5 - 3人の会話
「どうにか予定通り、無事に一体確保できたな」
「頑張って歩いた甲斐があったわ~」
「あ~緊張した~」
ランドルフ、フィオナ、ルーファスの三人は、今、ある洞穴で野宿の準備をし、焚き火を取り囲み座っている。三人は、昼過ぎの休憩から、目の前に広がった山道を登り続け、山の中腹まで辿り着いたところで妖獣が生息していた洞窟を発見した。その妖獣は、鷹のような鳥の頭部に獣の様な下半身を持ち背には羽が生えた、見るからに普段見る生き物とは異なる形をしていた。ルーファスは、マーシャルに教えられたとおり、魔道具を使い、無事妖獣を使役することに成功した。妖獣を捕まえた時には、既に日が傾き始めていたことと、ここが洞窟ということもあって、三人は今日はここで野宿することに決め今に至っている。ルーファスが捕らえた妖獣は、洞窟の奥で眠っているように座っている。
「それにしても、この魔道具凄いよな」
ルーファスの妖獣用の魔道具であるリンクを手に持ち、ランドフルが感嘆の言葉を発した。
「だよな。マーシャル様に妖獣に向かって投げれば良いとは言われていたけど、あんな状態になるとは思っていなかったよ。突然光りだしたときは、マジで驚いた!」
妖獣に向けて投げたリンクは、スーッと妖獣の上飛んでいくと、妖獣の前でピタリと止まり地面にオレンジ色の魔方陣を妖獣を取り囲むように映し出した。魔方陣が完成すると妖獣はゆっくりと立ち上がり、ルーファスが立っている方向に向かって頭を垂れたのである。
「俺達の魔道具はどんな風になるんだろう。あ~、早く試してみたいな!」
「そんなに興奮しなくても、明日には多分試せるわよ」
「そうだね。恐らくランドルフとフィオナの妖獣もそんなに遠くないだろうし、僕の妖獣を上手く使えば明日中には二人の妖獣を見つけることはできるんじゃないかな」
「楽しみだな!」
ランドフルとルーファスは、明日が楽しみだとワイワイ騒いでいた。
「オリヴィア達は今頃どうしているかしらね」
二人の騒ぎを横目に、フィオナが呟いた。
「セドリックの羅針盤は出発時が“緑”だったからね。僕達よりは時間が掛かっているのは確かだね。大体羅針盤ので一色変化するのに四時間くらいは移動しないとダメだから、今日中に見つけることは難しいし、早めに休んでいるんじゃないかな?」
ルーファスは、騒ぐのを止めて、今日経験した事を元に考えを口にした。
「暗くなってからの移動は危険だしさ、早く休んで明日早めに行動した方がいいよな。セドリックが一緒だから、そう判断してそうだし」
ランドルフもルーファスの意見に賛同した。
「そうよね。オリヴィア、無理していなければ良いけれど……」
「オリヴィアは真面目だからな。皆の足を引っ張らないように、って頑張ってしまうかもな。でも、その辺はセドリックやエミリオは分かっているだろうから、きちんと対応してくれていると思うよ」
だから心配は要らないと、ランドルフは言った。
「そう願うわ。オリヴィアはいつも皆の期待に応えようと、無理してしまうから。今回の件だって、皆望んで来たとは言え、オリヴィアの都合で来ることになっているじゃない?その事で、オリヴィアが気に病んでいないかと、ちょっと気になっているのよね」
目の前で勢い良く燃え盛る炎を見つめながら、両腕で足を抱えて、フィオナがそう言った。
「確かにな。全く気にしなくて良いんだけどね。僕達は自分たちの意志でここに来たんだし。でも、オリヴィアの性格を考えると気にしてそうだよな。その上、ちょっと無理もしそうだね。寄宿学校時代からそうだったけど、自分から『やらない』とか『できない』とかそういう言葉オリヴィアから聞いたこと無いよ」
ルーファスがそう返した。
「王家に生まれただけでも周りからの期待や嫉妬の目が厳しそうなのに、『紺青の瞳』を持って生まれてしまったせいで、周りから更に期待と嫉妬を一身に受けているじゃない。人によっては高貴な生まれと高い将来性で天狗になって鼻持ちならない人になってしまいそうだけど、オリヴィアは違うじゃない?」
ルーファスを見てフィオナがそう返した。
「どちらかと言うと、そういう評価の目で見られると辛そうな顔をする時があるよね」
ルーファイスがフィオナの言葉に賛同した。
「そういうオリヴィアを見ると、時々こっちが辛くなるよな。どうにかしてあげたいって思っても、周りの人間ではどうにもならない事って多いからな」
ランドルフも話に加わった。
『紺青の瞳』この言葉は、オリヴィアと一緒にいる五人の中では禁句となっている言葉だ。彼女がどれだけこの言葉に振り回され、傷つけられているのかを知っているからである。
彼女が生まれた時に彼女の瞳が紺青であったことで、ガローシャで伝説となっている『紺青の瞳』の持ち主が王女として生を受けたという噂が国中に広まった。フィオナ達五人も、勿論その噂は子供の頃から聞いていた。王立エレンバレン寄宿学校に入学する時、噂で聞く『紺青の瞳』を持つ王女様が見られると、正直他の人と同じ好奇な目で、五人もオリヴィアを見ていた。始めて見たオリヴィアは、子供とは思えない程落ち着いた雰囲気の美少女で、高貴で知性的な雰囲気を兼ね備え、とても大人びて見えた。やはり『紺青の瞳』を持つ人間は一般の人とは違うと、勝手にオリヴィアを普通の人とは違うのだと初めは思っていた。
寄宿学校での生活が進むにつれ、『紺青の瞳』とは関係なしにオリヴィア自身の事を好きになった五人は、除々に一緒に行動をするようになった。一緒に行動していると、寄宿学校の生徒達、学校の先生達や寮で働く人間達、時々寮へ訪れる両親達から『紺青の瞳』を持つオリヴィアは、尊敬や憧れ、妬みや嫉妬を一身に受けている事が除々に分かり始めた。周りにどんなことを言われても、思われても、不満一つ誰にも言わず、『紺青の瞳』を持つに値する人物になろうと、オリヴィアは誰よりも努力していた。そんな姿を見て、五人は『自分たちはオリヴィアに対して『紺青の瞳』という言葉は絶対口にしないこと、特別な存在だと絶対に扱わないこと』を心に誓った。自分を一人の学友として扱ってくれる五人をオリヴィアは心から大事に思っていたし、五人はオリヴィアにそう思って貰える事を嬉しく思っていた。そうやって六人の絆は強いものとなったのだった。
「正直、先月の特性判断で『国政』に決まってから、オリヴィアの周りが一層騒がしくなった気がしないか?」
ランドルフが気になったことを口にした。
「確かにな。特に国政に携わっている人間や、権力に興味を持つ人間達が特にな。寄宿学校の時より、態度があからさまな気がするね」
ルーファスも、ランドルフの意見と同じような事を思っていたのか、眉に皺を寄せて、そう返した。
「本当よね。本来は来年度から開始される研修が早めに開始された理由は、環境に早めに慣れた方がよいという事も理由の一つだろうけど、オリヴィアに仕事を与えて、一人きりにしないというのも王様の目的なような気がするわ。『国政』に決まったオリヴィアに取り入ろうとする人達や、足元を掬おうと敵対心剥き出しの人達から守るために。『国政』の若手の中でライナス様に続く有望株であるトスターナ様をアドバイザーに付けたものオリヴィアを周りに人間から守るためのような気がするし」
腕で膝を抱え込み、膝に顎を乗せた状態でフィオナは、火を見つめながらそう言った。
「そうかもしれないな。そう考えると、ガルバラ島にはオリヴィアを守る人達って俺達しか居ないんだな。流石にここで何か起きるって事ないだろうけど……」
「嫌なこと言わないでくれよ、ランドルフ。でも、オリヴィアと一緒に行動しているのは、俺達同期の中で一番の剣の使い手のセドリックだからな。突然何かあってもその辺は対処できるだろ。でも、そうなると、王様は何故突然オリヴィアに妖獣を取りに行かせようとしたのかな」
何か目的があるのかなとルーファイスは呟いた。
「妖獣を早めに捕まえさせたかった理由があったってことか?理由はあまり思い付かないけど、王様がオリヴィアを危険な目に合わせるような事はしないと思うよ。王様を含めてオリヴィアの事を家族がとても大事にしているのは、俺達でも分かるから」
「そうよね。でも、そう言われると心配になるわね。今からでもオリヴィア達と合流したほうがいいかしら?」
不安をフィオナが口にした。
「フィオナが気にするのも分かるけど、そこは一緒に行動しているセドリックとエミリオに任せよう。僕達は早く自分達の妖獣を捕まえて、少しでも早くオリヴィア達に合流することが、一番オリヴィアを安心させることだし。途中で心配だからってオリヴィアの所に行ったら、返ってオリヴィアが心配してしまうと思うよ」
ルーファイスが、ここで気に病んでも仕方がないとフィオナをはげました。
「そうよね。まずは自分達のやるべきことはしないとね」
フィオナが、ルーファスの意見に頷いた。
4章はここまでです。




