第5話
遅くなってしまいました。
しかも、ちょっと量も増えてます。
読んで貰えると嬉しいです。
エノレサレス自治区の航海路上に居座っている小艦隊。
モニターには、センサーによって判明した駆逐艦と軽巡洋艦の市販の標準装備姿が映し出されている。
両方ともジャポネ自治区の、量産品をメインに扱う軍需企業ギッサンの低価格品ではあるものの、戦闘能力はヤマダ何でもカンパニーの輸送艦『ぶっとびタートル号』とは比べるだけ無駄である。
ギッサン社製120メートル級駆逐艦Kー18『ロート』は長目の艦体に前部に小型主砲1門、前部両脇にミサイル発射菅合計2門、後部に一段高くなっているブリッジがあり、ブリッジ手前に小型対空砲を4門装備している。
速度重視で回避運動も考慮されている為、姿勢制御にもジェット型スラスターではなく重力制御で行っている。
ギッサン社製140メートル級軽巡洋艦Cー22『スカイバード』は駆逐艦ロートに似たフォルムだが、機動性を若干犠牲にして装甲強化、更には対艦砲を装備し、攻撃力の底上げを行っている。
武装改造民間船レベルであれば、純粋な戦闘能力では苦戦する事はまずない。
アンはモニターに標示されている内容を軽く読んだだけで絶望感が襲ってくる。
「船籍判明したぞ。エノレサレス自治区惑星フォルサレス、緑の教団所属らしいの」
幾分落ち着いた声でケンに報告をする。
「やっぱりね。一番近いのフォルサレスだからね」
「緑の教団と言うと、自然と共存し無闇に惑星改造を行うべきではないって教えでしたっけ?」
アンが絶望感を払拭するべく違う事を考える為、うろ覚えの緑の教団の事を口にした。
「まあ、解りやすい所だとそうだね。自然派ではあるが、人類が自然の破壊をする悪意に満ちた存在だと環境テロに走る人も少なくないのが特徴だね。でもcoolに話し合えば、他の宗教は全部邪教の赤の教団や、表と裏の差が激しい青の教団よりは、解り合える部分はあると思ってる」
とアンに優しい口調で説明した。
「目の前の艦隊より映像通信が入っています!」
ケンに相槌を打つ前に、通信要請の表示に慌ててケンに報告する。
「はいはい、繋いじゃって」
ケンはヘルメットのバイザーを上げて、通信相手に顔が見えるようにしておく。
アンはコンソールを操作してメインモニターに映し出す。
モニターには背は高くないように見えるが、宇宙服から盛り上がった筋肉がこちらを威圧しており、ヘルメットを被っていないので、白髪混じりの茶髪を角刈りにして、揉み上げから顎まで伸びた手入れされた髭、太い眉、鋭い目の彫りの深い顔の男性が艦長席らしい椅子に座っている。
『お初に御目にかかる。私は緑の教団所属、第33安全維持巡回小艦隊旗艦「ギュスターヴ」艦長兼、艦隊司令のマイク・ヨーゼン第2位神官である。貴殿の所属とエノレサレス自治区に来られた目的を確認しても宜しいか?』
アンは神官と言う役職と見た目のギャップにモニターを二度見した。
「こちらはシルヴァ自治区にて事務所を構えている、ヤマダ何でもカンパニーのぶっとびタートル号艦長、ケン・ヤマダです。今回は惑星サンドレアスへの支援物資をシルヴァ自治区から依頼を受けて運搬中です」
ケンは相手に好感の持てるような素敵な笑顔でマイク・ヨーゼンに話しかけた。
アンは相手が女性なら堕ちるわ~と考えながらケンの笑顔に見とれた。
『ああ、キャナダ自治区の惑星ですな。人が神の諸行を汚すが如く、惑星改造等を行うからこうなるのは当然の結果。しかし、住んでいる多くの生物には何の罪もない。誠に残念な出来事です』
と祈るように胸に手を当て目を閉じる。
数秒の時間の後、再び口を開く。
『人々の救済の為の仕事なれば、こちらが行く手を遮るのは不義に当たる。急ぎ惑星サンドレアスに向かわれよ』
マイク・ヨーゼンは両手を広げて言葉を続けた。
『しかし、ここエノレサレスでは導かねばならない人達に危害を加える愚かな宗教が蔓延っております。そこで如何だろう、1万クレジット程我が教団へ寄進していただけたのなら聖地エノレサレス近郊までの航路は我々が同行して安全を保障致しますが?』
「判りました。それでは緑の教団へ寄進させていただきましょう神官様」
マイク・ヨーゼンの提案に速答したケンに、他の二人の視線が集まる。
『おお!悩むことなく寄進してくださるとは我が教団への理解が深い証拠。とても嬉しく思います。あちらの船へ教団の入金口座を送って差し上げなさい』
笑顔で頷きながら、マイク・ヨーゼンは自艦のオペレーターに指示を出した。
「シャーリーちゃん、支払いの方よろしく」
「は、はい!」
こちらもケンからの指示により、アンはコンソールを操作し送られてきた口座に1万クレジットを入金した。
「入金完了しました」
「はい、ありがとう」
ケンはアンの報告に笑顔を向ける。
『入金を確認しました。ようこそエノレサレス自治区へ!緑の教団所属、第33安全維持巡回小艦隊が聖地エノレサレス近郊まで貴艦を安全にお送り致しましょう』
マイク・ヨーゼンは優雅に一礼をした。
『では、緊急時には連絡を入れますので指示に従って下さい』
と通信が終了する。
「社長さん、迷いなかったですね?」
「まあね。緑の教団はまだcoolに話せる連中だから、それなりの安全を保障してくれるなら乗っかるだけさ」
「そうじゃな。1万とは良心的な値段だしの」
ジョージも同意した。
2日後。
緑の教団第33安全維持巡回小艦隊旗艦軽巡洋艦『ギュスターヴ』ブリッジ内艦長席にて、マイク・ヨーゼンは自分の仕事ぶりに満足していた。
マイクは熱心な緑の教団信者ではあるが、環境テロに走る過激派ではなく、人間も自然の一部なのだから自然を犯さず共存するべきと、緑の教団の教えを自分なりに解釈していた。
赤の教団の過激派に家族の命を奪われ、必死に知識を学び、身体を鍛え、今の地位にたどりついた。
赤の教団を許す気はなく、寧ろ滅ぼしたいと考える一方、力が無かった頃の自分と同じ様な人々を導きたいとも考えてもいた。
今回の様に、危機に陥っている惑星の支援に向かう者を援助する事に充実感を覚える。
自己満足な事だと自覚もしており、教団からの与えられた仕事を越えない範疇で今までも行ってきた。
目標地点に後数時間で到着予定との報告をオペレーターから受け、護衛している輸送艦との通信を開くように指示を出す。
マイク・ヨーゼンはこの任務が終わったら、行き付けの飲食店で少し豪華な晩餐を楽しもうと考えていた。
「司令!前方1500にて次元振動反応有り!20秒後に艦船がジャンプアウトします!」
マイク・ヨーゼンのささやかな思慮を中断させたのは、索敵を担当している男性オペレーターの叫びだった。
宇宙船がジャンプをした場合、出発座標と到着座標で独特な次元振動が発生するのでレーダーで感知することが可能となっている。
「全艦、第一種警戒態勢!索敵は船の識別急げ!通信担当、輸送艦との回線を速く開け!」
マイク・ヨーゼンは一瞬で思考を切り替え、周りに指示を飛ばした。
『ぶっとびタートル号』でも同じ内容をレーダーで捉えていた。
「こりゃ不味いな」
レーダーを見ながらジョージは溜め息をつきながら言葉を続けた。
「ジャンプアウト確認。重巡洋艦級の艦船二隻と断定、艦籍は隠すどころか艦にペイントしとる。赤の教団じゃ」
光学映像で映し出されている艦には赤地に黒く染め抜いた菱形を二つ組み合わせた紋章が見えた。
モニターには遅れて重巡洋艦のデータが映し出される。
ジャポネ自治区の隣、コリライズ自治区に本拠地を置くヒュルダイカ重工製180メートル級重巡洋艦『ブーぺ』。
茄子にも似たフォルムで後部の一段高い所にブリッジがあり、後部の両脇には大きくて出力の若干小さい重力制御機関がそれぞれ取り付けられている。
主砲4門、対空砲12門、ミサイル発射菅4門と重装備なのだが、ヒュルダイカ重工は安さが一番の売りで、性能的には他のメーカーと並ぶことが出来ない。
戦闘艦を有している海賊連中もヒュルダイカ重工製の中古品を使い回している事が多い。
このブーぺも攻撃力や速度等は他のメーカーよりも劣っているが、重巡洋艦級の装甲だけは見劣りしない。
「エネルギー反応上昇!あちらさんヤル気満々じゃ」
性能的には劣っていても相手は重巡洋艦である。
二隻ともなれば、駆逐艦級二隻と軽巡洋艦級一隻では荷が重い。
「社長さん、軽巡洋艦『ギュスターヴ』より通信!」
「急いで繋いで」
アンの緊張した報告に、ケンは軽く答える。
『緊急事態が発生した。前方約1500にて赤の教団所属の重巡洋艦二隻がジャンプアウト、その後戦闘態勢をとっている』
色々と指示を飛ばしながら、モニターの向こうのマイク・ヨーゼンは簡潔に説明する。
『我が艦隊はこれより赤の教団艦隊に突撃をする。その隙に貴艦は速やかにこの宙域から離脱するように』
「戦うおつもりですか?」
ケンが静かに問い掛ける。
『無論だ。聖地エノレサレス近郊でいきなり戦闘態勢をとるのは許されざる事。それに…』
モニターのマイク・ヨーゼンは笑顔を見せる。
『力無き者を護る為に我が教団があると信じている。貴艦の航海の無事を祈る』
軽巡洋艦『ギュスターヴ』の艦長席でマイク・ヨーゼンは祈りの姿勢を解く。
輸送艦の艦長に伝えた事は半分が本心だが、もう半分は赤の教団に対する復讐である事は口には出さない。
モニターの向こうにいる輸送艦の艦長は口許に笑みを浮かべる。
『神官様、貴方はとてもcoolだ。もしまたお会いしたら一杯奢らせてください』
「ふふっ。了解した。だが、私は酒が飲めないのでホットココアで頼む」
こちらも笑みを浮かべながら通信を終了させる。
「司令!敵艦、主砲撃ってきました!」
索敵担当の男性オペレーターが声をあげる。
「各艦散開し回避運動をとれ!」
マイク・ヨーゼンは立ち上がり、大声で指示を飛ばした。
防御フィルターにより保護されていても、重巡洋艦級の主砲の閃光は完全に防げなかった。
「全砲門開け!全艦最大出力!各艦散開したまま回避運動を取りつつ突撃!一撃離脱で連中に叩き込め!」
レーダーにて徐々に離れていく輸送艦を確認しながら、誰にも聞こえないように呟く。
「ココアを飲むまでは死ぬわけにはいかんな」
次も気長にお待ち下さい。