ひょんなことから最強に
俺の名前はマーク。
Eランク冒険者として日々活動している。三十六歳のおっさんだ。
冒険者とはモンスターを討伐することを基本とし、それ以外にも薬草採集などもする職業である。平民から貴族まで、色々な人から依頼を受けて仕事をしている。
一番冒険者の中で位が高い『Sランク冒険者』になると、国から依頼を受けることもあるのだそう。まあ、俺には関係のないことだが。
そして、今日も冒険者ギルドにやってきていた。依頼を受けるためだ。
扉を開けると、そこには朝っぱらから酒を飲む冒険者達。「ダンジョン」に潜って一攫千金でもしたのだろう。死ねばいいのに。
そいつらは俺の顔を見るや――
「うわっ、草むしりのおっさんじゃねぇか」
「あの歳でEランク冒険者なんだろ? さっさと辞めちまえばいいのに」
「私もああはなりたくないわね」
ああそうですか。
冒険者は才能が必要な職業だ。才能がなかったら死ぬし、努力なんかでどうにもならない場合がほとんどだ。俺には才能がなかった。圧倒的になかった。
死にたくはないから、「草むしりのおっさん」なんて言われても薬草採集を続けているのだ。
だがこれも慣れてしまえば問題ない。
俺は無視をして受付嬢のところに向かった。
担当してくれるのはいつも同じ人だ。目の前には、ショートカットで茶髪という可愛らしい少女。この人が依頼などを取っておいてくれている。
「おはよう。シャロ」
「おはようございますマークさん!」
少女の名前はシャロだ。
冒険者からも人気がある受付嬢だ。なんで俺みたいなおっさんを担当してくれているのか分からない。このような可愛い娘はSランク冒険者の担当をするのだが……。
「なんかいい依頼はあるかな?」
「えっと……これとかどうでしょうか」
シャロが依頼が書かれた紙を渡してくる。
【――ウルフの討伐。最近はモンスターの動きが活発化しているため、最低十匹は狩ってくること。基本報酬二万アル。追加報酬一匹毎に千アル――】
ふむ。討伐依頼だ。しかも報酬も多く、冒険者ならすすんで受けるであろう依頼だ。普通ならだが。
「シャロ? 俺が討伐依頼を受けないことは分かっているよね?」
「ええ、知ってます。知っているから討伐依頼を受けてもらいたいのです」
「それは……死ねと言っているのか?」
「そんな訳ありません! マークさんの実力を信じているからです。薬草採集ばかりしていても、冒険者ランクは上がらないのはあなただって知っているはずです。マークさんの剣術には目を見張るものがあります。高難易度の依頼を受けることはできないにしても、あなたにはCランクの実力はあります! 受付嬢として、それだけは断言できます」
胸を張って、でもシャロは悲しみに目を染めながらそう言った。
「買い被りすぎだよ。俺にそんな実力はない。それに……死にたくないんだ」
「ウルフの討伐で死ぬマークさんではありません。実力だけではなく、私はあなたの心に何回も動かされてきました。あなたにしかない本当の強さがあるではありませんか」
「……でも無理なんだ。いざモンスターの前に立つと、どうしようもないくらい怖い。だから、俺にこの依頼は受けられない」
本当だ。嘘なんて一つもついてない。
モンスターは怖いし、死ぬのはもっと怖い。シャロの言っていることは間違ってはないだろう。俺には才能こそないものの、努力という武器がある。ひたすらに剣術を磨き続けてきた。剣術の腕だけならば、Aランク冒険者並みのものはあるかもしれない。
だけど、ステータスが弱すぎるのだ。
ステータスだけなら間違いなくEランク。それほどに弱い。
だから、少しの危険がある限り、俺は討伐依頼を受けない。
「そうですか……分かりました。ですが、私は願っています。奇跡は存在するのです。どんな人でも、変わることのできる神々の祝福というものは、あるのです」
「……そう、かもな。じゃあ、他の依頼を受けるよ」
「はい、分かりました。では、この依頼を」
【――毒消し草の採集。解毒薬が枯渇しているので、なるべくたくさん採集してほしい。一本百エルで買い取らせてもらう。レインの森での採集願う――】
毒消し草の採集か。ふむ、悪くない。報酬もなかなかにいいではないか。だが――
「やっぱ、シャロって俺を殺すつもりなのか?」
「違いますよ!」
「でもな……レインの森って「ジャイアントツリー」出なかったっけ?」
レインの森――薬草が一面に生えており、世界的に希少価値の高いものも見つかる森だ。だが、それなりに危険なモンスターが近寄るため、おすすめはされていない。
やっぱ、シャロは俺を殺すつもりなのかな。ぐすん。
「そのくらいなら大丈夫ですよ! モンスターとの遭遇確率は非常に低いですし。ほら行ってください!」
「マジかよ……」
思わず本音が出てしまう俺であった。
●
「ここか……」
後ろには草原、前には森林。目的地に到着した。
歩きでここまで来たので脚が痛いが、まあいつものことだ。我慢して森に入ることにした。
「なんか幽霊でも出そうな雰囲気だな」
そこらじゅうに洞窟があり、不気味なほどに静かなのだ。鳥の鳴き声もしないし、太陽の光が地面にまで届かない。
毒消し草は、陰で湿気のあるところの方が育ちやすいので、このレインの森では大量に繁殖している。それは嬉しいのだが、ここまで静かだと怖くなってきてしまうじゃないか。ジャイアントツリーなんかに遭遇したら即死だぞ。ショック死しちまうかもしれない。考えたら余計に悪寒が……。
だが、ギルドでシャロが言っていた通り、レインの森でのモンスターとの遭遇確率は低い。それはモンスターが植物系であり、生殖行為による増加が不可能であるからだ。ウルフやゴブリン、オークなどのモンスターは動物系と呼ばれていて、生殖行為により数を増やすことができる。
植物系のモンスターは「魔素」からしかつくられないのだ。
魔素というのを簡単に説明すると、魔力を細かくしたものといった感じだ。魔素が集まってモンスターは自然に発生することがあるという訳である。
まあ、難しい話は苦手だからここまでにしておこうか。
要約すると、「モンスターとの遭遇率は低いけれど、遭遇した場合は死亡」かな。うん、怖い。
シャロは安全と言っていたので、信じておくことにしよう。だがもし死にそうになったら、恨んでやるからな。覚えてろよ、絶対だぞ。
「おっ、あった!」
葉は触ると痛そうなギザギザがたくさんあって、茎は少し赤い。これが毒消し草だ。
用途はその名の通り毒消し。つまり解毒だ。
薬草のままでは効力をもたないが、すり潰して特殊な液体を混ぜてポーションにすれば強力な解毒効果をもつ。
ポーションとは一般的に回復薬のことを指す。しかし、稀なものだと「一時的に筋力を10%アップ」のようなドーピング作用があるポーションもあるそうだ。そんなものは大抵強い冒険者が買うし、薬草採集でしかお金を得られない俺には買えないが。
俺は鞘からナイフを取り出して、毒消し草を刈る。
薬草は根っこから引っこ抜いてはならない。というのがギルドの鉄則なので、しっかりと守る。薬草の数を減らさないためらしい。
茎は比較的柔らかいので、するりと刃が通った。
よし。ここら辺は結構毒消し草が生えてるし、どんどんとっていくか。
そうして次の毒消し草を刈ろうとしたのだが――
「あれ? この毒消し草、色が違うな……」
本来毒消し草の茎は赤いはずなのに、なぜか黒く染まっていた。
一応植物の知識は頭に入れているつもりなのだが、目の前の植物は見覚えがない。
もしかしたら高価なやつかもしれないし、一応取っておくか。
ナイフを茎に食い込ませ、刈ろうとする。
あれ? めっちゃ硬いんですけど。
筋力がないのは分かっているのだが、それにしても硬すぎる。
鋼鉄でも切っているかのようだ。
仕方ない……とっておきの技を使うとするか。
その名も――【絶断】。
万物を斬ることができ、ミスリルであろうが豆腐のような感触でスルリと刃が入る最強の技! ……なんて言ったら強そうだが、この技あんま使えないんだよな。
何でも斬れるのは確かなのだが、入れられる傷は数ミリという欠陥技。不遇スキルと呼ばれていて、会得しているだけでも馬鹿にされるくらいだ。
正直、普通に刈った方がいい。
しかし硬い植物を採集するときには、間違いなくとっておきの技だ。
目の前の植物などの場合は、普通の刃物では傷すらつけることができない。
だったら【絶断】で刈ってやろうってわけだ。使う奴はほとんどいないがな!
では早速――
「【絶断】っ!!」
目の前の植物が一瞬にして斬れる。
なんの抵抗もなく斬れたわけだ。流石だな。
というか何なんだ、この植物――
って、なくなったんだけど!?
あれ、どこにいった!? 確かに切り取ったはずだが、俺の手から消えていた。
そして手のひらから光の粒子が昇っていっている。
まさかとは思うが。
この光の粒子は、モンスターを倒した時に発生するものだ。
つまり……あの植物は「モンスター」だった?
刹那――
耐えきれないほどの頭痛が、俺を襲う。
痛い、痛い、痛い!!
脳割れてるんじゃねぇの!? ボキボキって音がするんですけど!?
あ、これヤバイ。
そして、俺の意識はなくなった。
●
『薬草神を倒しました。人族で初の神討伐に成功しました。種族が「亜神」となります』
『レベルがアップしました』
『レベルがアップしました』
『レベルがアップしました』
『レベルがアップしました』
『レベルがアップしました』
『レベルがアップしました』…………
『称号【神殺し】を獲得しました』
どうでしたか?
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