表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天上織姫  作者: 終崎
3/4

3朱姐の店


市場にある酒場のなかで、そっけないほど武骨な店構えをしている、それが朱蘭しゅらんの店だ。

人柄ゆえ皆から朱姐さんと呼ばれる。


首のすっと長い、やわやわとした柳腰の美人である。

でもその容姿とは裏腹に中身は竹を割ったような、そこいらの男より男前。

それゆえに、悩み事、揉め事がいつの間にか寄ってくる。


「珍しい取り合わせだね。例の…?」

松の実の胡椒炒めを盛りながら、朱姐が笑いかける。

胡瓜と鶏の塩漬けをあてに、豪快に冷酒を交わしてるのは、織物の流親方と靴の行親方。


「流石に話が早いな。 」

「久々の宮女狩りだもの。 まあ、婆さんの時代は本当に力づくだったみたいだけど、今回はそうでもないんだろ?」


「しかし、俺たちにとっては痛い。」

宮女狩り。


まだ紂の

美しい娘を、郡司が都に連れていく。 娘たちは宮女になり王に仕える。

しかし、実際に王の側に侍るのは貴族の娘たちで、宮女の殆どは雑用や酒宴の賑わいで独身を貫く。


気まぐれに下賜されたり、捨てられたり壊されたり。

そんな噂がつきまとう。


この国が貧しかった頃、口減らしに 妓楼か宮女か…と言われていた。


実際に悲惨だったかどうかはわからない。

戻ってきた少女はいないのだから。


今回のお触れは職人の親方達に回ってきた。


『 紂王即位の礼に使節団を送る。

技芸に秀でた職人を差し出せ』

親方たちは 詳しい説明を求めたが得られなかった。

大国の技術を学ぶ機会でもある。


が、人材が流出する危険もある。


本当に差し出して大丈夫なのか。

育てあげた職人を誰より手放したくないのは親方だ。


「おめえんとこは娘っこばかりだから、二番手でも送ればいいだろーが」


行が言う。


「ひでえな。

紂を見せてやりたい奴がいる。

あいつなら、一年で他の奴の十年分吸収してくる」


魚のアラの唐揚げにかぶりつきながら、流は......また悩んでいた。


朱姐さんが酒をつぐ。


「使節って、太子サンのお守りだろ?お手がついたら側室には為れるんだから......そういうのに向いてるべっぴんちゃんにすれば?」

親方二人が がばっと身を起こす。

「やっぱりそうか! そんな事のために今まで育てたんじゃねえよ!」

「あら?そんな事って。 女の子には夢だよ」

「馬鹿いうな。そんな柔い根性で職人がやってられっか!

そんな暮らし......そりゃ贅沢できるだろうが......」


「その贅沢な暮らしの、きれいな服や靴に目が無い女のお陰で、あんたら飯食ってんだろ?

小さい事言わずに、女の子に外の世界見せてやんな」


ふぅ~と煙を吐き出して、煙管をクイッと回した。



酔いが醒めたかと思った。


流は、この夜のこの瞬間のことを後に人にそう語った。


行が酒を注ぐ

「あの下駄作りに来た娘、末おっそろしいな。」

「そう思うか?」

「ああ。織物のことしか見えてない。この世に半分しか居ないみたいに。目ぇ キラキラさせて…。

うちの工房の野郎共の魂抜いていきやがった。 細くて白くて、お人形みたいじゃねえか。

ああいうのに惚れたら仕事が手につかねえ。おっそろしい」

「おまえらしいな。 俺も瑠花の純粋さが、恐ろしい時がある。

あいつが織物を失ったらどうなるのかな、とかな。


… 広い世界か。

足を休めろと言っても聞かねえだろうしな…。」


「女の子は恋すれば変わるわよ。 惚れた男に休めって言われたら仕事ほっぽりだすのにねえ。 」


「うちの野郎共は、あの織姫に会えるなら喜んで使節団に入るだろうよ。」

「あらぁ、こんないい女の前で他の美人の話がよく出来るわね。」

新しいツマミを置く。

「違う、あいつは美人とかそういうんじゃねえ。ただ … あいつの中には鬼がいる。上に行く奴は大抵そうなんだよ。給金とかじゃなく、良いものを作りたいという、欲。...モノつくる人間には凄味が伝わるのかもな。」


「じゃあこの街に置いとくと、引く手あまたね」

朱姐は、ふいに店の角に目をやった。

(風伯、うまくやんな)


少しだけ杯を掲げて、風伯は飲み干した。

王の思いつきだけでは、事を成し遂げられない。民の動揺を汲み取って修正するのも、風伯の役目。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ