2 - 色々遭遇
「今朝になってなんだよ、この霧は。これじゃ視野が狭くて妖獣が見つけられないじゃないか」
「昨日は、あんなに晴天だったのに、何でまた今日に限って。忌々しい」
二人の青年は、深い霧の中、文句を言いながら歩いていた。
「本当だよな。ま~逆に考えれば、俺達の姿も見つけづらい筈だから、行動はし易くなるはずだよな」
「それはそうだが……。こう視界が悪いと方向を見誤りそうだが、方向はあっているのか?」
青年が、手元にある地図と羅針盤で方向を確認した。
「初めに彼らが言っていた方向を考えると、方角は合っているはずだ」
「そうか。じゃ~、俺達の方が彼らよりは近い場所に居るはずだから、そろそろ現れるか……」
昨日、オリヴィア達がガルバラ島に到着した時に、船着場の近くで彼らの様子を伺っていた、そこから彼らが目指している方向を突き止め、先回りをするべく進んでいた。
「妖獣が使えたら、こんなに苦労することは無いんだがな、この霧じゃ妖獣を使えたとしても、視野が悪くて無理か」
「文句を言っていても仕方がない。もう進むしか無いんだ、先を急ごう」
そう言って更に青年二人は、島の中を進んでいった。
数時間程歩いていると、砂利の多い道から岩場の目立つ景色へと変貌していった。その先には、大きな物体の影が、視界に入ってきた。
「見てみろ!あれじゃないか?」
男性の一人が、前方に指を指した。
「あの大きさは……。やっと見つけたな」
二人が勇み我先にと前へ歩き出そうとしたところ、後ろから声がかかった。
昼を過ぎた辺りで、漸くセドリックの羅針盤が”赤”に変化した。
「やっと妖獣とご対面できるんだね」
「そうだな。霧のせいもあって、思ったよりは時間が掛かってしまったな」
「この霧だもの仕方が無いわ。どんな妖獣なのか楽しみね」
霧の中を歩いて行く中、段々と足場の悪い岩場の道へと変動していた。昼になっても霧は晴れず、数メートル先は白い霧で覆われて行く道の視界を遮っていた。
暫く、他愛のない会話をしながら歩いていると、
「ちょっと待て」
セドリックが、二人の前に腕を伸ばして、行く手を遮った。
「何かあった?」
セドリックの態度から、異変を感じたエミリオは、小声で質問した。
「何か気配がする。妖獣なら良いが、少し気をつけた方がいいな」
エミリオと同じく小声で答えた。
三人は、周辺の様子を伺うべく、周辺の大きな岩に隠れるように身を寄せて、周りの様子を伺った。暫くすると岩場を踏みつける音が僅かに聞こえてきた。
「確かに、何かいるみたいだね」
「でも、ここからじゃ何も見えないわ」
「しかし、距離感が分からないから、このまま先に進むのは危険だな」
「じゃあさ、迂回して様子を見てみない?あそこなら少し高い崖になっているし、そっちから進んでいけば、きっと鉢合わせはしないと思うし」
三人が進んでいる道の左手には、二メートルは有にある高い段差があった。そこから進めば安全ではとエミリオは提案してきた。
「確かに、ここで様子を伺っているだけじゃどうにもならないな。まずは気配の正体を確認しないと。オリヴィア、少し足場が悪いところを進むことになるが、大丈夫か?」
「私の事は気にしなくて大丈夫よ。二人の意見に合わせるわ」
「じゃ~早速移動しよう。僕達の気配に気づかれるとまずいから、足音には十分気をつけて」
三人は、迂回をしながら、前方の気配を確認するべく進んでいった。暫く足音に注意しながらゆっくり進んでいくと、先ほどの足音以外に、人の話声が聞こえてきた。
「やっぱり、妖獣じゃ無かったみたいだね」
小声でエミリオが、二人に話しかけた。
「他の人達が妖獣を探しに来たのかしら?」
「その可能性も否定はできないが、安易にそう考えない方がいいな」
「もう少し近づいて、様子を見てみようよ」
三人は、話し声がする方へと足を進めた。すると会話の内容が明確に聞こえてきた。
「なんなんだよ。この霧はよ~。全く前が見えないじゃないか」
「まさか、こんなに視界が悪いところだったとは予定外だったな」
「景色は悪いし、足場は悪いし、こんなんじゃ見付けるまでに一体どのくらいかかるんだよ」
「あんまり長いことこの島にいて、ガローシャの人間に見つかったんでは意味が無いからな。珍しいものを見つけてさっさと戻らないか?」
「と言っても、この辺岩しかないじゃないか!」
数人の男達の声が、岩場で響いていた。
「妖獣を探しに来た訳じゃ無さそうだね」
エミリオが囁くように言った。
「それに、ガローシャの人間でも無さそうだな」
「他の国の人が、この島に入り込んで来たってこと?何の目的で……」
「今聞こえた話からだけでは分からないけど、この島で妖獣以外の何かを探しているみたいだね」
「だな。この島に目的の物があるようだな」
「そんな物、この島にあったかしら?聞いたことはないけど……」
三人は、彼らに気付かれないように、小声で話し合った。
「妖獣を探しに来た訳では無いとすると、この近くに妖獣がいるってこと、彼らは知らないのよね」
「そうなるとまずいな」
「彼らが先に誤って妖獣に遭遇した場合、妖獣が暴れ出す可能性が高くなるね」
「それは危ないわ。彼らに事情を話して近付かないように、注意した方が良いんじゃないのかしら?」
「それは避けた方がいいな。彼奴等は、この国に不法侵入して来たんだと思う。そんな人達と直接話しをするのは危ない」
「僕も同意見。それよりは、彼らより前に妖獣を見つけて使役した方がいい」
「それはそうだけど、私達が先に見つけられるとは限らないでしょ?」
「それはそうだね」
「気付かれないように迂回して進めば安全だが、だと時間が掛るよな」
「妖獣を早く見付ける事を優先するなら、迂回して進むのは得策じゃないわ。その間に彼等が妖獣に遭遇してしまったら、私達だけでは興奮した妖獣を制御できるか分からないもの」
「となると、少し危険だけど、迂回せずにこの道を真っ直ぐ進むしか無いね」
「選択肢はそれしかないか。何かあれば俺達が守るが、オリヴィアも十分気をつけて」
「分かったわ」
三人は、足音に気をつけながら、妖獣がいる方向へと足を進めていった。
暫くすると、三人は、早く妖獣を見付けることに意識がいってしまい、足音に対して注意が散漫になってきていた。不法侵入者達の声が聞こえなくなってきたところで、岩場の段差から降りようとしたところ、岩場の石が崩れて大きな音を立てた。
「まずいな」
「気付かれたかしら」
三人は、気配を消して様子を伺った。
「何か向こうから音がしたぞ!」
「ちょっと様子を見てこいよ」
数人の声が聞こえた。
「やばいね。こっちに来るよ」
「仕方がない!皆走るぞ」
三人は妖獣のいる方向に走り出した。
「おい!そこに居るのは誰だ!」
「逃げるな!」
男たちの声が、次第に鮮明に聞こえてきた。
「距離が縮まっているな」
「このままだと、掴まってしまうね。仕方がない。僕がここで彼等を足止めするよ。その間に二人は先に行って」
エミリオは、走りながら、二人に言った。
「え!」
「大丈夫か?」
二人は驚いて、エミリオを見た。
「彼等を倒せって言われたら無理だけど、足止め位はできるよ。それに、何かある時に備えてって事で、マーシャル様から預かっている物もあるし、どうにかなるよ」
「本当に大丈夫なんだな」
「流石に、この状況で嘘は付かないよ。だから、早く妖獣を捕まえて戻って来てくれると助かる。それまで持ち堪えるから」
「エミリオにそんなの危険な事をさせられないわ」
「そんなに心配しないで。大丈夫だから。それより、三人が一緒に掴まったり、先に妖獣を見つけられて、暴れ出される方がまずい」
「でも……」
「オリヴィア、気持ちは分かるけど、ここはエミリオに任せる方が、得策だと俺も思う。エミリオ、悪いが後は頼む。こっちも早く応援に駆け付けられるようにするから」
「分かった。早く妖獣を使役して戻って来てくれよ」
「オリヴィア、行こう!」
「エミリオ、呉れ呉れも無理はしないでね!」
「大丈夫!心配しないで!」
セドリックとオリヴィアの二人は、エミリオを置いて、妖獣の方向へと走って行った。その時セドリックが、懐から何かを取り出し、空に目掛けて投げたのを、オリヴィアは横目で確認した。




