5 闖入者
「……まさか。俺が何を探しているか知るはずがない」
「ええ。それは知らない。でも、今日、あの時間に、あそこへ茸狩りに行ったら、私にぴったりのダーリンが宇宙からやってきてるって、『知の海』は言ったの。それで、あなたの欲しいものを私が持っているから、それと引き換えにすれば、妻にしてくれるって」
にわかには信じがたい話だった。『知の海』というものが、俺の来訪を予言し、また、俺の欲しいものを彼女が持っていると予言した。最初の予言は成り、次の予言も、彼女の交換条件を呑めば成るという。
……たぶん、おそらく、彼女はそう語った。俺の願望が、翻訳を都合のいいように捻じ曲げて捉えていなければ。
その時、ドンドンドンドンと激しく何かを叩く音がした。彼女が顔を顰めて、機敏に後ろを振り返った。
「おい、ミヤ! いるのはわかってる! 『知の海』の予言の日時は過ぎただろ! おい、こら、本当に男を連れ込んでるのか!? ミヤ! 開けろ、ミヤ! 開けねーなら、扉を蹴破るぞ!!」
男が怒鳴って彼女を呼んでいる。その荒々しさに、俺は身が竦んだ。俺の遺伝デザインは知へ特化していて、とにかく荒事には向いていないのだ。窮余の策はあるにはあるが、これは最後の手で、あまり使いたくない。
声がしなくなった。あれほど興奮していたのに、おかしい。
彼女が立ち上がり、ベッドの下から棒を取り出した。こんなところに武器を隠していたのかと、強行突破しないでおいた己の判断に拍手を送りたくなった。ただの棒だが、彼女が持つと殺人兵器に変わる。
彼女は俺に、し、と唇に指をあててみせてから、猫のような身のこなしで、壁をくりぬいただけの窓の脇へと移動した。
つっかえ棒で塞ぎ板を押し上げてある窓は、七割方開いており、少しだけ外が見えている。その隙間に、人影がさす。塞ぎ板の下に指がかかり、急速に持ち上げられた。蝶番部分が破砕音を立て、板が完全にむしり取られて投げ捨てられる。
彼女が窓の中心に躍り出、鋭く棒を繰り出した。男がのけぞり、体をひねって躱す。タッタとステップを踏んで、後ろへと距離を取った。
「なっ!? 出会ってすぐコトに及んでんのかよっ、どこの誰ともしれねー男と! 何やってんだよ、おまえ、そんな女じゃないだろう! 目を覚ませ!」
「よけいなお世話よ! 今、大事なところなんだから、邪魔しないでちょうだいよ!!」
「おまっ、大事って」
怒り、……いや、心配だろうか。それが、苦虫を噛み潰したような表情になる。そのまなざしが、ギロリと俺に向けられた。三秒後、驚愕に見開かれる。
「えっ!? なんだそいつ、下半身がないじゃないか!」
「失礼ねぇっ! いいからほうっておいてよ! 消えなさいよ、むさくるしいったらありゃしない!」
「なっ、なんだよ、べつに俺は、そいつを貶そうと思ったんじゃない。ただ、……男手がいるなら貸すぞ?」
急に男がたじたじとなり、俺に向ける視線が困ったようなものになった。
「けっこうです。足りてます。とにかく、行ってほしいの。大事なところだから」
「……わかったよ。また明日来るからな」
「とうぶん来ないでちょうだい。呼ばれてもないのに顔出したら、鼻の骨へし折るわよ」
「気の荒い女だな、ちくしょうが。……何かあったら言えよ」
男が背を向ける。納得しないながらも、引き下がった感じだ。
すっかり姿が見えなくなるのを見送って、彼女が振り返った。あっという顔をして、慌てて棒を背後に隠す。が、頭の上から覗いて見えている。なんだかその姿がおかしくて、俺は、くっくと笑ってしまった。
彼女も照れたように笑って、そそそそっと横歩きにベッドの足元の方に近づいてきた。ささっと棒をベッドの下に放り込むと、俺の前へとまわってきて、床にぺたりと座る。それから俺を見上げて、また笑った。今度は、楽しそうに。
凶暴だとわかっているのに、その笑顔はやはり可愛くて、俺は苦笑が唇にのぼるのを自覚した。




