1 降下
真っ青な球体が、暗黒の深淵に浮かぶ。その光景に、しばし言葉を失った。
星間異種族コミュニケーション倫理に則れば、どの星が秀でて美しいということはない。どの星も自然の産物であり、神でもない我々が優劣をつけてよいものではない。
だが、それでも、胸をかきむしられる美は存在する……。
地球。遥か昔、人類が発祥したという惑星。宇宙へ進出せず、科学を放棄し、原始の暮らしを続けることを選択した人々が残った、今となっては「未開の地」。
未だ、ありとあらゆるウィルス、微生物が自然のままに増殖しているというそこではまた、人々は病原への抗体を多数獲得しているという。
母星で突如発生した致死率100パーセントのウィルスは、突然変異種で、薬剤、高熱、低温、真空、放射線など様々なものへの耐性を獲得しており、知的生命体種族が構築した星間ネットワークシステムのデータベースをさらっても、対応策が見つからない状態だ。
ネットワークシステムの運用システム、知の女神と呼ばれるエタは、地球に、抗体を持つ人間か抗生物質を生み出す微生物が存在するかもしれないという解を導き出した。
俺はここで、母星を救う術を見つけ出さなければならない。
タイムリミットは五年。
「このどこかに、本当にいるのか。……いや、いてくれ」
降下シークエンスに入ったアラートを聞きながら、神など信じてはいないのに、祈るように呟いた。