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 原因なんかどうだっていい。何もかも、誰も彼も、もううんざりだ。

 麻生先生が関崎を呼び止め、脂ぎった顔を近づけて高笑いしているのを横目に、上総はさっさと学校から飛び出した。委員会活動もなく、部活動も一切関係ない。身軽なことが今は心地よかった。

 もっとも今週から一週間は期末試験前ということもあり、強制的に部活動と委員活動は休みとなる。中学とそのあたりは変わりないようだ。完全に夏の陽射しがじぐざぐにささる時期へと差し掛かり、上総は羽織っていたジャケットを脱いだ。校門を出てからはネクタイも外した。抱えて自転車を押しながら、どこへ行くか考えた。

 もちろん、期末試験勉強をするつもりなんてない。

 

「立村先輩、もうお帰りですか」

 背中からまたひんやりしそうな声がする。誰かは言うまでもない。上総は振り返った。作り笑いするつもりもない。鞄の中に押し込んだ……幸い、発見されなかったが……「キャリアOL」のグラビア写真集を叩きつける気力もない。ただ、うっすらと熱い。

「今朝のことを気にせず話に来るのはいい度胸だな」

 皮肉ってやった。そのくらい言ったっていいだろう。それだけのことはしたのだから。

 霧島は素早く上総の前に立ちはだかった。

 上着こそ着ていないが、ネクタイはしっかり締めたままだ。涼しげな振る舞いあっぱれである。汗すらかいていないように見える。

「先輩が僕に対して、訳のわからないことをおっしゃるから仕方のないことです」

「話の内容がわからないわけないだろう」

「まるで僕が、何も理解できていないようなことをおっしゃるのですから、当然のことでしょう」

 なんと霧島、全くもって反省だにしていない。

 いいのだろうか、それで。

 根本的に何か間違っているような気がする。

「理解できないのならしなくてもいい。悪いが俺は今日急いでいるんだ。霧島、お前もこれから生徒会があるだろう。こんなところで油売っていていいのか。佐賀さんに文句言われたりしないのか」」

「佐賀会長は僕のやりたいようにやらせてくれています」

 爽やかに霧島は言い放った。かすかに笑みすら浮かべている。

 本当にこいつ、何を考えているのか全く理解できない。いや、なんとなくそういう言動に出る理由が上総には掴み取れていないわけでもないのだが、かといってそれを受け止めるのがややこしい。それに百パーセントこいつが上総を慕ってまとわりついているとも思えない。事情がいろいろあるのだからなおのことだ。

「どちらに行かれるのですか」

「どこでもいいだろう。どうでもいいがこれ以上訳のわからない振る舞いを続けるなら、俺にも考えがあるからな。いいかげんにしろ。それとだ」

 今朝の出来事からすべてが繋がり、気が立っていた。吐き出すように言い放った。

「なんで俺が趣味の合わない写真集のことで女子に誤解されなくちゃならないんだ」

「申し訳ございません」

 即、謝るが涼やかな霧島の顔からは、申し訳なさが全く伝わってこない。

 むしろ、計算済みといった余裕すら感じる。明らかに上総の方が劣勢だ。

「ですが、僕のはったりを古川先輩は信じましたね」

「ああいう場で信じない方がおかしいだろう」

「予定通りです。僕の方が真実に近いと思われたのです」

 ──全くこいつ、俺にけんかを売っているんだろうか。

 そうとしか思えないのだが、上総はそれを買うつもりなどない。

 むしろ、さっさと遠ざけて穏やかな時間を過ごしたい。

「霧島、悪いが今日は本当に用事があるんだ。また明日詳しく話そう」

 まずはこのお坊ちゃまから離れることだけ考えた。それでも気になる疑問はある。つい口からこぼれた。

「だがなんで、俺にそうくっついてくるんだ」

「簡単です」

 自転車にまたがり、ペダルを踏む寸前に聞こえた言葉。

「立村先輩の言動が、面白いからですよ」

 ──俺の言動が面白いだと?

 あやうくぷつりと切れる寸前だったが、勢いよく遠ざかろうとペダルを踏んだ後だけにそれ以上の言葉をぶつけることはできなかった。明らかに霧島は、上総を下に見ていると判断するしかあるまい。


 ──こっちが下手に出ればいったいあいつは、何言い出すんだ!

 誰かとすれ違ったかもしれないがそんなの気にしていられなかった。とにかく漕ぐ。漕ぎ続け頭をからっぽにし、最後は一気にぶっちぎりたい。

 空の雲は細く、長く、やがて消えていった。青空一色だった。

 ──なんであんな奴をかばってしまったんだろうか。

 思うものの、それは後悔ではない。単なる舌打ちのみ。

 ──俺だって霧島の立場とか考えて、あえて黙っているってのに、なんでいきなり仇されるようなことされなくちゃなんないんだよ。あれでもう、古川さんには頭、ただでさえ上がらないのにもう俺は、尻に敷かれるはめになるわけだ。

 ──それに俺の言動が面白いとかわけのわかんないこと言ってるけどさ、こちらとしては相手のことを思いやったつもりなのに。なんだよいったい、散々こけにされてさ。なんで俺が二年も下の下級生におもちゃにされなくちゃなんないんだよ。馬鹿にするならすればいいさ。慣れてるさ、けどなんで、わざわざ俺にかまってくるんだろう。


 十字路で東西南北、どちらに進むか考えた。

 真っ直ぐ走れば自宅へ一直線だし、右に進めば青潟駅、東に進めば公立高校・青潟東高校がすぐそばだ。もちろん南……もと来た方向に戻るつもりなどない。

 上総は時計に目を走らせた。

 まだまだ三時半を回ったばかり。霧島をあしらうつもりがあしらわれてむしゃくしゃしていてかなり時間が経ったような気がしていたけれど、まだまだ余裕がありそうだった。

 後ろにくくりつけたかばんはしっかりおさまっている。

 ──青潟東か。

 左側、東側を眺める。ジーンズとTシャツ、またすねを出した女子たちのホットパンツ姿も見受けられる集団が路に溢れている。青潟東高校は私服通学の学校と聞いている。肩からボストンバックを抱えた男子と、ポシェットをぶら下げたワンピース姿の女子たちも入り乱れている。ちょうど、南側から乗り付けてきた青大附属生とは十字を切る格好となる。

 ──本条先輩、いるかな。

 細い銀縁めがねに髪の毛をつんつんさせた本条先輩の近影。すぐに浮かんだ。

 先月、アパートに泊まりに行って以来、連絡を取っていなかった。

 もっとも他の連中、特に元評議委員会OB連中からすると、

「一ヶ月に一回しつこく会いに行くこと自体、男としてはあまりないことじゃねえのか」

 との認識だが。

 ──青潟東も期末試験近いだろうし、先輩も今は部活やってないから暇だろうし。うちにいるかな。

 本条先輩に頭のチャンネルを切り替えたとたん、さっきまでぐたぐた煮えたぎっていた霧島の言葉も消え去った。どうでもよくなった。じゃあ行こう。本条先輩を迎えに、青潟東まで自転車を進めてみるか。


 青潟東は青潟市内でもっとも学力レベルの高い公立高校である。もともと青潟の場合、いわゆる「公立王国」と呼ばれるほど公立高校への進学願望が強く、私立進学は一部を除き「滑り止め」扱いされていた。もっとも実際は、校風に憧れてとか、特定の資格を取りたいとか、男子もしくは女子恐怖症とか、様々な理由によって選択することも多いはずなのだが、青潟の一般的基準ではそうなされていた。

 青潟大学附属高校だけは、青潟市の唯一「目標として」進学すべき私立の学校とされていた。入学試験の難解さもさることながら、中学でほとんどの生徒を獲ってしまうのでどうしても高校の外部生入学は数を絞らざるを得ない。関崎のように中学でしくじって高校で再チャレンジして見事合格、というのは例外中の例外である。

 どちらにしても、青大附属に一度入学したら、自分から外に「出たい」と考える生徒は殆どいないものと思われる。本条先輩の選択を知るまでは、上総も疑うことなどなかったのだ。

 ──本条先輩はどうして、公立を選んだんだろう。

 家庭内、および家族の事情が一番の原因と聞いているし、今の上総は納得できている。

 しかし、その後の本条先輩がどのように苦悩したのか、道を踏み外したのか。

 すべてを理解できては、まだいなかった。

 元青潟大学附属中学の伝説的評議委員長だった本条里希は卒業とともにいったん消え、現在はその辺にどこでもいる不良っぽい公立高校生に変貌しているという事実を上総はまだ、把握しきれていなかった。本条先輩自身からも話を聞かせてもらってはいるし、受け入れたつもりではいるのだが、それでもやはり受け入れられないところが残っている。

 実際、落ちこぼれた本条先輩の学校生活を目にしていないからだろう。

 本条先輩至上主義と揶揄される上総の視線ではあるけれども、どうしても本条先輩が青大附属時代の本条里希と異なることを、信じられないままでいる。それを証明するつもりも今のところはなかった。

 ただ、

 ──本条先輩の行ってる学校ってどんな感じなんだろうな。

 単純な好奇心は日ごろより持っていた。

 ──本条先輩をないがしろにする学校なんだから、きっとみんな見る目がないんだろうな。

 最近はさらにもうひとつの疑問が頭の中をよぎる。

 ──本条先輩を受け入れられない学校なんだから、はたして杉本が来年入学した時大丈夫なんだろうか? 

 もちろん、合格したらの話だが。

 まだまだ先ではあるが、杉本梨南が青大附属中学を追い出されて青潟東高校へ進学した場合、どういう生活が待っているのかを考える義務はあるように思う。上総なりにその判断を否定するつもりはないけれども、ただ杉本を両手広げて迎えてくれるような学校にはどうしても思えなかった。もちろんそれは先入観でしかないのだろうが、上総にはやはり、一度、青潟東高校の概要をつかんでおく必要を感じていた。

 ──杉本が仮に青潟東へ進学したとしても、大丈夫なように準備をしておいたほうがいいに決まってる。たぶん誰もそんなこと考えてないだろう。考えているのは俺だけだ。悪いが関崎も他の連中も、杉本が出て行くことくらいは頭の隅に置いているかもしれないけれどもその後のことなんてどうだっていいと決め付けてるさ。

 どちらにしても、一度は青潟東に行かねばなるまい。

 ついでに本条先輩と顔を合わせれば、それに越したことはない。

 流れでまたアパートにもぐりこんでもいいわけだ。

 上総はそのまま右に曲がった。東に向かった。私服の群れがあふれ出る青潟東高校へ自転車のハンドルを切った。


 下校時間帯の真っ只中、自転車を無理やり突入させるということがいかに無謀かは上総もよく承知している。当然押すな押すなの大混雑。それでもなんとか交通ルールを遵守する形でたどり着くことができた。青潟で一番広い公園を通りぬけ、すでに花も実も終わった桜並木を潜り抜け、ようやく三階建ての薄黄色い建物を発見した。校門らしきものは確かにあるのだが、道路と繋がっていていわゆる「門をくぐりぬけた」感覚はない。むしろ「門の脇を通った」だけ、といった感じだろうか。

 グラウンドだけは広かった。校舎自体は薄いショートケーキを思わせるような建物で、その奥いっぱいに黄色いグラウンドが見通しよく広がっている。ただその奥に何があるかは見通せなかった。たぶん更衣室か器具を置く場所くらいはあるのではないかと思うのだが、見た感じ丸い葉っぱの木々が縁取り模様のように並んでいるのが見えるだけだ。

 舗装されていない路を自転車でがたごと漕ぎつつ、ようやく本当の校門に辿り付いた。入り口には「青潟市立青潟東高等学校」と札が掛かっている。

 上総は自転車から降りて、まず流れる下校の群れに知っている顔があるかどうかを確認した。本条先輩を見落とすことはまずないと思うのだが、一緒にいる女子がもしいたなら、あえて野暮は言わず知らん振りをするつもりでいた。女子に不自由しない本条先輩のことだ、あれから詳しいことは聞いていないけれども全く何もないなんてことはないだろう。

 女子たちがみなスカートやらキュロットやら華やいだファッションなのに対して、男子はおしなべてみなジーンズにTシャツ、ポロシャツばかりだった。襟のボタンをひとつ外したとはいえ、まだ制服姿の上総が立つ場所だけ、やたらとしゃちほこばったように思えた。

 ──やっぱり、目立つよな。この格好だと。

 同じ高校生とは思えない空気の違い。上総は自転車を留めたまま目で人の波を追った。


 明らかに同じ部類とは思えない誰かが通った。

 ぴんとアンテナに響いた。

 上総がその方向に目を向けると、生徒玄関らしき出入り口から水色のストライブシャツを羽織ったジーンズ姿の男子が、もうひとりの男子と一緒に現れた。

 この学校の生徒で、今のところシャツを着ている連中はひとりもいなかった。

 ──まさか?

 自分の本条先輩に関する直感の鋭さに笑いたくなる。青大附中時代もそうだったが、上総は本条先輩の声はもちろん、足音や歩き方、その他周囲の雰囲気だけで本条先輩の存在有無を感じ取ることができた。他の評議連中が気付かなくても、上総だけはすぐに勘付きそこから、「本条・立村ホモ説」が囁かれるようになったのも今は昔だ。

 まさか外でも同じ直感が働くとは思わなかった。

 ──なんだ本条先輩、学校でも友だちいるじゃないか。

 何がひとり孤独の高校生活なんだろう。大嘘だ。

 だったらまあいいか、声かけてみよう。

 上総が近づこうとし、自転車を押そうとした時だった。


 ──あいつ、どこかで見たことあるような気がする。

 本条先輩と背丈は同じくらい。真っ赤なランニング一枚に、腰からは蛇の皮ベルト。さらには首に黄色いスカーフまで巻いている。どう見ても浮いているのは見え見えなのだが、そいつは本条先輩と肩を揺らしながら歩いている。上総の前まできたのだが、しゃべりに夢中になっていてどうも気がついてもらえない。

 道路沿いを歩いている本条先輩と、その一方で取り残された格好の上総と。

 その間に入るやたらとけばけばしい男子ひとりと。

 しかもその顔に見覚えがあると、例のアンテナがぴんぴん言っている。

 ──誰だろう?

 少なくとも上総とは友だちづきあいを好んでするタイプではなさそうだ。目の前をゆっくり、全く意味をなさない言葉を発しつつ馬鹿笑いしている。本条先輩がそいつをにやけながら眺めているのが妙に癇に障る。

「本条さんさ、今日も例の彼女のとこ行くんですか」

「悪いが彼女じゃねえよ。こちらとしても少しやらねばなんないことがあるっての」

 ──しかも女性がらみの話をしているときた。

 上総の知る限り、本条先輩が今、誰かと付き合っているという話を聞いたことはない。もちろん言うこともめったにない。あるとすれば何人斬りの自慢話程度。過去の恋愛話を聞いたのは確か、上総が卒業間際の頃だったし、それはすべて終わったことのはずだった。

 いや、そういう話をするのは決して珍しいことではないと理解はしている。

 しているのだが、どうもこのランニング男と語るのがむかつくだけだ。

 なんでか自分でもわからない。

 かといって割り込めるわけもない。

 結局気付かぬうちに二人は、恋愛話をたらたら続けながら上総の前を通り過ぎていった。一切こちらに目を向けようとしなかった。本条先輩の青潟東高校生活は決して悪いものではなさそうだ、ということだけは確信した。

 ──なんだ、たいしたこと、ないじゃないか。


 別にいいのだ。恋愛話なんぞ別にしたくもない。

 先月泊まりに出かけた時も、美里や杉本の話なんて全くしていない。

 具体的なスケベ話こそ本条先輩主導で勧めるにしても、上総はただ聞くだけ。

 そんな話よりも現在の青大附属高校がどういう状況に置かれているかとか、中学の生徒会事情とか語るべきことは山のようにある。

 本条先輩がたまたま友だちと、デート話のおのろけを楽しんでいるから割り込みたいと思ったわけではない。断じて、決して、絶対に。

 折れ曲がるような太陽の陽射しが全く感じないくらい、身体が冷えていたなんて関係ない。

 歯を心持強くかみ締めた。

 自転車を支える両手で、ブレーキーをぎっちり握っていた。


「おいおい、何またべそかいてるんだよ、ったくもう、なあ」

 どのくらい立ちすくんでいたのだろう。ほんの十秒ほどだったはず。

 不意に頭がふわりと熱を持って揺れた。いや揺らされた。

「本条先輩」

「なあにが先輩だ」

 今度は額を手の甲ではたかれた。本条先輩はめがねを指先で直しながら、もと来た路に向かい誰かに呼びかけた。

「悪い、総田、また明日にするわな。彼女とよろしくやっとくれ!」

「よっしゃあ」

 また訳のわからない返事が返ってきた。総田と呼ばれた連れはさっさと姿を消し、あとはまばらに続く青潟東高校の生徒たちが川となり流れるだけだった。

 上総は本条先輩をまじまじと見つめた。さっきは気付いていないはずだったのに。振り返って上総がアホ面したまま立ちすくんでいたのを発見したのだろうか。

「先輩、あの」

「あいつはお前と同じ歳だってのに、この差はなんなんだよ。ったく立村、お前ときたらなあ」

 腹を膨らませて、ふっと吹いた。肩を怒らせ、すぐに落とした。

「女子よりタチ悪いぞ。やきもちってのはな、女子がかわゆく妬いてくれるから許せるもんであってだ。俺は悪いが男同士でいちゃつく趣味、今のところはねえぞ。里理とは違う、勘違いすんな」

 しつこく頭をはたきつづける本条先輩。リズミカルにひっぱたく。

「そんなつもりじゃないです」

「もうお前の思考パターンは読めてるから、怒る気にもなれねえよ」

 口で言うほど怒ってはいないようだった。さっきの総田とかいう男子と話している時と雰囲気は変わらない。ただ、面白がって頭をはたくのはいいかげんやめてほしかった。

「お前、中身は丸ごと女子と同じだな」

「どういうことですか」

 気色ばみ上総が尋ねると、本条先輩はつらっとした顔で答えた。

「妬きもち妬きの甘ったれ、全く変わってねえよ」

「失礼です、それは、訂正してください」

 わめくうちに顔へ一気に血が昇る。

「俺はそんな変なこと考えたわけじゃ」

「新井林やら南雲やら相手に、ずいぶんお前、ジェラシー燃やしてただろ」

「ジェラシーって、嫉妬ですか」

 当たり前のことを問い返すと、本条先輩は呆れ顔で首を振った。

「とにかく、まず、食うぞ。ラーメン食うか」


 さんざん言いたい放題馬鹿にされて、それでもくっついていく自分。

 ──勘違いしてるのは先輩のほうだよな。誰がジェラシーだよ。男子に妬きもちやいて何が楽しいって言うんだ。本条先輩、変だよ、どうしてそんな発想になるんだよ!

 言い返したくても、口にしようとするとつい小声になる。本条先輩が耳ざとく聞きつけた。

「なんだ、文句あるなら言ってみろ」

「なんでもないです、ただ、あの」

「あのってなんだ」

「さっきの、一緒にいた奴、高一なんですか」 

仕方なく答えると、本条先輩は一拍黙った。

「あいつのこと覚えてねえのか?」

 顔だけ見覚えあるけれども、それが誰なのかわからない。上総は頷いた。

「いいかげん人の顔見て、ついでに目をしっかり見て覚えろよ。水鳥中学生徒会副会長の総田って、お前何度も会ったこと、あるだろ?」

 また上総の顔を覗き込み、本条先輩はにやりと笑った。

 


 

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