第10話
大変長らくお待たせいたしましたm(__)m
「君達はこの惑星の開発を請け負った者だろう?おっと、挨拶がまだだったね。」
ビーグル犬はシルクハットを取り、右前足を当て胸を張った。
「私は惑星ニードルス大統領のスパイクと申します。以後お見知り置きを」
と、ビーグル犬は右前足を差し出す。
「「大統領?」」
ケンとジョージの声が見事にハモった。
「こ、これはお初にお目にかかります。私は銀河連邦惑星開発団先鋒補佐見習いのケン・ヤマダと申します」
ケンは一瞬の躊躇の後に、すらすらと適当な答えを返した。
「ワシは技術主任のジョージ・バージニじゃ。大統領、お会いできて光栄です」
ケンと長い付き合いのジョージが、話を合わせてスパイクと握手を交わした。
「なに…スパイク国際宇宙空港の責任者のジェームズが、珍しく宇宙船が着陸したと騒いでいたのでね、惑星開発団の方々と思い出迎えた訳です。おっと、紹介がまだでしたね。彼がこのスパイク国際宇宙空港の責任者のジェームズです」
スパイクは、人型に見えなくもないサボテンを紹介した。
ビーグル犬が二本足で立ち、会話も出来るのだから、サボテンも喋るのかもしれない…。
そんな思いから、ケンは気さくにサボテンにも声を掛ける。
「初めましてジェームズさん。ケン・ヤマダです」
無意識にジェームズに握手をしてしまう。
「いってぇ!」
ケンはサボテンの針が刺さり苦悶の表情と叫びを上げた。
「やれやれ、ジェームズは相変わらず人見知りが激しいな」
スパイクは肩を竦めて溜め息を吐く。
「ところで大統領。質問してもよろしいかの?」
ケンが痛みで悶絶してるのを横目に、ジョージがスパイクに声を掛ける。
「何かね?ミスターバージニ」
「この惑星には重力圏まで射程に入る対空砲か何かの軍事施設は存在するかの?」
本来であれば、軍事用に惑星開発された戦略拠点でも無い限りは、惑星重力圏をも射程に入る砲台は存在する意味がない。
惑星防衛を考えるなら、格安の軍事衛星を2~3基、衛星軌道上に配備した方がコストパフォーマンスが良い。
「ふむ?この星にそんな施設は見たことがないが…先程、スパイクグランドホテルの方からすごい光が空に飛んでいったのを見たね」
スパイクの答えに、悶絶していたケンは痛みを忘れてジョージと目を合わせた。
「無論、調査団である皆様には、スパイクグランドホテルで最高級の部屋を用意しておりますぞ!」
スパイクが胸を張る。
「なるほど。それで大統領、スパイクグランドホテルはどちらにあるのですか?」
ジョージが辺りを見回す。
「ここから歩いて4時間位のところにありますよ。あちらの方に見えますでしょう?」
スパイクが指?を向ける。
ケンとジョージはそれぞれ双眼鏡を使い、そちらを確認した。
指定した方角には岩山が見える。
他に見えるものが無いので、岩山がスパイクグランドホテルと言うことになる。
スパイク国際宇宙空港が何もない更地と考えると、スパイクグランドホテルは岩山の陰等の雨風を凌げる程度と二人は判断した。
「ジョージ、ここから向かうとしても、調査する時はスパイクグランドホテルをベースキャンプにした方が良いな」
ケンが双眼鏡を覗きながら声を掛けた。
「そうじゃな。化石燃料を節約するには、ここから通うより、あちらに滞在した方が建設的じゃな」
同じく双眼鏡を覗きながらジョージは答える。
「よし!『しゃかりきラビット号』をstandbyしないとな」
ケンとジョージは『ぶっとびタートル号』の後部に歩き出した。
「なんとまぁ、こんな状態で着陸出来たもんじゃな……」
『ぶっとびタートル号』の状態を確認したジョージは呆然とした。
『ぶっとびタートル号』の後部は重力制御機関の制御ノズルとその奥のメインエンジンの半分が溶けており、唯一の武装のショットガンの発射口も溶けたり、歪んでいた。
「これ直しようがないよね?」
今後の事を考えると目眩がするケンは、無理と承知でジョージに尋ねてみた。
「そうじゃな。これに搭載できるエンジンを中古で探すよりは、中古の宇宙船を買った方が安いぞ?」
『ぶっとびタートル号』は旧ロルヴァ軍の実験船であり、銀河連邦の規格外中の規格外で、部品一つとってもジャンクヤードから探さないとならない。
新規で部品を購入しようと思ったなら、全てがオーダーメイドになってしまい、安い駆逐艦を軽く買えてしまう位の値段になってしまう。
「この星から脱出しても、お先真っ暗だねぇ」
ケンが溜め息をつきながらサイドコンテナに向かった。
『ぶっとびタートル号』のサイドコンテナの一部は惑星地表を移動するためのオフロード車輌が搭載されていた。
ケンがサイドコンテナのハッチを確認し、操作パネルカバーを開き、開放操作をしたが、宇宙船の電源が落ちているため動く気配がない。
「やはり動かないか……。中から手動開放装置使わないとダメだね」
ケンが肩を竦めた。
「それならシャーリーさんにも話して一緒に準備するのが良いじゃろ。ワシは大統領に話を通しておくよ」
ジョージがスパイクの所へと歩いていく。
ケンはアンに外の状況とスパイクの存在を伝えた。
「社長さん、頭打ったんですか?」
返ってきた第一声である。
取り敢えず移動する事は伝わったので、二人で準備を始めた。
水製造機に食糧、簡易医療セットに寝袋等々を、化石燃料エンジン搭載のオフロード車輌『しゃかりきラビット号』に積み込む。
オープンタイプで6輪駆動、短時間であれば水上も走行できる万能車輌である。
積み込みが終了し、手動開放装置の大きめのスイッチを叩く。
外部装甲、内部密閉式防壁は重力に引かれて外側に開くように傾斜がついており、開かれた外部装甲が地表にぶつかり大きな音と砂埃がたった。
ケンが操縦し、『しゃかりきラビット号』は惑星ニードルスに降り立った。
そのままジョージとスパイクの所まで移動する。
「ジョージさん、大丈夫でしたか?」
アンは『しゃかりきラビット号』から降りてジョージに近寄る。
「初めましてレディ、私は惑星ニードルス大統領のスパイクと申します」
スパイクがシルクハットを取りお辞儀をした。
「へ?」
ジョージの近くから第三者の声がして口を開いたまま唖然としていたアンが、スパイクの姿を認識すると徐々に表情が緩んでいく。
「ちょ、かわっ!可愛い!何ですかこの子?マスコットロボですか?事務所でお留守番してるポン太君より流暢に話してますよね!」
アンはスパイクを両手で持ち上げて胸に抱き締めた。
「わぉ!レディ、大胆なアプローチは非常に嬉しいですが、こう言う事はもう少し親しくなってからでないと……。いや、これはこれで感無量ではありますが!」
スパイクは口では若干抵抗しているものの、身体は特に暴れず成すがままになっていた。
「あれ?柔らかくて温かい……。マスコットロボでは無い?」
アンは胸に抱いたスパイクが無機質のマスコットロボと違うのに気が付いた。
銀河連邦で普及しているマスコットロボは、見た目は何種類も存在しているが、ほとんどが金属製であり、感情の感じないデジタル音声で会話する。
流暢な会話が出来て、無機質ではない外装のマスコットロボは在ることはあるが非常に高価で、このような無人惑星に居るのは不自然すぎた。
銀河連邦の主流は、流暢な会話が出来るマスコットロボよりは、流暢な会話が出来る人型であり、開発も人型が盛んでいた。
「ええ!社長さんが言っていた事って事実だったんですか?!」
ジョージに説明されて驚いていたアンだが、スパイクを離そうとはしなかった。
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