2話 愚か者
そんなに広くない、言うなれば畳3枚ぐらいの広さであろうか。高さは2メートル弱の懲罰部屋に座る男が1人。月明かりの光がさほど大きくもない隙間から部屋を照らしていた。
「あのクソジジイー!どこに転移させているんだよ。ここどこだよ!部屋だよ。懲罰部屋みたいだよ!」
俺は非常に荒ぶっていた。ふつうに考えて欲しい。もしあなたが転移させてくれと頼まれたら、どこに転移させますか。間違っても懲罰部屋に転移させたりはしないだろう。
しかも魔王城内というオプションつきだ。ここから扉を開けたら普通に出られるがここから出たら魔王城。丸腰状態で魔王に
「すいませーん。なんかここに飛ばされちゃったみたいなんですけど、出口教えてくれませんかー?」
と言ったらどうなるか。消し炭だ。
そもそも俺は異世界ハーレムうふふふ展開を期待していたの。ドラゴンとか魔王とかいらないからさぁ。クヨクヨしながらも次に何をすべきか少し賢い頭で考えていた。そして1つの名案が浮かぶ。彼曰く扉の下から外覗けるんじゃね作戦だ。
体勢を横にし、手を枕がわりにした。それと同時にポケットから何か紙のようなものが落ちた。
「なんだこれ。」
不思議に思い拾うと[異世界ガイドブック]と書かれた小さい手帳があった。キタコレ!こんなの持っていた覚えもないけど興奮しながら1ページをめくる。
「転生者の方へ。ここは異世界です。」
「そんなの分かってるんだよ!望んでこっちに来たんだからさぁ」
1ページ目はこれだけだった。嫌な予感がしながらも2ページ目をめくる。
「この世界での転生者へのチート能力は次のように与えられます。心の中で強く欲しい能力を願うこと。ただしこれは2回だけしか行えないので慎重に行って下さい」
あの時野太い声のジジイが最後の願いと言っていたのは間違いではなかったのか。で、結局俺はどんな能力なんだろうか。期待しながら3ページ目をめくる。
「なお自身のステータスを確認するには鑑定の能力が必要です。今だけなんと、初回無料で鑑定できます!」
「え?鑑定金いるの?まぁいいやさっさとしてよ」
鑑定される気maxだったが鑑定が行われない。彼は少し賢い。過去の体験からなぜか敬語を使わないと要求が受け入れられないということに気がついていた。善は急げというようにすぐに行動をとった。
「鑑定して下さい。お願いします」
突如頭の中に直接情報が流れてくる。
四川隼人
種族:人間
ステータス
HP:42
SP:12000
MP:8
打撃攻撃:3
打撃防御:5
魔法適正:1
魔法攻撃:1
魔法防御:1
速度:15000
スキル:時間停止〜60秒間あらゆる法則を無視し時間
を止める(24時間に1回)
時止銃〜静止した時間で顕現可能。あらゆる法
則を無視し、対象物を無に返す(60秒
間)
操時〜自分の半径2メートル範囲内の時間を自
由に操る(常に)
テレポート〜視界に入る場所に転移可能〜
称号:時の支配者〜自分は時の影響を受けない〜
転移者〜1度転移した場所に転移可能(上限2)
「.......」
まず、彼の感情を表すとしたら焦り。攻撃とか防御とかが低く落ち込んでいたが魔法適正1ときた時は、この世の終わりかと思わせる顔をしていた。
しかし次の感情は喜び。時間を止められるスキルを貰ったら誰だって嬉しいだろう。他にも難しそうなスキルがあったが時を止める能力に夢中になっていた。
新しいオモチャを貰ったらどうするか。もちろん使うに決まっている。それと同様に俺は時を止めた。
世界が止まる。今こそこの独房から脱出の時。怪盗四川大脱出だ。
独房から出ると細い道が長く続いてる。そこを通りすぎると、広場に出た。広場にはさまざまな魔族と思われるものが食事をとっていた。
吸血鬼。鬼。メジャーな奴からよくわからない種族達がいる。これだけの魔族を従える魔王とはどんな者なのか。想像しただけで寒気が立った。
突如脳内に警告が鳴り響く。時の支配者になったからなのか。時を止めてから何秒立ったかが不思議と分かった。
50秒経過。グズグズしてはいられない。脱出を諦めすぐさま懲罰部屋へと戻った。
60秒経過。再び時が動き出した。
、、、。やってしもうた。何の計画も立てずに俺の1日1回限定の時止めのスキルを使ってしまった。改めて夜神月の偉大さを感じる。
デスノートというチート本をゲットしたにもかかわらず、自惚れることなく能力の検証をし、計画通りという名言を叩き出した男。
俺は能力の検証をしようと決めたのであった。
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私は今年83になるおばあちゃん。結婚はしていなく自由な独身生活を続けてきた。仕事を頑張り今は年金で過ごしている。ちなみに住んでいるのはそこそこのマンションの3階に暮らしている。
いつものように3階から1階へエレベーターで降りようとすると、5階から降りてきて3階へと止まった。
先に乗っていた若い男がいた。
「すまないねぇ」
「イイですよ。気にしないで下さい」
一応謝っておいたがこの青年非常に好感が持てる。人と話したのは実に久しぶりで、70年ぶりの恋心が芽生えてしまった。
「じゃあ。僕はここで」
「あら、もう降りるのかい?」
「はい、ではまた。」
青年は行ってしまった。だが、同じマンションの住民だ。また会えるだろう。
1階に着き普通に降りた。すると目の前にありえない光景が広がっていた。
見えるのが階段ではなく王宮。人ではないものが自分の前にひれ伏しているではないか。それに皆口々に魔王様と言っている。
それに体が異常に軽い。このまま飛んでいきそうな、そしてなんでも出来るようなそんな気がした。
それにしても周りがうるさい。
「ちょっと静かにしてちょうだい」
途端に辺りが静寂に包まれる。人ではないとはいえ従順な者たちだ。
いきなり訳の分からない所にきたのだ。誰か教えてほしい。この子たちはなんでも言うことを聞いてくれそうなので尋ねる。
「誰か状況を説明してちょうだい」
一番前にひれ伏していた頭にツノが生えているやつが答える。
「魔王様。あぁ魔王様。ついに復活されたのですね。これから我らを導いてください。魔王様はつい先程復活の儀式により復活されたのです。」
おばあちゃんは訳がわからなかった。