3 - 準備
「ここまでで何か質問はあるかな?」
再度マーシャルは、六人を見渡して話した。
「もし誤って魔道具を発動してしまったら、どうすればいいですか?」
フィオナが手を上げた。
「もし誤って、発動してしまったらね。その場合は、発動の言葉に『ラ』を頭に入れてくれれば、発動を停止させることができるよ」
「と、言うことは、『バデル』で発動した場合は、『ラバデル』と言えば、魔道具は発動を止めるってことですね」
「そういうこと」
「今回とは関係ないんですけど、他の特性の場合は、どんな魔道具になるんですか?」
ルーファスが、「どうしても気になって・・・」と質問した。
「他の特性ということは、『魔術』と『芸術』ってことだね。『魔術』の場合は、『武術』とにて剣の形をしている。但し、剣は銅ではなく、鉄でできているけどね。あと、『芸術』は、横笛かな」
「そうなんですね。ありがとうございます。特性によって魔道具の形が違うのは、何か理由があるのでしょうか?」
「この形は伝統的なものだから、正直理由までは分かっていないけど、僕が思うには、大事なのは、形よりも魔道具が作られている素材のような気がするんだよね。その素材を効率よく使えるのがこの形なのかなと思っている。今でも、妖獣との我々の関係も謎が多いし、僕たちノバルディとコントレントでは、使える魔道具も異なるからね。色々考えると面白いかもね」
「そうですね。想像力がかき立てられそうですね」
ルーファスは頷いた。
「魔道具が通良しない場合ってありますか?」
エミリオが、続いて質問した。
「ノバルディの人間で、自分の特性の魔道具を使って妖獣を捕らえられなかったと言う話は、僕は聞いたことがないな。ただ、冗談で魔道具を使わずに妖獣に近づいて妖獣に暴れられて大変の思いをしたという人の話なら毎年数回は聞くね」
「結構、頻繁にあるんですね。因みに、そういう場合はどう対処すれば良いんですか?」
「今説明した魔道具のような、簡単な手順では対処できなから、手順がちょっと複雑になるんだよね」
「具体的にどうするんですか?」
「暴れだした妖獣の周りに別の魔道具を使って結果を作って、妖獣の精神を安定させる香を焚く必要があるね。やり方は聞いたことはあるけど、僕はやったことが無いな。こういう事態が発生した場合は、もう数人では対処できないから、ガルバラ島の近くにいる警備隊が呼ばれて対処するんだよ。だから、毎年発生しているってことが僕の耳にも入るんだけどね」
マーシャルは、にっこり答えた。
「間違っても、妖獣を暴れさせては駄目なんですね」
エミリオは、思った以上に対処方法が大規模だったため、「気をつけなきゃな」と呟いた。
「気をつける事には越したことはないけど、説明した通りの手順を踏んでいるのでれば、こんなことにはならないよ」
「ふざけるつもりはないですが、十分に肝に銘じておきます」
エミリオは頷いた。
「一応万が一を想定して、何か準備をしておくのも良いかもしれないね。取り合えず、残りの魔道具についても説明するよ」
マーシャルは一旦話を切って、使役するために必要な水晶珠の使い方や、ガルバラ島に着いてから使えそうな魔道具についても説明をした。
マーシャルからの説明が一通り終わったころ、扉をノックする音が聞こえた。
「ライナス兄様かしら?」
部屋の扉を開くと、ライナスがお供を連れて立っていた。ライナス信者と言われているジェラルドとマリオンだ。
「お待ちしておりました。ライナス兄様。そちらのお二人もご一緒ですか?」
オリヴィアが三人を部屋に招こうとすると、
「いや、二人は違う。近くで用事があるってことで、ここまで一緒についてきただけだ。それじゃ~ジェラルド、マリオン。俺は妹と話があるからここで」
二人に振り返ってライナスは話した。
「分かりました。それでは失礼します」
ライナスに礼をして二人は別の階へ消えていった。
「さて、マーシャルから魔道具の説明は終わったのかな」
「はい。先程一通りお話伺いました」
代表してフィオナが答えた。
「じゃ~タイミング的に調度良かったな」
ライナスは笑いながら言った。
「既に妖獣を捕まえて使役するまでの手順については、マーシャルから説明を受けたかと思っている。俺は妖獣を捕まえに行った事のある経験者として、君たちの質問に答えられればと思って今日は来てみたのだが、島までの行き方や、島での行動、他にも気になることがあるなら聞いてくれ」
マーシャルとは反対側のオリヴィアの隣の席に座ったライナスが、六人全員の顔を見ながら話しかけた。
「実際に妖獣を見つけるにあたって、何が一番大変でしたか?」
ランドルフが最初に質問した。
「捕まえる事自体は、魔道具で対応できるから大したことではないが、見つけるまでの道のりが俺は一番大変だった」
「道のりですか?」
「そう。ガルバラ島は、島と言っても小さな島ではなくてね。一日ではとても回り切れないし、島には深い森や岩場の山、急な崖や流れの強い川などもあるから、折角羅針盤が近くを示していても、実際には中々目的地へ辿りつけないと言う事も良くある。運良く見つけ易い場所に妖獣がいたこともあると聞いたことがあるが、基本は行きづらい場所に生息していると思ったほうが良いだろうな」
「じゃ~格好はそれを踏まえたものにした方がいいですね」
「そうだな。軽い気持ちで行くと大変な目に合うぞ。ま、ピクニックに行くんじゃないんだから、妖獣捕まえに行くのに軽装っていうのもないとは思うけどな」
ライナスは、ランドルフに対して、身振り手振りをしながら、楽しそうに話した。
「剣などは持って行ったほうが良いのでしょうか?」
今の話を受けて、セドリックが次に質問した。
「俺は一応持って行ったな。何があるか分からないし、草場で道を作るのに使ったり、火をおこすのに枝を切ったりするのにも使えるし。あるとそれなりに使い道はあるよ」
「ありがとうございます。それじゃ~剣を使い慣れが人間は帯剣して行った方が良さそうですね」
「そうだな。しかし、お前の場合、剣を持っていけるなら魔道具無くても妖獣捕まえられそうだよな。面白そうだから、試してみろよ」
「流石にそれは遠慮させてください。先ほどマーシャル様から冗談半分で妖獣に近づいた人達の話を聞いたばかりなので」
セドリックは、「すみません」とライナスに答えた。
「そうか。それは残念。ま~大事になった時は、俺が唆したってことで俺も相当怒られそうだしな。あはは」
ライナスは笑いながら「半分冗談だから気にするな」とセドリックに返した。
「ライナス様は三人で妖獣を探しに行ったとのことですが、三人で一体ずつ探して行ったということですか?最初に見つけた妖獣はどうやって連れて行ったりしたのでしょうか?」
エミリオが質問した。
「おっ。良い質問だな。俺達の場合は、島で何があるのか分からないからということで、最初の一体目は三人で探して妖獣を使役した。その後は上手く使役した妖獣を使いながら他の妖獣も捉えていったよ」
「使役した妖獣を使うのですか?」
「妖獣の種類とか相性とかで多少は変わるが、使役し終えた妖獣に乗れるのは一人とは限らない。少なくとも二人は乗れると思う。三人以上は妖獣の大きさに依存することになるから一体目を見つけたら、後はすべて妖獣で移動して捕まえる。というのは無理があると思っている。ただ、二体目を探すときに、距離はすぐそこなのに目の前が崖とか川などに阻まれて近づけないなんて場合は、使役した妖獣を使って二人で近くまで移動して新たに妖獣を使役することができる。そういうやり方で上手くやると後半はかなり楽になるよ。妖獣を一度も使わずに、全て捕らえようとしたら一旦いつまで掛かるんだって時間が必要になるよな」
「そうですね。聞いておいて良かったです。参考になります」
「そうそう、ガルバラ島に行けば分かると思うけど、妖獣が生息しているだけあって、他の島に比べて少し癖があるんだよ」
「癖ですか?」
エミリオが聞きなおした。
「そう。例えば、普段道を歩いている時とか、目印になるものを見ながら歩くだろ?初めて歩く道なら、その目印を覚えるように歩いたりとか。でも、ガルバラ島ではそれが通用しない。念のため歩いた道に目印を付けていても、同じ場所に戻って来たらその目印が消えていたり、さっきここには池があったはずなのに、戻ってみたら池が無くなって森になっていたりね。だから、目で見て覚えた道はあまりあてにはならない」
「え~それじゃ~迷子になるんじゃないですか?」
ルーファスが、話に割り込んできた。
「手ぶらで行ったらなるだろうな」
「と言う事は、他の方法で位置や方向を把握するってことなんですね。あっ、この羅針盤はその役目も持っているってことですか?」
手に持っていた羅針盤を興味深げに見た。
「そういうこと。その羅針盤は、自分が捕まえる妖獣の位置も教えてくれるが、ガルバラ島での自分歩いている方向や大まかだけど位置を知ることもできる。俺たちがガルバラ島に行く目的は妖獣を捕まえに行くだけだから、それだけ分かれば十分だろ。妖獣を使役した後は、羅針盤でグラバラードの方向に向かって飛べは良いだけだからな」
「確かにそうですね。そう思うとガルバラ島は面白そうなところですね」
「ま~面白いと言えば面白いな。俺もガルバラ島に着いた時は、態々目印が消えるか確認したり、妖獣を捕まえることと全く関係ないを試して、聞いた通りだとか喜んでいたが、暫くすると直ぐに飽きるぞ」
「そうなんですね…」
「好奇心があるのはいいことだし、ガルバラ島については少し試してみればいいさ」
「ガルバラ島って不思議な島なのね」
今までの話を聞いてオリヴィアが呟いた。
「そうだな。ま~妖獣が居るくらいだからな。突然景色が変わるくらい許容範囲だろ」
「ライナス兄様ってそういうところの許容範囲って凄く広いですよね」
「俺は懐が広い男だからな」
ライナスは、オリヴィアの頭を軽く叩きながら答えた。




