6 - 帰宅
この建物は王が家族だけでゆっくり生活できるようにと用意した住居である。王族が住む城というものもガローシャには存在するが、オクタビオンから離れた位置に存在することと、無駄に広い建物の為、現在は重大なイベントなどの開催や迎賓館として主に利用されている。建物は三階建で、一階が食堂や居間などの共有スペース。ニ階は王族の人間が生活しているプライベートスペース。三階は従業員の部屋となっている。二階へは、一階の玄関ホールからまっすぐに伸びる大階段から途中踊り場で左右に分かれて行くことができる。また、玄関ホールが吹き抜けとなっているため、二階はコの字の形で部屋が配置されている。大階段の踊り場から右の階段を上がったエリアは、ライナス、マーシャル男兄弟の居住空間となっており、逆に踊り場から左の階段を上がるとオリヴィアと姉のフローリアの居住空間となっている。因みに両親の部屋は、コの字の中央部分になる。
姉フローリアは、八歳年上の第二子第一王女で、特性は『自然』である。ニ年の研修期間後、『自然』特性の本拠地である、王都から南東に位置する、バートウィッスルへ移り住み、日夜災害に強い穀物を研究している。この分野での姉は高い知識を持っていて、過去に発生した干ばつや冷夏で、農業の生産量が著しく減少した年でも、姉の開発した植物は、従来通りの実りを得、年間の食物生産量減少の危機を救ったという逸話が残っている。また、姉には“星見”の才能も備わっていて、近しい人達には占いで相談に乗ったりすることもある。ただ、多くの人から相談を受けるのは面倒ということで、こちらの才能については、公にはされていない。
「入浴の準備が整いました」
ポーラの声が隣の部屋から聞こえ、オリヴィアは隣の部屋に移動した。
入浴が済んだ後、夕食の準備が整ったということで食堂へと移動した。部屋に入ると、二人が既に席についていた。
「あら、マーシャル兄様も帰っていらしたのね。お母様とライナス兄様と三人と思っていたのに」
「ただいま。オリヴィア。そうなんだよね、魔術棟の渡り廊下を歩いていたら、国政棟の一階からライナスとオリヴィアが出てくる所が見えてね。僕も急いで帰れば夕食一緒に取れるかと思って、仕事を切り上げて帰ってきたんだよ!」
「そうなの。普段は魔術棟で夕食を取っているから態々こちらで夕食を取ろうとすることも珍しいかと思ったけど」
「研究に嵌ってしまうと確かに魔術棟で食事と済ませてしまうことも多いけど、僕が仕事を終えて帰ってきても、オリヴィアの夕食の時間と合わなくて一人で夕食取る事が多いからさ。だったら魔術棟でいいかなって思っていたのが理由だから、オリヴィアと一緒に取れるなら、こっちで夕食取るよ」
「俺や他の家族と一緒に夕食を取るっていうのは、お前の頭には無いんだな……。寂しい弟だな」
「確かにそうだね。あまり考えたことがなかったな」
「はぁ~。ま、いいさ。っで、オリヴィア、そんな所で立って話してないで隣においで。俺の希望を聞いてくれてありがとう。そういう格好のオリヴィアは、やっぱり可愛いな」
帰宅の際にライナスが希望した通り、オリヴィアは、空色の足首の丈まであるフレアスカートに白いレース柄の鎖骨が見える程度のスクエアネックの長袖のブラウスという可憐な格好を身にまとっていた。ライナスの呼びかけで、従者に椅子引かれて彼の右隣の席に着いた。食堂には、10人くらいは有に座れる長方形のテーブルが置かれていて、入り口から見ると左右に席が配列されている。左側の奥にライナス、隣にオリヴィア、その向い側にマーシャルが座っている。
「あら、今日は人数が多いこと」
入り口から女王であるナターシャが入ってきた。真っ直ぐなプラチナブロンドの髪を後頭部高い位置に一つに縛り、腰近くまで垂らしている。琥珀色をした切れ長の瞳を持ち、意志の強さが全身からにじみ出ている。ナターシャの特性は、『鳥獣』で鳥類を使役する力に長けている。特に鷹を使った情報伝達能力は他の追随を許さず、普段は国内の主要都市の情報伝達の統括を行なっているが、緊急事態には国外との緊急連絡の手段として重宝されている。
ナターシャは、マーシャルの右隣へ座り、夕食を取る人達は全員揃ったということで、侍従、侍女達が給仕を開始した。
「オリヴィア。そろそろ研修が始まって一ヶ月位経ったかしら?どう?少しは慣れた?」
メインディッシュまでの食事が終わり、食後ワインの飲みながら、ナターシャが尋ねてきた。
「はい。トスターナ様が丁寧に指導してくださっているので、大分慣れて来ました。今後の会議でも役立つだろうということで、これからは過去の会議録にも目を通していこうと考えています」
「そう。慣れてきているようで良かったわ。それに、過去のやり取りを知っておくことは良いことね。朝会議には私は参加していないけれど、他の会議だったら参加することもあるし、『鳥獣』関連の議題だったら、大体耳に入っているはずだから、過去の会議録で分からない事があったら聞きなさい」
「分かりました」
「今日俺もトスターナと話しましたが、オリヴィアのこととても褒めていましたよ」
ライナスが今日トスターナと会話した内容を話始めた。
「それは良かったわね。オリヴィア。トスターナに認めて貰えるなんて、凄いことよ。彼は社交辞令で人を褒めることはしないから」
「はい。そうおっしゃって頂いてとても感謝しています」
オリヴィアは、そう返答し、食後の紅茶を一口飲んだ。
「オリヴィア。そろそろエドモンドが帰ってくるはずなのだけど、貴方に話したいことがあるんですって。食後、時間を貰えるかしら?」
壁の時計が八時になっていることを確認したナターシャが、オリヴィアに尋ねてきた。
「大丈夫です。では、食後は居間に居ますので、お父様に伝いておいて貰えますか?」
「分かったわ」
「俺も一緒に話を聞くのは問題ないですか?」
横からライナスが話に参加してきた。
「特に問題は無いはずよ」
「じゃ~俺もオリヴィアと一緒に居間に移動しよう」
「それじゃ~僕も行くよ」
夕食の間、殆ど声を出していなかったマーシャルが突然そう言った。
一章はここまでです。
操作方法が、まだ把握しきれていないので、見せ方などはちょこちょこ修正していくと思います。
このお話の登場人物は一章で大体登場しましたが、人数が多いので誰が話しているのか分かりづらかったらごめんなさい。一応気をつけてはいるつもりなのですが・・・。