3 - 6人の会話
中央棟は八階建ての建物で、最上階を除き図書館として利用され、その中でも六階、七階は専用の閲覧室が複数用意されている。五階以下にも閲覧室は用意されているが、そちらは本を閲覧するだけという本来の用途として使われ、私語は勿論禁止である。それとは対照的に六、七階に設置されている閲覧室は、その場で会議や談話をすることも想定して作られているため、一部屋の大きさも広く取られ、会議用のテーブルセット、映写機、電話機、ソファーセット、バーカウンターなど様々なものが完備されている。それぞれの閲覧室の内装は異なっており、この第三閲覧室は、床がモスグリーンの絨毯で敷き詰められ、家具は全てウォルナット材で統一されている。ソファーは落ち着いたスモーク掛かったシャーベットオレンジで、カーテンと色を合わせている。全体的に明るいが落ち着いた雰囲気の部屋を皆が好み、時間がある時はここに集まってくる。
十六歳で特性が決まる前の八歳から十五歳までの八年間は、この国では一般教育を受けることが義務付けられ、基本的な知識は、この八年間で教えられる。教育の受け方は身分や立場によって様々だが、この六人の場合、皆それぞれ身分のある家庭の子女だった為、王立の名門エレンバレン寄宿学校で学んでいた。気が付けばいつの間にか六人で集まっていることが多くなり、今もそれが続いている。
オリヴィアは、国王の第四子第二王女である身分を過剰に気にせず、普通の友人として接してくれ、賑やかだがお互いを尊重し合えている今のメンバーを寄宿学校時代の財産と思って大事に思っている。
「ルーファスの特性も分かって、これで全員の特性判断が完了したわね」
ティーカップをソーサーに静かに置いて、口を開いたのはフィオナだ。
「そうね。フィオナが『金融』、ルーファスが『技能』、ランドルフが『鳥獣』、セドリックが『武術』、エミリオが『自然』そして、私が『国政』ね」
オリヴィアが一人ひとりの顔を見ながら全員の特性を口にした。
「気持ち良いくらい全員別々だったね。誰かは被るかと思っていたけど……」
「ま、全員違うっていうのも良いんじゃない? それぞれ違う知識や特技を身に付けられればさ、もしもの時に協力し合えるし」
ルーファスの感想に、エミリオが答えた。
「そういう考えもあるわよね。皆それぞれの特性で何をやりたいとかってあるの? ランドルフの騎士はさっき聞いたから分かっているとして」
フィオナが皆の顔を見回した。
「僕な元々何かを作ることが好きだから、『技能』で何か発明とか出来たらいいな~って思っている」
「確かにルーファスは手先が器用だし。寮の部屋でも色々作っていたわよね」
「結構ガラクタも多かったけど、『人が居ない間に床掃除をしてくれる箒』や『ほつれがすく直せる小型ミシン』あれは、良かったわ。セドリックは?やっぱり騎士?」
「特に騎士になるとは決めていない。自分の剣術が活かせる道に進めたらと思う。まずは研修に参加して、自分の適正について考えるよ」
「そうね。エミリオは?」
セドリックの言葉にうなずき、フィオナはエミリオに顔を向けた。
「僕も自分がにどんなものが向いているか見定めてから決めるよ。今のところ『自然』の分野でこれと言った特技がある訳じゃないからね。オリヴィアは? 既に研修が始まっているけど、何か目標とかってあるの?」
「私も特には無いわ。取り敢えず今与えられた課題を対応するので今は手一杯。あとは、少しでも早く一人前になって、お父様やお兄様の役に立てればと思っているわ」
「王家の子供で、特性が『国政』となってしまうと、色々大変そうだね」
「そうね」
オリヴィアは、小言で呟き笑顔で返した。
「あと、フィオナ、君は?」
エミリオがフィオナに話を振った。
「私は、実家も商業をやっているから、そっちに進みたいと思っているわ。良い物を自分の目で見つけて、それを国内外に広めていくってすごく楽しそう」
「確かにフィオナの目利き力は凄いよな!僕が作ったものでフィオナが『良い』って言ったものは、周りの評価が高いんだよ!きっと良い商人になるんだろうね。その時は僕が作った商品も取り扱ってくれよな!」
「勿論いいわよ!但し私が『良い』って判断したものに限るけど!」
そんなルーファスとフィオナのやり取りに周りは笑いながら聞いていた。
その後の閲覧室では、他愛のない会話が進んでいったが、オリヴィアはその会話が殆ど耳に入らないくらい、会議録作成に集中し、エミリオはそんな彼女を眺めながら紅茶を飲んでいた。