5 - 捕獲
時は少し遡る。
オリヴィアとセドリックを逃し、足止めを買って出たエミリオは、妖獣を捕まえる為に持参した杖を両手に持ち、マーシャルから教えて貰った言葉で、魔道具を発動させていた。
「誰かに遭遇するかも知れないとは思っていたけど、まさか不法侵入者に遭遇するなんて想定外だったな……。これを使えば、人でも一時的に行動を止められると言っていたし、足止めさせるには有効だよね。マーシャル様が手渡して下さった物だから、機能に問題はないと思うけど、思うような効果はでるかな……あっ、そろそろ来るか」
エミリオたちを追い掛けてきた声が段々近くなり、遂に霧から姿を現した。
「おっ。やっと追いついたな。もっと大勢いると思ったが、なんだ、ガキ一人か」
男達は、数メートル離れた所で、一度止まった。エミリオは声を発せず、黙って彼等を見ていた。彼等は、日焼けしたような褐色の肌をし、身に纏っている衣装もガローシャでは見かけない作りで、明らかに異国の人間だと分かる。彼等は皆荒々しい雰囲気を醸し出し、明らかに気質の人間では無いことも見て取れた。
「おい!お前は何者だ!何でここにいる?」
別の男性が、声をかけた。しかし、エミリオは黙って男達を見ていた。
「何黙っているんだよ。言葉が分からない訳じゃないだろ!」
「もしかして、怖くて声が出ないんじゃないか」
そんなことを言って、一人の男が人を見下したような目でニヤリと笑った。
「あのガキ、よく見ると女じゃないですか?それもかなりの上玉の」
一人が、エミリオの容姿に気が付き、仲間に話した。
「確かに男みたいな格好をしているが、あの顔は確かに女か。金髪に緑目、あの色の白さ、身なりを整えさせたら、かなりの美女になりそうだな」
「あれは、かなりの金になるぞ!」
エミリオの中性的な容姿を女性と認識した彼等は、言いたい放題の事を口にした。
「勝手なことを言ってくれるね。でも、オリヴィアはここから逃しておいて本当に良かった。こんな言葉、彼女の耳には絶対入れたくないな。オリヴィアの耳が汚れてしまう」
エミリオは、ボソリと呟いた。
「おい!そこの女。一人でそこに立っているだけじゃもう逃げられないんだ、俺達と一緒にこい!」
男達は、そう言ってエミリオに近づいてきた。男達の顔が全員確認できる距離ま近づいてきた時に、エミリオは手に持っていた魔道具を地面に思いっきり突き刺した。
突き刺した杖から一瞬緑色の魔法陣が広がったと思ったら、突然地面を揺れだし、爆音が轟いた。岩場だと思っていた地面から、木を生え出し、男達に枝が絡みついていった。
「おい。何なんだ。これは」
男達が必死に絡みつく枝から逃れようと藻掻いていた、
「おい!お前何をした!」
エミリオの近くで捉えられた男が、エミリオを睨みつけ怒鳴った。
「何をしたって……。見れば分かると思いますが、足止めです。あまりこの島で勝手に動かれるんは困るんです。危険も多いですし」
怒鳴り散らす男に視線を合わせて、淡々と答えた。
「いま、貴様がやっていることは危険な事じゃないのか?」
藻掻けば藻掻くほど、枝がきつく絡みつくことに気づいていないのか、更に藻掻きながら、エミリオに悪態をついた。
「怪我をさせている訳では無いので、危険な事ではないと思いますよ。それに勝手に我が国に入ってきたんですから、あなた方が危険にさらされるのは仕方がないと思います。それによって、こちらにも危険が及ぶのは避けたいですが……」
エミリオは、未だ地面が揺れいたため、しっかりと杖を抑えて体を支えていた。突然地面から枝が飛び出てきた時は、男達は必死に藻掻き逃れようとしていたが、動くほど枝がきつく絡みつくことが分かってからは、段々と大人しくなった。そんな中、男達の後ろに立っていた一人の男が、その場から離れるように走り去って行ったが、それには気が付かなかった。
「さてと。後は、セドリック達を待つしか無いのかな」
杖に手をかけながら、大人しくなった男達を眺めて一人呟いた。
「国王騎士団がこちらに向かっているので、彼等に引き渡さないとね」
突然背後から声がし、振り返るとマーシャルが、エミリオに向かって歩いていた。
「マーシャル様!」
ライナス、マーシャルがガルバラ島に居る可能が高いことは分かっていたが、突然の登場にエミリオは驚いた。
「国王騎士団というのは?」
「あそこを見て。もう近くまで来ているから、間もなく到着すると思うよ」
マーシャルが指を指した方には、確かに国王騎士団の制服に身を包んだ人達が、妖獣に乗ってこちらに向かっている。
「何故、国王騎士団がここに?」
「セドリックが呼んだみたいだね。詳しい事は聞いていないけど、父上に頼まれたと言っていた。僕達がエミリオに頼んだみたいに、何か理由があるんだろうね」
「セドリックが……。ということは、オリヴィア達と会ったんですか?」
「爆音が聞こえた後、慌ててオリヴィア達の所に合流したんだ。そこで、今回の事情を聞いたから、僕がここに来た訳」
「そうなんですね。因みに二人は引き続き妖獣を捕まえに?」
「そう。最初は、皆でここに戻って来ようとしていたんだけどね。オリヴィアが、エミリオが足止めした輩以外にも、人が居ないとは限らないから、念のため早めに妖獣を確保した方がいいと言ってね。兄上とセドリックと一緒に、妖獣を捕らえに向かっていったよ」
「彼等が無事なら良かったです。確かに、僕たちは不審者の人数を把握していないので、これが全員かは分かっていないんです。なのでオリヴィアの判断は賢明だと思います」
エミリオは、にこりと頷いた。
「それにしても、エミリオすごいね。爆音は想定内だけど、地響きには驚いたよ。流石ルジャンドル家の人間ってところかな。今度、色々試させて。中々興味深いから」
「あはは……。分かりました」
話が脱線し始めた所で、国王騎士団が到着した。鳥のような見た目の妖獣に、国王直属を表すロイヤルブルーの首輪がそれぞれに括りつけられている。全部で五体、殆ど音も立てずに、地面へ降り立った。
「これは一体どういうことだ!」
枝で動きを抑えられた人達を目にし、唖然としている。
「国王騎士団の皆様、ご苦労様。彼等は、どうも島に不法侵入して来た外国人みたいだよ。妹達に危険が及ぶと判断し、こうして一時的に動きを止めさせて貰ったよ」
国王騎士団の後ろから、マーシャルは声を掛けた。
「マーシャル様!何故こちらに?」
居るはずのない人間を目撃し、国王騎士団の面々も驚きを隠せない。
「こっちも別件の用があって、こちらに来ていたんだ。そうしたら突然爆音がしたから、オリヴィア達に何かあったのではと思って、ここに向かったんだ」
『でも、これ以上は話さないよ』と言わんばかりににっこりと微笑んで答えた。
「そうですか。分かりましした」
国王騎士も特に追求するつもりはないのか、それ以上は聞き返さなかった。
「君たちは、彼等が何者なのか分かっているんだね?」
「はい。この島にある窃盗団が入り込んだという情報が入っておりまして、それを捉えるためにこちらへ参りました」
国王騎士の一人は恭しく一礼をし、礼儀正しくマーシャルに答えた。
「窃盗団?僕たちは聞いてないけど?」
「はい。これは極秘事項ということで、知っている人間は国王様、宰相様と私達だけでございます」
「そうなんだ。息子達にも秘密ってことなんだね。ま~いいか。因みに狼煙が上がってからさほ時間は経たずに到着したけど、今までどこに居たの?」
「はい。オリヴィア様達がこちらに来る時に利用した船で待機しておりました」
「船ね。という事は、オリヴィア達がここに来る時には既に君たちが派遣されることは決まっていたっていたと。なら、オリヴィア達に妖獣を取りに行かせようとしたのもこれが理由かな?」
マーシャルは、誰に話し掛けているでもなく、一人でブツブツ言い始めた。




