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山賊の王  作者: 佐の輔
序章
18/35

閑話 目を覚ました山賊達 前編

ウジムシ達、放置プレイされた山賊達のアフターストーリー。


の前編となっておりまする。


「 …!! …いっ!!起きろっ! おい!頼むから起きてくれよっ!? ウジムシっ!」


 男は薄暗い暗闇の中で激しく肩を揺すられ続け、やっと目を覚ました。


 …何処だここは? 暗い…夜か?イヤ、…この独特な湿り気といい、洞窟の中か。風の音がするからそこまで深くではないな。と、男は視線を巡らして瞬時に思考する。

 ウジムシと呼ばれた男がムクリと上体を起こす。こんな状況ではあったが、不思議と体に不調は感じられない。イヤ、むしろ調子がいいくらいだ。まるで(・・・)数日間の間、グッスリと眠り続けていたかのように肉体から疲労が消え去っている。


「一体どうなってるんだ…、ザザ? それに皆、無事か?」

「ああ…やっと起きやがったな。…残念だが、カナブンと新人がどこを探してもいやがらねえんだ…カメムシの野郎がずっと探してんだがな。アイツらたしか同じ村の出身だったらしいからよぅ」


「…そうか」

 ウジムシは表情を暗くして俯く。…新人。ボンレスはここ1年で仲間に加わったまだ20くらいの青年で戦闘能力には期待できなかったが、珍しい食糧を生産できるスキルを持っていたこともあってかなり重宝していた人材であった。特に目の前で膝を付いて暗い顔をしているザザムシには可愛がられていた。


「ウジ、これからどうする? てかよ、一体オレ様達はどうなっちまったんだ? 目が覚めれば洞穴ン中だしよお!外に出てみりゃあ見渡す限りの荒野だっ!? …少なくとも、ここはオレ様達がいたはずの【ジルモ】じゃあねえぞ?」

「やはりそうか…」

 仲間の冒険者(・・・)達は皆一様に表情を困惑で歪める。


 

 そう、冒険者だ。彼らは山賊ではなかった。イヤ、もう山賊ではなくなったといった方が正しいのであろうか。彼らはザインによって意識を刈り取られた後、彼のスキルによってもたらされる極限の能力によって、脳をいじられ記憶と意識などを改変させられていた。

 それは主に3つ。ひとつは山賊としての記憶。ザインは先ず山賊としての略奪行為などに関する記憶を彼らの頭から一切消し去っている。ついでに既に死亡した首領であるミズムシとその弟のフナムシについても最初から存在していないことにした。代わりに彼らを冒険者として人間の代わりにモンスターと戦ってきたという設定にした。ただ、現在のこの世界には冒険者というものは存在していないので、ほぼザインによって捏造された架空の存在ではあるが。これに付随して、彼らの記憶から山賊として活動していた【ロアッツ】や【ステークオ】に関する記憶は消え、生まれ故郷である【ジルモ】をベースに冒険者としての記憶が構成されている。しかし、ザインはうっかりストレージにしまったカナブンや仲間となったボンレスの記憶を消してなかったので、彼らなりに記憶を改変してしまったようである。

 ふたつめは意識の改変だ。弱い者を食い物にしてきた彼らの潜在意識をまるで真逆の『弱きを助け、強きを挫く』といったものに変えた。コレで一端の正義の冒険者達のできあがりだ。更にザインは『罪なき人々を害する山賊や盗賊なんて死ぬほど嫌い』というオプションまで付けていた。

 みっつめは彼らのクラスだ。彼らは強奪行為を働いた際に強制的に変化するクラスの山賊であったが、ザインがナットー達から聞いた話ではそういった犯罪者のクラスの者は要塞などには入れず、場合によっては捕縛や討伐される可能性が高いという。なのでこれらのトラブルを避ける為、ザインは自身のもうひとつのスキル【転職】によって彼らを強制的に山賊になる以前のクラスへと変えることに成功していた。しかし、山賊のスキルである【強奪】はしっかりと残っているので仮にスキルを鑑定できる者がいれば話は別なので、ザインの浅はかさが推し量れるといものではあった。

 ただ勘違いしてはいけないのはコレはチャンスなのだ。彼らがこの世界でやり直せるチャンスをザインは与えただけ。もし彼らがまた悪事に手を染めるようであれば、ザインは彼らを今度こそ淘汰すると決めていた。



「ちょっといいか?」

「どうした? ゲジ、何か気づいたことが他にもあるのか」

 ウジムシに声を掛けた男、ゲジゲジがなにか違和感を感じるのか先程からしきりに胸のあたりをさすりながら口を開いた。


「いやよぅ…俺もまだ混乱してるんだが、…これってモンスターの仕業じゃあねえのかなって思ってよ?」

「モンスターだあ? おい、ゲジ。何でもモンスターのせいにすりゃあイイってモンじゃあねーぜっ」

「おい、ザザ!話を遮んなっ。悪い、続きを話してくれねえか?」


 ゲジゲジは胸を相変わらずさすりながら頷く。

「俺と同じ村の出身が北のダンジョンで"モグラ"をやってるって話をしたことがあっただろ? ソイツから聞いたダンジョンに稀に出るっていうモンスターにサッキュバスっていうのがいるんだが…」

「ああ、それなら俺も聞いたことがある。【精神喰い(ブレインサッカー)】のことだろ?」

「なあ、なんだよその【精神喰い(ブレインサッカー)】って」


 ちなみに"モグラ"とはダンジョンから糧を得る者や、そもそもモンスターが蔓延る魔境で平然と何年、何十年と潜って暮らしているという者を指す。


「なんだよザザ、知らないのか? サッキュバスなんてかなり有名なモンスターだろ? 見たことも無いような妖艶な美しい女の姿をしていて男をたぶらかすのさ。まあ、ダンジョンくらいにしかいないモンスターらしいけどな」

「はあっ?! そんなステキ過ぎるモンスターならオレ様から会いにいくっつーの!」

「馬鹿っ!とんでもなく恐ろしい奴らなんだぞ? 奴らは誘い出した人間に催眠術をかけて脳味噌を吸い出すんだ。そんなことされると下手すりゃ死ぬし、運が悪ければ廃人だぞ。それに奴らの正体はなんかグネグネした貝かなんかの出来損ないみたいな姿らしいぜ」

 それを聞いたザザムシはげぇ~と言ったあとに顔を振った。


「…それで、噂によればもっとヤバイ新種がいるらしくてさ? ソイツは複数の人間の記憶を同時に一瞬で奪える上に、魔法で人間をどこか遠くの場所へ飛ばすことすらできるらいしんだよ…」

「………。そんな奴が本当にいるかどうかは別としてだ。俺達は恐らく魔法かスキルで最近の記憶を奪われた上に、この見ず知らずの土地へと飛ばされた、と? まあ信じられんが、考える限りではそれくらいしか思い浮かばないな。…俺の鎧も何かしらんが砕け散ってるし、モンスターと戦闘中だったと考えられなくもない。…というかよく無傷で生きてるな、俺? …だとしたら、カナブンと新人もはぐれただけで生き延びている可能性がないわけじゃあねえ…だが、俺達がここから動かねえ訳にはいかねえな。…よし!とりあえずカメムシ達が戻ったらここを出るぞっ!」


 ウジムシ達は準備を整えると洞穴から出て近くの集落か要塞を探すことにした。まずは周辺の地理などの情報を得る事が最優先だ。幸いなことに水と食料は無事だった。ただ、こんな高級そうな真っ白いパンや混じり物のない飲み水を手にした記憶など誰もなかったが…。



「イヤ~!コレ本当に美味いなあっ!水だってこんなの雪解け水みたいに綺麗だぜっ。…なあ、もうチョットだけ…食ってもいいか?」


 そう言って袋に手を伸ばす仲間の頭をボコッとウジムシが拳で叩く。

「最低限の水と食料は魔法が使えるヤツとでやり繰りしろ。…はあ、こんな上等な食糧なら今後必要なものと交換もできるだろ? ったく、…アイツがいないと飯の管理が大変だな」

「お~い!大変だっ!」


 そこへ斥候に出ていた仲間達が戻ってくる。

「この先に集落があったんだが、どうやら襲われたるみたいだぜっ!」

「襲われてるだとっ!モンスターか」

「モンスターじゃあねえ!…恐らくだが、山賊だ」


 話を聞いていた他の仲間達の眉がピクリと動き、握った拳にミシリと力が込められていく。


「…行くぞっ!お前らっ!」

「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」

 ウジムシに鬨の声のような気合いで他の7人が答え、腰から得物を引き抜いた。



 ウジムシ達がいた洞穴から東に約2日ほど歩いた距離にある小さな集落はいままさに山賊達によって蹂躙されんとしていた。集落にやっとのことで立てられた吹けば飛ぶほどのバリケードが、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる男達によって蹴られ、斧によって叩き壊されそうになっていた。それを必死に女達が悲鳴を上げながら押さえている。不思議なことに男の姿は見当たらなかった。

 

「この人でなし共っ!私達の夫や息子達を騙し討ちにしやがってっ!」

「ガハハハッ!馬鹿なヤツらだったぜ。お前ら女達を守る為だと言っていもしないモンスターの討伐に乗り出してよぉ~。最後には後ろから俺達に串刺しにされて死んでいったぜっ!あの間抜けどもったらよ!最高に笑えたぜっ!ギャア~ハッハッハッ!!」


 もうバリケードが壊されるのは時間の問題であったが、その喧噪を遮るように小さな悲鳴が集落の外から上がる。


「フィレっ?!」

「エエ~ン、おっかァ~…!」

そっと逃がそうとした集落の少女が山賊達に捕まってしまったのだ。


「おいっ!コイツが目に入らねえのかっ!このガキを殺されたくなかったらおとなしくしやがれっ!この獣交じりのメスどもがぁ! …いや、もう結果は見えてるんだ。余計な手間を掛けさせやがったコイツにはオ・シ・オ・キが必要だなあ~…!」

 そう唾を飛ばしながら言うと山賊は捕まえた少女を乱暴に地面に押さえつけ、その細い首に手斧の鈍い刃を押し付ける。


「やめてっ?! お願いっ!やめてやめてヤメテェェェ!!?!」

 その少女の母親らしき女は必死に懇願するが、その山賊はその姿を見てよりおぞましい笑みを深める。

 山賊が斧を振り上げたその瞬間だった。何故か山賊は自慢の手斧を空中に放り出していた。


「へ? …いぎゃああっ!」

 その山賊の肩に鋭い鏃が食い込んでいた。誰かが山賊に向かって矢を放ったのだ。


「そこまでだっ!このクソったれども!」

「~っ! どこのどいつだァっ?! 横やりを入れやがる馬鹿どもはっ…って、なんだよ同業者(・・・)じゃあねえか?はあ~さてはお前らも狙ってたクチかよ。あのなぁ~この女どもは俺達が何ヶ月も前から狙ってんだよ!このハイエナどもがっ!…いいか?今はな、お前らみたいな新参者に構ってる暇はねーの。…なんなら素直に手を貸せよ。年増なら回してやっかr「…オイ」 あ?」


 静かな声ではあったが、とてつもない怒りを滲ませて先頭に立つウジムシが立ちはだかった山賊に尋ねる。

「…なあ? 俺達がよぉ、なんだって(・・・・・)?」

「…はあ? お前ら、どっこからどう見ても、俺らと同じ山賊(・・)だろーがっ!狂ってんのかぁ~? まあ、そんな赤い髪に肌も白っぽいから、この辺のヤツらじゃあねーだろーがよお」



 ブチッ。



 山賊達が急に黙り込んだウジムシ達を不気味に思い首を傾げる。


「…オレタチガ? …俺達が、てめえらみたいなっ薄汚ねえ山賊だとぉぉぉぉォォっ?! ふざけるんじゃあねぇええええっ!!?! 絶対に許さんっ!ぶっ殺してやらぁっ!!」

「「「「「「「山賊は皆殺しだっ!!」」」」」」」


「えっ」


 こうして卑怯な罠をもちいて集落を襲った名も無き山賊団は滅びた。

 正義の冒険者達の手によって。



 【(元)山賊カメムシ】

 【ジルモ】出身の山賊団【神吹雪】に所属する山賊。だった。

 現在はザインによって記憶が改変され正義の冒険者となっている。

 ちなみにメンバーの中では数少ない魔法の使い手で水の調達などに貢献している。

 ザインによってカナブンと共に首を切断されるも復活。仲間思いの男。

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