能力を高めることができるっていうからな。…よし!この程度なら問題ねえぜ。拳を握って開いてを確かめる。


「おおっ? もう動かせるようになったのか。流石はトロルだな、たいした(・・・・)生命力だ」

「ドウヤラ、おれノ種族ニ詳シイミテーダガ… ソウ簡単ニハヤラセンゾッ!」


 オレは今度は鋭利に爪を振るい、奴を引き裂いた。ちょこまかと動きやがるから浅い傷しかつかないが、それでも確実にダメージを与えられているはずだ。しかし、裸同然の相手なら易々とバラバラにできるオレの爪をもってしてもこの程度の傷とは…やはり肉弾戦に特化した輩なのだろう。


「ザイン様っ!」

「ザイン殿!接近戦では流石に無理がありますぞっ!離れなされっ」

「うおっ。痛てー痛てー!たいした切れ味だな、お前さんの自慢の爪は。あんな馬鹿デッカイ棍棒なんてハナから要らないじゃあないか?」


 奴はオレの猛撃を喰らって流石にまいったのか、後ろに跳んで距離を取った。


「フフッ…タイシタ奴ダヨ、オマエモナ? 強ガリモソロソロヤメルンダナ。傷ガ増エルダケダゾ」


 コイツは強い。殺す気なんてなかったが、悪いが仕留める気でいかせてもらうぜ。


「傷? なにそんなもん… こうさっ!」


 まだ強がりを…流した血もかなりのもんだろうが。並の人間なら意識を保つのも難しくなる頃合いだぞ? そう思った矢先だった。奴の傷が最初からなかったかのようにピタリと塞がりやがったのだ! はあ? なんだコイツ。ヒューマンじゃあなくてオレと同じトロルだったのか? イヤ、同じトロルでもこんな瞬時に傷を塞いだりなんてできるもんじゃあないんじゃあ…!


「よっしゃ!ウルフ。そろそろ決着付けようかね? アンタは今まで戦った相手じゃあ一番だぜ。だから敬意を表して俺のフルパワー(にちょっと手加減して)を喰らわしてやるよ! そうだなあ、もしそれを受けてケロリとしてるようならアンタらの勝ちってことでイイや」


 そう言うや否や、奴の肉体がひとまわり、ふたまわりと大きく肥大していく。以上に発達した筋肉が五体に隆起し、もはや別人の風貌だ。発熱しているのか肌が赤みを帯びている…変身能力ってヤツか? もはや目線もたいしてオレと変わらない高さにまでなっていた。そしてゆっくりと拳を握ってまるで弓を引くように構えて踏み込む。その動きは余りにもスローではあったが、オレはもはや金縛りにあったかのように身動きできずにいる。その恐ろしい死の拳が己に叩き込まれるのを待ちわびていた。


 そして、弾かれた拳がオレに叩きこまれた。





 あ~。痛みすら感じやしねぇ。


 死んだな、オレ…。



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