はじめての夜
皆様、連休は有効に使えていますでしょうか?
私はもう1日半以上を惰眠に使用してしまいましたw
ザインは土下座する面々に困った表情をすると、片手で頬を掻きながら自分の左腕を腰の【ストレージ】へと収納する。
「…自分のカラダを嬉々として喰わせようとするとか。ちょっとサイコパス過ぎるんじゃあないのぉ? ●●●●マンかよ」
「うっせ!別にコイツのスキルを通せば問題ないだろーがっ!サイコパスとはなんだ?! サイコパスとはっ!優しさと言えよっ!愛と勇気だけの●●●●マンに謝れっ!…それに俺なら●●●おじさんがいなくても好きなだけ復活できるからいいだろう? …まあ、今後の食糧問題はかなり重要なんだぜ。これから人数をそれなりには、増やさなきゃあいけないんだろ?」
素でツッコミを入れた不可視の存在、褐色天使の少女にザインは軽く逆ギレする。
「まあねえ~★ 取り敢えず目標としては100人は必要っスよ? 人間の集め方は特に方法は問わないけどぉ~… あまり突拍子もないことして生まれた恐怖心は【信仰】の質を歪めて濁らせるかもだしっ」
「わかったよ。コレは最後の方の手段としておくさ… さてと。…なあ、悪かった。驚かせちまったなあ? ホラホラ、頼むからさあ、頭を上げてくれないかな?」
ザインは未だに頭を下げていた3人の顔を必死になって上げさせる。
するとピンク色の髪を揺らす【半獣人】の少女キナが祖父であるナットーの耳元でなにか囁くと、おずおずとザインに話掛けた。
「…あの、ザイン様に厚かましくもお願いがあるのですが」
「ん? なんだ… あ!パンならまだ今日はまだ100個は軽く出せるぞ? ハハ~ン、実は食い足りなかったか? 遠慮すんなって言ったのに」
ザインの【ストレージ】には毎日100人分までの食料と水が補充される。ちなみに内容はパンが200斤と水の入ったボトル(500ミリリットル程度)が400本である。
そう言って腰元に手を伸ばそうとするザインを見てキナは驚いた表情を一瞬だけ浮かべるが、激しく顔の前で手を振ると、
「い、いえっ!食べ物ではなくて、…その、身を清めたいので水を頂けませんでしょうか?」
キナは顔を赤く染めながら俯いてしまった。
なるほど、どんな世界でも女の子は綺麗好きなんだなあ。などと呑気に顔を緩めたザインは腰の女神から下賜されたマジックアイテムに手を突っ込むと、清潔な布と水のボトル2本をキナに手渡す。
「そうだ。コイツに着替えたらどうだい? 丁度いいのがあると思ったんだが…ああ、コレコレ!」
そう言うとザインは【ストレージ】から汚れの無い白いチュニックを取り出す。これは山賊達から押収したものだが、使えるものは使ったほうがいいとザインはのんびりと考えていた。
この異世界【シットランド】に現在残る衣服文化は非常に衰退しており、一部の地域と民族を除いてはこの丈の長い大きなティーシャツのようなチュニックと呼ばれる服かローブ1枚を素肌に羽織るくらいが一般的な恰好であった。
ザインも現在上着が汚れてしまったので、代わりにチュニックを着ている。ただ、この世界には下着という概念がそもそも無いか、忘れ去られているようで山賊からの押収品からは見つけることができなかった。代用できそうなものはせいぜい毛皮の腰巻くらいであろうか。
キナも既にボロボロで所々肌が露出するほどに穴が開いてしまっているが、動物の毛を織った布のようなものに首を出す穴を開け、帯で締めただけの貫頭衣としても最低限のあからさまに奴隷などに着せるようなイメージしか湧かないような代物であった。
キナはザインから渡された服をおっかなびっくり抱きしめると、
「このような綺麗な御召し物を頂いて…よろしいのでしょうか?その、汚してしまうかと…」
「ん~、気にすんなよ。その服だっていつまでも大事にしまっておくよりも、キナみたいな可愛い子に着てもらう方が嬉しいはずだろう?」
そうザインは恥ずかしそうに鼻の下を擦る。
キナは殊更に顔を朱に染めると、ザインに頭を下げて足早にそう離れてはいない岩場の影へと走って行った。
それをナットーが見届けると、ひとつ咳払いをする。
「では、そろそろ明日に備えて寝るとしますかのう。ザイン殿は先にお休みくだされ。見張りは儂とこの若者とで交代して行います故…」
「イヤ、それには及ばないぜ、爺さん。暫くは俺が夜も番をさせて貰うぜ。ああ、アンタ達を信用してないとかじゃあなくてだな? 俺のスキルで周辺を広く把握できるんだ、今のところここら一帯にはモンスターのモの字も見当たらない。だから安心して寝なよ。今日は疲れただろう?」
そうザインが言うと、ナットーとボンレスは頷きあい、
「では、お言葉に甘えてそうさせて頂くとしましょうぞ。ですが、せめて寝床の準備だけは儂にさせてもらいたい…」
そう言って老エルフのナットーが焚火の前から立ち上がると、近場の地面に向かって手をかざす。
「―――大地よ、我らに雨風を防ぎ、一晩の守りと安らぎを与えたまえ…! "土の繭"っ!!」
地面がにわかに輝いたかと思うと、地面がモコモコとうごめき出した。するとものの数秒で面前に巨大なタマゴ型の土の塊がふたつ現れたのだ。その表面は不思議な艶を帯びており、ポッカリと人ひとりが通れる穴が開いていた。
「…ふう。何とか残りの魔力でふたつ建てられましたわい」
それを驚きの表情で見ていたボンレスともうひとり、ザインがプルプルと身を震えさせていた。
「すっ、すげえええええええええぇぇぇっ?! まっまま、マジモンの魔法だあああああぁ!!」
荒野の夜に男の喜びに似た絶叫が響き渡った。
====(ここからザイン視点)====
俺は目の前で起きたことに、この異世界【シットランド】に来てから1番興奮していたかもしれない。
目の前には縦3メートル奥に7、8メートルはありそうなタマゴ型の何かがふたつ横たわっていたからだ。俺は我慢できずにすぐさまそれに飛びついていた。
「うわわ~。爺さん!いったいこりゃあ何なんだよお、すっげえなあ~」
コンコンと拳で表面をノックするが、かなり頑丈そうだ。恐らく素の【攻撃力】が10(それなりに上等な武器を装備したのと同等)の俺のパンチでもまず壊せないだろう。ん~セラミックのような材質かな?匂いは…スンスン。うん粘土とかではないな。…普通に砂や土の匂いに近い気がする。
それを眺めていたふたりは首をかしげる。そしてボンレスが声を出した。
「あの…ナットーさんには申し訳ないのですが、僕ならまだわかりますが…ザイン様ならば特に驚くことではないのでは?」
「左様ですなぁ。儂の魔法などで驚いていただけたのは嬉しくも思いますが、ザイン殿ほどの御方であればですなぁ…さほど難しくはないレベルの魔法ではありますまいか?」
俺もまた、ふたりとは鏡合わせのように首を傾げる。
「オイオイ、俺は魔法なんて使えないぞ?」
「ええっ?! ではザイン様は戦士様なのですかっ!し、しかし昼間に武器も持たずにミズムシを… てっきり、僕は強力な上級魔法を使われたものとばかり」
「ううむ…実は儂もそう思っておったのだがな若いの? しかしだ、あの刹那にザイン殿からは魔力の流れをまるで感じられなんだ…。恐らく隠蔽系の魔法なのか、それともスキルなのかとは思っておったのだ…」
俺は巨大なカプセル状の物体にへばりつくのを止めると、頭を掻きながらふたりに答える。
「いや~、アレは素手で直接殴っただけだぞ?」
「「えっ!?」」
ふたりは今度こそ化け物を見るような目をして驚いたので、慌てて言い訳をする。
「あァ~…まあ、スキルを使ったのは確かだがな。流石に素であの威力は出せないよ? ま、俺のとっておきってところさ…」
俺は適当に誤魔化すとふたりは顔を見合わせている。
「ところで爺さん、こりゃあ一体なんなんだい?」
俺は穴からカプセルの中を覗き込んだ。中は不思議なことに間接照明のような温かな光に照らされている。それに何だか温かいな…。
「これは儂の【土木魔法】の中級魔法のひとつ、"土の繭"です。簡易な土の天幕を創り出す魔法でしてな、詰めれば7人か8人ほどは押し込めますぞ。追加の魔力を送り込まねば1日ほどでただの土くれに戻ってしまいますがなぁ、モンスターなどの危険が近づくと硬化する特性もあって旅には中々に重宝する魔法ですな…」
「へぇ~。いいなぁ、俺も覚えられる?」
そう俺が尋ねると老エルフは自分の髭をさする。
「まあ、不可能ではないと思いますがのぉ。魔法の素質がないものには辛い道程になるかもしれませんがの、儂の見立てではザイン殿の魔力は淀みなく巡っておられるようですしな? しかし、…夜も更けて参りましたし、詳しい話は明日以降にでもいたしましょう。どうですかな?」
「それでいいよ!いや、楽しみだなぁ~♪」
俺は魔法習得の可能性に胸を躍らせていると…。
「…では、ザイン殿そろそろ儂らは失礼致す。若いの、スマンが孫を頼めるだろうかの?」
「わかりました。任せて下さい」
ボンレスはキナの弟であるエダマノを毛皮のベッドロール(寝袋みたいな布団)ごと抱え上げてシェルターの中に入っていく。
「ザイン殿はコチラをお使い下さい。では…」
「え? おい、まだキナが…」
そう言ってナットーはシェルターに入っていくと入口がシュルルと音を立てて閉ざされていく。
「ああ、ちなみにこの繭は防音性にも優れております故、儂らに気をつかう必要はござらんですぞ?」
「ん? 防音?チョット待ってよ…」
しかし、ナットー達が入ったシェルターは完全に閉じてしまった。
「全く、何だってんだよ~? 普通ならボンレスと俺がセットじゃあないのかよ。これじゃ…」
まだ岩場の影にいるであろうキナのあられもない姿が目に浮かぶ。
俺は頭を軽くブルリと振ると、近くの岩の上に焚火を背にして飛び乗り、ドカリと胡坐をかく。
「なあ、天使いる? …やっぱ、これってさぁ~今日のお礼にあのキナって娘が夜の相手をしますってことなんかなぁ~? なあって。…おい、天使ってばっ!いないのかぁ~?」
俺は右手に嵌めた腕輪を執拗に擦りながら辺りを見渡して褐色少女を探す。こういう時にも助言をくれるのが真のサポートと呼べるんじゃあないでしょうか!どうなのっ?! なんとか言いなさいよっ!!
「…あの。ザイン様」
背中から掛けられる声にドキリとする。
恐る恐る後ろを振り向くと美しい少女が潤んだ瞳で俺を見つめている。焚火の光を背に受けて立つ彼女の美しい桃色の髪が幻想的に揺れている。その姿を見て思わず思考が一瞬空白となり、無意識に唾を飲み込んでしまう。
彼女は俺を見下ろしながら、震える口元で
「こんな私が…その、ザイン様に身体を差し出すのは無礼とは思いますが。…私の偽りなき気持ちですっ! …ど、どうか。…私にお情けをっ」
そう言って絶望的に美しい白いチュニックの裾を掴むとススス…とめくりあげていく。そして胸元まで手を持ってくると目をギュッとつむってしまった。その体は極度の緊張からか震えていた。
俺は目の前の光景を信じられずにいた。
良かった…。彼女が目を閉じていてくれて。
現在、俺は彼女の震えの比ではないほどにガタガタと音を鳴らして震えていた。もはや自分の鼓動の音しか聞こえない。
やべぇ…どおしたらいいんだよぉ…!
待てっ!待て!待て待てっ!俺はもう40だぞっ!こういう時はどうしたらいいかくらい判断できる歳だろーがっ!
…アレ?俺の記憶に女性経験のジョの字も存在してないんだが?
まっ、まさか俺は童貞だったのかっ?! 40超えて童貞とかどこの修行僧だよっ!徳が高すぎるぞ…。
いや魔法使いになってもいないんだから…多分、転生した時にその手の記憶を削られたんだろう。そうなんだろう?そうって言ってくれ誰かっ!
イヤイヤイヤイヤ!冷静に。クールになるんだよ俺ぇ~。この現状をどうにか突破せねばならんぞ…!
とりあえず、俺は前をよく見た。
…実に美しい。まるで人形のような均一のとれた鼠径部だな。なんかこういうの黄金比とか、切れてるっていうんだっけ? うん。まるで初めて直に女性のプライベートゾーンを見たような気分だ。…もしかしたら本当にそうなのかもしれないが。
実に柔らかそうなお腹だな…いや肉付きが良いとかの意味ではなくて、彼女の下腹部はフワっとした金色にも似た毛で覆われていた。…だいぶ前に外国のヌードのピンナップを見た時は、結構毛深いなぁと思ったものだがそれともまた違う。思わず手を伸ばしてしまうが…はっ!やばいぞっ。昔友達が彼女とそういう仲になった時、あまりに触り方がやらしくて嫌われたとかって言ってたっけなあ~…どうする?
…あ。そういう時こそあのスキルじゃんか!
☛スキル【極値】により【技術力】が100に変化。
スキルを継続する限り、他の能力値が1に変化。
「よしっ!コレならば…(ドキドキ)」
「っ?!」
キナのお腹にそっと触れて撫でる。…やべぇ、めっちゃ触り心地良い…!そして温かくて、思ったよりもシットリしている感じなのに…このサラサラとして柔らかい感触、…癖になりそうだ。
するとビクンッビクンとキナが身体を仰け反らせる。
「ンひゃああああああああああぁァぁぁっ?!」
静寂に包まれた深夜の荒野に嬌声が響き渡った。
【ナットー】
∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴∴
ナットー:男:70
クラフトマン/レベル20 属性:-・・・±□・・+(秩序)
【攻撃力】00 【防御力】00 HP 6/6
【生命力】03 【敏捷性】02
【魔 力】09 【精神力】08 MP:18/9/5/0
【技術力】13 【洞察力】10 (18/9/5/0)
【注意力】05 【魅 力】08
スキル:【土木魔法】【建築学】
∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵∵
【クラフトマン】
生産クラスのひとつ。主に職人や技術者を指すクラス。
クラススキルでもスキルの内容が異なる。
【土木魔法】
クラフトマンの魔法スキル。アイテムを加工・地形を変更できる。
限定的な土魔法でもあり、バリケードなども設置できる。
【建築学】
クラフトマンの知識スキル。建設物への創造・破壊に影響する。




