購買の焼きそばパン285円
と、ワクワクしていた矢先の事。
次の日、篠山が学校に来なかった。
「ショック!」
「あんた、死んだ魚のような目してる」
友達に指摘された。鏡ないからどんな表情なのか不明だけど、覇気のない顔してるんですね解ります。
仕方がないので、今日のお昼は焼きそばパンと牛乳。久し振りに買ったなあ。それに、友達と教室で食べたりするのも懐かしい。
「メール来たんだ。風邪、らしいし」
「いつの間にちゃっかり交換したのよ、あんたたち」
おおう。ジトッとした目。そんな目で見なくたって良いじゃないかっ。
「ねえ。ホントに付き合ってないわけ?」
「うん」
「篠山の事、どう思ってんの」
「え。弁当仲間」
「――」
「篠山、お店とか開いてくれないかねえ」
「そう。色気より食い気かあ」
笑われた。
しかし、こうも篠山の料理の虜になっていたとは思わなかった。購買の焼きそばパンがあんまり美味しく感じられない。一口齧っても、入学した時のあの「美味しい」って感動が薄れてる。いや、美味しいには美味しいんだけど。
ただ、若干ソースが濃いというか。青のりは少な目がちょうどいい。
「ななこ、渋い顔してるけど」
ああ。きっと。
篠山の弁当が美味しいのは、その腕が良いだけじゃない。
私の好みを知って、それに合わせてくれてるんだなあ。今それをまざまざと思い知らされた。篠山。あんた、優しい。いつでも婿に行ける。いや、むしろ嫁げ。
「篠山の料理。弁当が恋しい」
「たった1日だけでしょ。大袈裟な」
「うううう。それでしのぐ。ちょうだい、自分で作ったんでしょ? 私は今、モーレツに手作りに飢えている」
「潤んだ目で私の弁当のグラタン見ないでくれる? あげないよ」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「わーった! 解ったから打ち捨てられた子犬みたいな目をするな鬱陶しい」
先に折れたのは友達でした。打ち捨てられた子犬って……。そんな風に見てたっけ? 涙目だったのは認める。
「はい。エビグラタン」
「ありがと。……うん。ちょっとホワイトソースがダマになってるよね。不味くはないけど」
「あんた殴るわよ」
殺意ある目を向けられた。怖っ!
「神木ー。せんせー呼んでる」
おっ! クラスの男子に声を掛けられる。出口で担任が手招きしてるのが見えた。ナイスタイミング!
「いいい、行ってくる」
「――ちっ」
舌 打 ち さ れ た。
やだ、視線で射殺せるよ。
原因は私のせいだ。帰ってきたら全力で謝ろうと思う。例え本心でも、射殺せるなんて、口に出しませんって。
「はいはい。センセ、何ですか」
「神木、これ篠山の家まで持って行ってくれないか?」
渡されたのは、今日の課題とか手紙とか、色々。いやいやいや。
「何で私?」
「いや、お前と篠山の家近いから。知らなかったのか」
「へえ?」
寝耳に水です、センセ。
いつもお世話になってるし、家が近いから断る理由はないので引き受けた。このくらいでお礼になるかなあ、と考えつつ教えてもらった住所に到着した。
2階建てアパート。しかもまだ新しい感じの。
「ってか。思いっきり通学ルートの途中にあるし。近いし。ここから5分で帰れるんだけど」
今まで気付かなかった。なあんだ、その気になれば一緒に帰れるんじゃないか? そこまで思って首を傾げる。いやいや。別に一緒に帰らなくてもいいじゃないか。ただ弁当作ってもらってる仲。そんだけ。
「番号は201……」
階段を上ってインターホンを押した。おお、緊張する。
反応なし。
もう一回押す。
反応なし。
寝てんのかな。じゃあ、郵便受けに入れとくかな。メールで知らせておけば――。
「かみき?」
「あ……」
わずかに開いた小さなドアの隙間から、篠山が顔を覗かせる。目を丸くしてる。驚いてるよね。
「どうした?」
「手紙とか課題とか預かってきたから。初めて知ったんだけど、家が近いみたいで。だから担任に頼まれて」
「あー。そっか、ありがとな」
ドアを大きく開けて、プリント類を受け取った。青いスエットをパジャマ代わりとしていたのか。篠山、青好きなんだろうな。そいえば弁当箱も青だった。
寝癖頭をガリガリ掻いて、気怠そうに私を見ている。
「あれ、篠山。顔赤いよ。病院は?」
「行ったよ。熱なかなか下がらなくて。38度くらい?」
「うわ。重症じゃん。起こしてごめん! お大事に――うわ」
言い終わらないうちに、篠山が視界から消えた。え、瞬間移動!? なんて考えてしまった。
違う。篠山は具合が悪かったみたいで、ずるずると玄関にしゃがみ込んでしまった。
「篠山!」
「ごめん、肩貸してくれないか」
弱々しい声で懇願されたら、貸さないわけにはいかなかった。




