6 - 危機一髪
オリヴィア達三人は、マーシャルと分かれてから数十分進み、漸く妖獣を発見した。その姿はドラゴンのに似た風貌で、座っていて大きさは一見しては分からないが、人間と比べると遥かに大きく、周りから身を守るように、周辺の地面より下がった窪んだ場所に佇んでいた。
「やっと見つけたな」
「まだ、静かに座っているって事は、彼等は、妖獣には遭遇していないってことよね。よかった」
オリヴィアは、ホッと胸を撫で下ろした。
「最悪の自体は免れたってことかな。さてと。ゆっくりしているのも勿体無い。さっさと使役してしまおう」
ライナスが、二人の方に手を置いた。
「はい」
セドリックは、ライナスを見て頷き、妖獣が座っている窪みへと注意深く降りていった。オリヴィアは心配して、窪みの近くまで行こうとしたところで、ライナスに肩を掴まれた。
「オリヴィア。危ないから、お前は、ここで待っていなさい」
妖獣を捕まえるところを見たことが無いオリヴィアは、セドリックに危険がないか心配だったが、自分が動くことで足を引っ張ると思い、ライナスの言うことを聞いた。
「分かったわ」
「よし。いい子だ」
オリヴィアの頭をぐしゃっと撫でた。
セドリックは、足元を気をつけながらも素早く窪みへと降り、妖獣を捕まえるために魔道具である銅製の剣を取り出し、魔道具を発動させた。
「ん?向こうに人が居ないか?」
ライナスが、目を凝らして妖獣の先を見た。
「え!」
セドリックの様子を眺めていたオリヴィアは、ライナスの言葉で視線を移した。確かにライナスの視線の先には、人らしき姿が見える。
「まずいな。オリヴィア、行くぞ!」
ライナスは、オリヴィアに声を掛け、視線の先に見える人影を追いながら窪みに沿っ走り出した。
徐々に近づくと、何か喚いている言葉が聞こえた。
「何なんだよ、この島は!地面から這い出てくるなんてありえないだろ!だから、こんな島に来たくなかったんだ」
「あれは、オリヴィア達が遭遇したという不法侵入者の一人かな。見る限りすごい錯乱状態みたいだな」
二人からは距離があるため詳細は聞き取れなかったが、本人の混乱は見て取れた。
「あのまま進んでいったら、妖獣のいる窪みに落ちてしまうわ!」
彼が走っている先には、今まさにセドリックが捉えようとしている妖獣がいる。セドリックが使役する前に、彼が妖獣に近づいてしまったら、何が起きるのか想像すると恐ろしい。
「おい!危ないぞ!止まれ!」
ライナスが叫んだが、混乱している彼の耳には届かない。オリヴィアは、セドリックの方に視線を移すと、魔道具を地面に刺し、地面に赤い魔法陣が作られようとしていた。
(セドリック、間に合って!)
心の中で願いながら、視線を前に動かすと、男が窪みへと差し掛かっている。
「お願い!止まって~!」
今まで出したことの無いような声を張り上げた。しかし、既に平静さを失っている男にはオリヴィアの声も届かない。このままでは落ちてしまうと思い息を飲んでところ、上空から凄い勢いで妖獣が飛んで来て、男を捕まえて飛びだった。
「わぁぁ~~~!」
男の絶叫が、上空へと上がっていった。
「はぁ。はぁ。なんかギリギリ助かったな」
走るのをやめ、手を腰に置いたライナスが、肩で息を切らせながら、眩しそうに上空を眺めた。
「はぁ。はぁ。ふぅ。本当ね!あの妖獣に乗っているのは誰かしら?え?ランドルフ?」
上空で飛んでいる妖獣に目を凝らすと、それに乗っているのは、先ほどの男とランドルフだった。上空で一回転すると、そのまま高度を下げて、オリヴィアとライナスの前に強い風を伴い着地した。隼を大きくした様な姿の、白と黒のコントラストがある妖獣で、瞳はランドルフと同じアイスブルーをしていた。
「何かいいタイミングでここに来られたみたいだね」
妖獣に乗っているランドルフは、笑顔を向けた。
「ランドルフ、本当に助かった。ありがとう。お前の方は特に怪我とかしていないか?」
ランドルフの前で、既にぐったりと気を失っている男を眺めた。
「俺は大丈夫ですよ。ちょっと暴れていましたが、上空で一回転したら、泡吹いて失神してしまいました」
ランドルフが男を揺らしても、全く反応しなかった。
「私からもお礼を言わせて。ありがとう。最悪の事態にならなくて本当に良かったわ。あのまま窪みに落ちてしまったら、セドリックに危険が及ぶかもしれないと思って気が気じゃなかったの」
緊張から解き放たれ、その場にへたり込んでしまったオリヴィアは、笑みをランドルフに向けた。
「いやいいって。役に立てて良かったよ。それより、さっき凄い爆音が鳴ったじゃないか。それで何があったんじゃないかって、オリヴィアの所に向かったらさ、セドリックは妖獣を捉えようとしているし、何故かオリヴィアは、ライナス様と走って何か叫んでいるし、その先を見れば、知らない男が喚いて、妖獣に向かって突き進んでいるし。理由を聞く前にまずは、この男を妖獣から引き離せば良いんだなって思っただけだから」
「何も説明しなくても、状況を正しく判断してくれて助かったよ」
「ライナス様にそんな事言われるなんて、恐縮です」
ライナスに頭を下げた。
「俺からも聞きたいことがあるんだけど……」
ランドルフは、オリヴィア達の状況について質問を始めた。




