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山賊の王  作者: 佐の輔
序章
14/35

そして夜が明けた 【ザイン視点】

この異世界には童貞が少ないらしい(白目)


「え?」

 褐色の肌を持つ無重力系少女が突然振り向いたと思ったら朝焼けの空に消えやがった。


………ええ~。


「なんだ~? そんなに気に入らなかったのかあ? しかし、なんでマユなんて名前が頭に浮かんだのか…わからん。なんでだろ?」

 俺が振り返ると、そこには()のようなシェルターがふたつあった。片方には老エルフと元山賊の青年と獣人の血を引いた老エルフの孫である少年がまだ寝ている。もう片方からはピンク色の美しい髪を持つ老エルフのもうひとりの孫娘の寝息が半開きの入り口から漏れていた。


 …? アレか? …もしかして俺がコレを見て即興でマユ(・・)なんて名前を付けたとか思われたのか? まさかな…ありうるやも。


 でも、だからってあんなに怒ることなくない?

 まあ、女?、女神?心なんてものは40を過ぎた俺でもわからん。ちょっと間を空けてから詫びるとしよう。う~ん、でもマユって名前…いいと思うんだがなぁ~?


 少なくとも不思議と俺の心にストンと落ちる感じなんだよなあ。何でかね? …もしかして知り合いとか親しい仲にそういう名前の子がいたのかもな…。


 そんなことを考えて空を見上げていた俺の背後から声が掛かる。

「…おあっ、おはよう…ございます。ザイン様…」

「おはようございます」


 何故か棒読みの敬語で返してしまう俺であった。


「すみません…私、余りにも昨夜は緊張のせいか、よく…その憶えていなくって…」

 そう言ってキナは身をよじりながら羽織った毛皮で顔を隠す。

 なんだこの可愛い生き物は?


「あ。ああ…昨日は悪かったな… その、疲れもあったんだろうけど、俺が手を伸ばしたらキナが急に気を失ってさ? 俺も驚いてな…」

「す、すいませんっ!わ、私ったら…?!」

 キナが髪よりも濃くその顔を桃色に染めると、恥ずかしさの余り毛皮だけではなく昨夜ザインから貰った真っ白なチュニックの裾まで掴んで顔を更に隠そうとする。って、裾が持ち上がり過ぎて下腹部がチラチラと見えそうになっていた。イカンっ、見ちゃイカン!俺は咄嗟に顔を逸らした。


 …にしても昨夜は本当にビックリだ。まあ、かなり俺も思春期男子の如き動揺ぶりではあったがな。ただ、俺のスキル【極値(マックス・アポーツ)】で【技術力】を極限値の100にした手で、女性に触れることを今後しないと決めるほどには衝撃だった。…特別に彼女が敏感だったのかもしれないが、異世界女性経験ひとり?の俺には判らなかった。

 下手に触って嫌われることにビビった俺はスキルを使用して彼女に触れたのだが、ほんのワンタッチで彼女にキワモノエロ漫画のような悲鳴を上げさせたうえに気絶させてしまった。

 …正直、最初は殺してしまったのではと本気で心配したがな。その後、彼女を綺麗にし、岩の上のジョビジョバも跡形無く処理した。…俺は内心、憶えていないというキナの言葉を聞いてホっとしていた。


「…そのなんだなあ。礼をしたいって気持ちは確かに受け取った。だからもう俺に気を遣う必要なんてないからな?」

 褐色ギャル系天使にも釘を刺されてしまった以上、余計なことは残念ながらできなくなったからな。…チキショーめが。


「っ。…もしやザイン様は私が【半獣人】だから…その、お情けをかけて…下さらないのですか?」

 俺が初めて聞くような彼女の震えた声にギョッっとして振り向くと、彼女は絶望したような表情で目に涙をためていた。


「えっ?! イヤ、ちょっと!違うからね? 俺はむしろケモ寄りと言うか~キナみたいな美少女エルフな上にケモミミ追加なんて犯則スレスレ級のコはむしろ大好物だぞっ!! …んンっ!じゃなかった、好きなくらいだから。勘違いしないでくれよ…?」

 グスングスンとキナはやや乱暴に涙を拭うと、


「そ、そうなのですか? 取り乱して申し訳ありませんでした。…その、私のような半端に獣人の血を引く女は一部の者からは忌避されているものですから…」

「はあ? オイオイ、マジかよ? どんな世界でも馬鹿なヤツがいるもんなんだなぁ~。…キナはそのふつうに…イヤ、かなりの美人だから心配すんなよ? 少なくとも俺はそう思ってるからっ」

「あ、ありがとうございます…」

 何だかとても恥ずかしい空気になってしまった…どうしよう。


「その、な…? さっきも言ったが君が特別俺に対して背負うことは何も無い。でも、俺達はまだ旅の途中だろう? その目的地とやらについてひと段落したら…。その時にまだ俺に礼がしたいとキナが心から思うようなら、その時こそしっかり受け取るよ。俺にもまあ、色々とまだ言えない理由があるんでな。それでどうだろ? あ、しつこいようだけど俺がキナを毛嫌いするようなことなんてないから」

「…はい」

 キナは顔を隠して小さな返事をする。…頼むから裾を戻してくれ。


「はっはっはっ…。朝から何やら良いものが見れたようですな?」

 いつの間にかナットーの爺さん達がシェルターからゾロゾロと出て来ていた。

 …まさか、ずっと覗いていた訳じゃあるまいな?


 キナの弟であるエダマノがまだ顔を赤らめている姉の顔を不思議そうに近づいて覗き込んでいる。やめてさしあげろ。

 キナはナットーの耳元で何か囁くと、彼女を寝かせていたシェルターに足早に駆け込んでいった。


 ナットーは渋い顔をすると俺に軽く頭を下げた。

「ザイン殿、申し訳ありませぬ…儂の孫娘がまた世話を掛けさせてしまったようでございますな…?」

「…あ、ああ。気にしないでくれ。…彼女には傷ひとつつけちゃあいないさ、爺さん。…正直に言ってしまうんだが、俺は女を相手する勝手に疎くてな? ぶっちゃけ扱いに困っている」

 俺はぶっちゃけることにした。見栄を張っても仕方ないのだから。


 ナットーとボンレスはやや驚いたような表情をする。エダマノだけはまだ寝ぼけたような表情をして首を傾げた。


 ボンレスが意外だなという言葉を顔に貼り付けて、

「まさかザイン様が女を知らないとは…あ!僕ごときが失礼なことを言いましたっ。その…使徒様?はそういう守り事があるのでしょうか?」

「いや。多分無いと思うぞ? というかボンレスこそあるのか?」


 俺はむしろこの少し気の弱そうな青年なら俺と同じ童貞である可能性があり、心の支えになってくれるのではと勝手ながらに信じていた。


「はあ。その…僕が成人した時に村の女達が世話してくれたので。恐らく女のいない村でない限りは大抵の男がそうだとは思いますけど…?」

「え”えっ?! その話、マジなのっ」

「う~む。我らエルフ所縁の者とて特に病や祭事で拒む者がおらなければ、まあ同様かと思いますぞ?」

 ボンレスが恥ずかしそうに頭を掻き、ナットーが顎をさする。…まさか、童貞のいない(端的に言えば)世界があるとは驚きだ…!


「…あのさ、成人って何歳からなの?」

「13です」

「エルフも13ですぞ」

 中2っ?! 下手したら●学6年生だぞっ!そんな歳で童貞を卒業だと…!しかも筆おろしが何となく義務化というか当然のイベントとして存在しうる可能性が濃厚だ。…信じられんっ!

 俺は恐ろしいものを見るような目でこの中でまだ俺の味方であろうエダマノを見やる。…俺達、まだ仲間だよね?


「はあ。まあいいや、俺はまだこの世界のことをよく知らないんだ。旅の途中でまた色々と教えてくれよ爺さん。ボンレスもな?」

「勿論ですとも」

 老エルフと青年は互いに目を合わせると俺に向かって微笑を向ける。


「さあ、朝飯にしようぜ? …といってもパンだけどな」

 俺は【ストレージ】から片手に取り出したパンを忌まわし気に眺めると気紛れに鑑定してみる。


 【女神のパン】

 女神から与えられた食物。

 コレだけで1日に必要な最低限の栄養素を賄うことができるとされる。


 …ホントか?単なるちょっと美味いだけの食パンのくせして。


「んじゃ、悪いけどボンレス、また火を起こしてくれるか? コレ焙ったらもうちょっとイケると思うんだよね」

「こんな真っ白なパンを焦がすなんて、そんな勿体ない真似は僕にはできませんよ。ハハ… ―――"火の創成(クリエイト・ファイア)"」

 そうボンレスが俺の前で呟いて人差し指を火が消えた焚火に突っ込むと、その指先がにわかに赤く輝いて小さな炎が生まれた。それを焚き付けの枝をもう片方の手で弄りながら燃やしていく。うーむ、まるで人間チャ●●マンだなあ。ボンレスの顔とくっつきそうな距離で俺はその一部始終をジィッと観察する。


「…な、なにかありましたか? ザイン様」

「お構いなく…なあ、ボンレス。他にどんな魔法が使えるんだ?」

 そう俺が問うと、ボンレスが指を振るって灯っていた火を消し、考え込む。


「う~ん。僕は魔力だけはある方だと褒められた事があるんですが…属性スキルを持ってないんで魔法の才能は無いと思います。子供の頃にひと通り創成系は大人から習いはしましたが、普段からマトモに使えるのは"火の創成(クリエイト・ファイア)"、後は最低限の水が出せるかってほどの"水の創成(クリエイト・ウォータ)"くらいですね。他の属性はイマイチ使い熟せていませんよ」

「属性スキル? 俺はそのどちらも使えないんだが?」

「イヤイヤ…ザイン殿ほどの魔力をお持ちであれば、このような魔法はすぐにでも使えるでしょう。なに、儂の孫も3歳を過ぎた頃には使い方を覚えましたのでな。ホホホっ」

 早っ!ホホホじゃあねーよ、3歳はないだろ流石に。…イヤ、この異世界の常識ではそうなのかもしれないがな。


 俺がエダマノの顔を見ると彼がコクリと頷いた。マジか。



 キナが身支度を済ませて戻ってきた俺達は、軽く朝食を取ってから荷物を纏めてこの場所を離れた。

 ボンレスが山賊を寝かしている洞穴をまだ見ている。あんな目に遭ってはいたが何か思うことでもあるんだろう。俺は声を掛けずに歩き出した。

 暫く歩き続けたが、流石にこんな過酷な世界を生き抜いているだけあって疲れも見せずにいる。俺が数度、キナやエダマノを心配して声を掛けたが、「ザイン様はお優し過ぎる」と窘められてしまうくらいだった。


 話をしながら歩いているとあっという間に時間が流れて日が傾きはじめた。…そうか、今までは唯一の話し相手はアイツくらいだったからなぁ。俺は右手の腕輪をチラリとみてから何となく空を見上げてしまっていた。


 丁度良く開けた場所で火を起こし、俺達は車座になってパンを片手に今後を話し始めた。

「うむ。空模様も風向きも良い。これなら後2日ほどで儂らが目指す【パアルス遺跡】に辿り着くことが叶うでしょう」

「そっか。その遺跡とやらの近くにいる爺さんの仲間に会うのが目的だったよな…」


 俺は話半分に聞きながら、またナットーが【土木魔法】で創り出したシェルターを見ていた。


「…ザイン殿。では少しでも恩が返せればよろしいのですがの…お約束した通り、恥ずかしながらこの儂が魔法について少しばかりお教え致したいと思いますが。いかがですかな?」

「おおっ!そりゃあ願ったり叶ったりだ!早速頼むよっ」

 俺は追加のパンをキナとエダマノに押し付けると前のめりになる。


 そんな俺を見てなのか皆が笑みを零す。エダマノは相変わらずパンを丸呑みにしていたがな。ちゃんと噛んで食えよ?


「フフフ…儂の専攻は【土木魔法】ですがの。一応こんな身ではありますが里では魔法指南役に席を置いておりました故、滞りなく魔法の知識をお教えできるかと思います。…では先ずザイン殿にはあらゆる者が持つ魔力と【混成魔法】についてからお教えさせて頂きまする」

「コンセーマホウ?」


 その夜はナットーを師とした即席の魔法講習が行われることとなった。



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