第6話
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戦闘が始まった宙域から全速力で離れていく『ぶっとびタートル号』に重巡洋艦の主砲のビームが流れ弾として飛んで来る。
狙いが定まっておらず、船体に当たる気配はない。
「赤の教団の連中は素人じゃな」
レーダーや光学映像を確認しながらジョージ・バージニは呟く。
「ずいぶんとお高いhobbyを渡しているんだな。いくら安さが売りでも重巡洋艦級じゃ、かなりの金額だろ?」
操縦捍を軽く動かしながらケン・ヤマダは呆れ顔になる。
「大丈夫ですよね?」
アン・シャーリーが恐る恐るケンに声を掛ける。
「うん?この船かい?あの程度の射撃の腕でこの距離なら当たることは無いよ」
ケンがアンにサムズアップして見せる。
「それもありますが、緑の教団の人達も…」
アンは2日も航路を共にした緑の教団第33安全維持巡回小艦隊も心配していた。
「その事に関しては何とも言えないかな?」
とケンはジョージの方を見る。
「そうじゃな。素人が使っているとは言え重巡洋艦二隻じゃからな。勝機はあるはずじゃから、個人的には頑張ってもらいたいがの」
ジョージがケンの視線に答えた。
惑星エノレサレス宙域。
250メートル級の電子戦艦を中心に4隻の100メートル級駆逐艦を展開している艦隊がある。
この艦隊の船は全て隠密航行用に、レーダー波を吸収する特殊ステルス塗装を施されていた。
電子戦艦とは電子戦に特化した戦艦で、主砲等の直接的な攻撃力は無いが、ECMでのセンサー妨害や通信妨害、レーダー上にデコイ等の欺瞞工作やDEWによる敵艦の電子機器の破壊等の電子攻撃を行える。
電子戦は出力がものを言うだけあって、出力を大きくする為に自ずと戦艦並みの大きさになってしまう。
この艦隊旗艦、電子戦艦『クヴァルム』は葉巻型の船体中央部に一段高いブリッジがついており、申し訳程度に対空砲が4門搭載され、大きめのアンテナ等が各部から突き出ている。
ブリッジ内は半円型に設置された各搭乗員席と、中央には艦長席が設置されている。
その艦長席には細身でグレーの髪を七三分けにし、糸目の神経質そうな顔立ちに、多目的眼鏡を掛けた、宇宙服ではなく蒼い生地に金刺繍を施され、ゆったりとしたローブを纏っている若い男性は苦虫を噛み潰した様な顔をしている。
「全く!何でこんな大事な時に赤と緑の屑どもはドンパチしているんだ!」
この艦隊の司令官である青の教団所属、シュナイダー・アベーユ第6位司祭は思わず声に出してしまう。
そこに宇宙服を着た男性オペレーターが声を掛ける。
「アベーユ司令。その戦闘宙域から民間の輸送艦と思われる船がこちら側に向かって来ておりますが、撃墜しますか?」
シュナイダー・アベーユはこめかみに青筋を浮かべながら、あたかも鬼のような形相でオペレーターを睨み付けた。
「馬鹿か貴様!こんなところで撃墜なんてしてみろ!向こうでドンパチやってる屑どもに丸見えだろうが!教皇様から直接命令されている任務を失敗させる気か!」
大事な任務を実行できないストレスからか、シュナイダー・アベーユは顔を真っ赤にして怒鳴り付けた。
「はっ!大変申し訳ありませんでした!」
怒鳴り付けられたオペレーターは冷や汗を大量に流しながら謝罪した。
「ちっ!全艦に通達、こちらに向かっている輸送艦を避けろ!どうせ民間船にこちらは見えるはずがないからな」
特殊塗装によるステルス機能をを見破る民間船などあるはずがないと判断し、航路を空ける指示を出す。
だが艦隊の形をしているが、船員は軍ではなく宗教団体の人間であり、専門の訓練を受けてはいるものの本職には到底及びはしない。
その為、本来ステルス航行中は自艦から外部に発信される電磁波や熱量、重力制御機関による重力振動等を極力抑えるのだが、艦隊の数隻は通常航行と同じように重力制御機関を使用し回避運動をとった。
相手が通常の民間船であれば、重力振動など感知される程のレーダーは装備してないのだが、接近しつつある輸送艦『ぶっとびタートル号』は元軍属の輸送艦であり、センサー類をメカニックであるジョージに強化されていた。
「ケン、重力制御機関による重力振動を感知したぞ。光学センサーの最大望遠で見る限り艦隊規模が潜伏しておるようじゃ」
ジョージがコンソールを操作して特定しようとしながらケンに報告する。
「どういう動きしてる?」
「どうやら、こちらを避けるような動きじゃな。目立ちたくはないんじゃろ」
「じゃあ、ほっときましょ」
ケンは左手をヒラヒラさせてから肩を竦める。
「それで大丈夫なんでしょうか?社長さん」
アンは不安そうにケンの顔を覗き込む。
「あちらさんは目立ちたくないから、わざわざこちらの航路を開けてくれてるんだ。ちょっかいかけない限り何もactionはしてこないさ」
ケンは再び左手をヒラヒラさせた。
『ぶっとびタートル号』は戦闘宙域から離脱する為謎の艦隊の近くを通過していくが、予想通り謎の艦隊は沈黙をしたままだった。
「後少しでエノレサレス自治区を抜けるんですよね?」
戦闘宙域から離脱し、落ち着いたところで、アンはいつものように人工珈琲のパックを二人に渡す。
「そうじゃな、後半日と言ったところか。ありがとさん」
パックを受けとりながらジョージがアンに答える。
「シャーリーちゃん、Thank You!あれだな、帰りは絶対にジャポネ自治区経由でのんびり帰ろうな」
パックに口をつけながら、ケンが溜め息混じり呟いた言葉に、アンは何度も首を縦に振った。
惑星ニードルス宙域。
一隻の60メートル級クルーザーが、横になった円柱状の船体左右に無理矢理装備させた駆逐艦用半球型対空砲の光弾をバラ蒔きながら、最大出力で加速させていた。
惑星間武装タクシー『ションニレ』パイロットである、宇宙服を着た2メートル位の身長をもつ筋肉ダルマと形容するしかないスキンヘッドの男、チャッピーがヘルメットの中で奥歯を噛み締めながら、操縦捍を右手で動かしている。
左手はコンソールを慌ただしく操作しながら、両足のペダルは底まで踏み抜いていた。
目は忙しなく正面の強化ガラスの向こう側と、モニターを見ている。
モニターには船体の後部に取り付けられたカメラの映像が映し出されていた。
映像は30メートル級と思われる宇宙戦闘機がレーザー砲を撃ちながら接近しつつある。
宇宙戦闘機は先端が丸みを帯びており、両脇にレーザー砲レンズが見えているので、動物の顔に見えなくもない。
(クソ!あんなふざけた見た目なのに、こちらの対空砲が掠りもしないとは!)
ブリッジ後部に設けられた、座り心地を優先した客用シートに二人の男性が座ってシートベルトをしている。
「だ、大丈夫なのかね?振り切れるのか?」
小柄な見た目の声から考えると老人と思われる男性が、落ち着きがない声で加速によるGに耐えながらチャッピーに聞いてくる。
「ちょっと黙ってて貰えませんかね!集中出来ませんぜ!」
後ろを振り向かず、苛立った声でチャッピーが返事をする。
宇宙戦闘機のレーザー砲が船体を掠め、ブリッジに小さな衝撃が起こった。
後ろからの二人の短い悲鳴を聞きながら、チャッピーは船体の状況をモニターで確認しつつ、船の姿勢制御を行う。
(こいつらは今まで襲ってきた、ただの犯罪者共とは違う!戦闘訓練をうけたプロの軍人だ!)
経験を上回る危機的状況から、答えにたどり着いた瞬間に、チャッピーは左手のコンソールを慌てて操作し、救難信号を発信させた。
火器管制モニターには対空砲がオーバーヒートを起こしており、安全装置が作動して射撃が停止した事を報告している。
30メートル級宇宙戦闘機はジャンプドライブは基より、惑星間航行出来るほどの能力はない。
母艦となる艦船が近くにいる事は間違いないと確信してしているチャッピーは、宇宙戦闘機が向かって来ている方の反対側へと加速している。
60メートル級クルーザーはドッグファイトで宇宙戦闘機に勝つ事は難しい為、チャッピーは帰艦距離限界まで母艦との距離を離せば戦闘機はこちらを諦めると考えていた。
幸い、加速出力は『ションニレ』の方が上らしく、若干距離が開いて来ている。
「先生、このままでは…」
今まで船内では常に小柄な男性を気遣う用に行動していた中肉中背の若い男性は、絶望感に駆られた声で老人に声を掛ける。
「わしはこんな所で死ぬわけにはいかんのだ!ハインズの若造め!謀りおったな!」
老人も絶望感にさいなまれながら声を荒げる。
チャッピーは後ろの会話に違和感を覚えながら、操縦に集中する。
レーダーに小さな隕石の反応がある為、ギリギリで回避し、宇宙戦闘機との距離を稼ごうと考えていた。
左手のコンソールで姿勢制御スラスターを慎重に操作し、重力制御機関の出力はそのままを維持する。
急速で目の前に大きくなっていく隕石に後ろの二人は悲鳴を上げるが、回避運動のGで悲鳴はすぐに途切れる。
隕石に船体を擦る事無く回避出来たのをチャッピーは心の中でガッツポーズをする。
隕石がブリッジ正面の強化ガラスから見えなくなった瞬間、丸みを帯びた先端両脇についたレーザー砲に光が集まっている宇宙戦闘機が現れた光景を見たチャッピーは、頭が状況を把握出来ず混乱していながらも直後の自分の運命を理解した。
「ケンとあのワイン飲ん…」
チャッピーが言葉を最後まで口にする事は出来なかった。
一週間以内に更新する事を心がけていますので、
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