2 - 妖獣の見つけ方
部屋に控えていた侍女に消毒した針を一本用意して貰い、左手の人差し指を消毒した後、自分で針を指に刺した。チクっとした痛みが走った後、指先には米粒程度の血の玉が膨れ上がってきた。それを羅針盤の針に付けると羅針盤が一瞬光輝いた後、元の状態に戻った。針が位置を見ると、ガルバラ島がある北西を指していた。
「羅針盤の準備は終わったな。あとはどうやって妖獣を使役するかだが……」
「羅針盤の使い方は分かりました。あの、一つ質問ですが、私が使役できる妖獣が一体だけ島いるってことですか?」
羅針盤の準備が終わったことを頷きなら確認し、エドモンドは、続きを話そうとしたが、オリヴィアが話を遮って質問をした。
「羅針盤で方向を示す先にいるのは、お前と相性が一番良い妖獣になる。国の人間全員が妖獣を使役する訳ではないし、職業柄妖獣を一体以上使役している人間もいる。もし誰にでも自分が使役できる妖獣が一体しかいないならば、人口と同じ数の妖獣が存在しているということになるし、複数使役することはできないということになってしまうな。妖獣を使役するためには相性の善し悪しが問題になるから羅針盤で一番使役しやすい妖獣を示してくれる訳だ」
「そういう事なんですね。それで使役する方法というのは」
「羅針盤で相性の良い妖獣を見つけると言ったが、相性の程度は人それぞれ異なるため、程度によって捕まえ方も変える必要がある。稀にあると聞いているが、相性の良い妖獣の場合は、相手に対して声を掛けるだけでも十分効果があるらしい。まぁ、今回その可能性は低いとして、ノバルディの人間であれば、魔道具を使うことで十分捕まえられるはずだ。コントレントの場合だと、魔道具だけでは制御できず、妖獣と戦ったり、薬で眠らせないと捕まえられないという話も聞いたことはあるな」
ガローシャでは、大きく二つの身分がある。上級階級のノバルディと一般階級のコントレント。ノバルディに属するのは、百年以上続く歴史ある家柄で、噂では伝説の八神の血を受け継いでいる子孫とも言われている。真偽の程は定かではないが、妖獣を捕まえ易いというのもその辺りが理由なのかもしれないと、オリヴィアはエドモンドの話を聞いて思った。
「コントレントが妖獣を捕まえようとしたら、大変なのですね」
「そうだな。妖獣を捕まえる前には、魔道具を十分に用意したり、武装したりと大変らしい。しかし今回は、お前にしても、お前の友人達にしてもノバルディの人間だから、そこまで警戒しなくても、難なく捕らえられると思うぞ」
「そうですね。因みに妖獣は捕まえれば、そのまま使役されるのですか?」
「捕まえただけでは意味がない。それを自分の物とするためには、妖獣の眉間に使役を促す珠を埋め込む必要がある。マーシャル、これも持っているか」
「ありますよ」
先程と同じくローブから直径三センチ程度の水晶珠を取り出した。
「お前、何でも持っているな」
ライナスが驚いてマーシャルを見た。マーシャルは特に何も答えず、「ふふっ」と笑っただけだった。
「この珠がそうですか」
マーシャルから珠を受け取ったエドモンドの掌に乗った水晶珠を覗き込んでオリヴィアは言った。
「そうだ。この珠を妖獣の眉間に押せば後は自然に埋め込まれる。ただし、妖獣を使役するためには、自らそれを行う必要がある。他の人がやったら、その人の妖獣になるぞ」
「相性は自分の方が良くても、使役できるのは、珠を入れた人と言うことですね」
「そうだ。珠を入れた事で使役が完了するからな。相性が良い方が、珠を入れやすいということに加え、使役された後の妖獣との関係もスムーズにいくという理由から、羅針盤で示された妖獣を捕まえて使役するっと言うのが一般的な手順だ」
「どの妖獣も使役することはできるけれども、羅針盤を使う方が、使役をする手順が簡単で、羅針盤を使わない方法で見つけるとなると、見つけ出すのも大変で、その上使役させるまでも難しいということなのですね」
「そういうことだ」
「妖獣の見つけ方と使役する手順については理解しましたけど、羅針盤が示した方向で他の妖獣と鉢合わせしたり、襲われたりすることは無いのでしょうか?」
オリビアは考えついた質問をエドモンドに向けた。
「妖獣は人が入れるところで群れることはないから、羅針盤の方向に進んでいくだけであれば、遭遇する可能性は低いはずだ。もし鉢合わせしてしまったとしても、向こうから襲ってくる事は基本ないから、半径五メートルより近づかなければ問題はない。ただし、それ以上近づいてしまうと妖獣の警戒心を刺激してしまうから、相性が悪い妖獣の場合は襲ってくる可能性もあるな。私が話した手順を踏む限りは問題がないと思うが、好奇心にかられて別の妖獣に近づいたりすると少し厄介な事になるかもしれないな。お前の場合は、そんな事はしないと思っているが、一緒に行く友人達にも、そこは十分に注意するように念を押しておいた方がよいだろう」
「分かりました」
オリヴィアは、エドモンドに向けてしっかりと頷いた。
「俺の時も羅針盤が指していく方向に進むことは大変だったが、妖獣と戦うとかって言うことは無かったぞ。ただ自分の妖獣を見つけるのだけでも一日では無理だから、数人で一緒に行動するとそれ以上日数が必要になるな。帰りは妖獣に乗って帰ってくれば四、五時間くらいで戻って来られるが、行きはガルバラまで五日くらい掛かると見た方がいいから行くなら早めに行った方がいいな。のんびりしていると来年度の研修が始まってしまうしな」
「そうね」
「十日くらいあれば、妖獣を見つけて戻って来られると思っているが、早めに対処するのに越したことはないな。行く前の準備等については、ライナスやマーシャルに相談するように。それでも分からないことや足りない物があれば私に言いなさい。あと、妖獣を捕まえる時に使用する魔道具については、マーシャルに聞きなさい」
「分かりました」
「使えそうな魔道具は、魔術棟の僕の部屋に色々あるよ。明日にでも僕の部屋に来る?それともオリヴィアがいつもいる第三閲覧室へ行こうか。彼らにも使い方を説明した方がよいと思うし」
「それじゃ、第三閲覧室まで来て貰っても良いかしら?皆で魔術棟に押しかけるのは気が引けるし、一人だと緊張してしまうし。午前中はいつもの朝会議に参加しているから、皆への説明はお昼ごろになると思うの。午後ニ時くらいに第三閲覧室で良いかしら?」
「分かったよ。その位の時間になったら顔を出すね」
「俺もその時一緒に顔を出そうか?彼らの疑問点とか答えられると思うし」
「お仕事に影響がないのなら是非お願い」
「了解! ニ時丁度には行けないかもしれないけど。顔は出すよ」
「ありがとう」
「今月中に妖獣を見つけに行かせたいということは、国政棟に居る時にトスターナには話しておいたから、明日、今後の予定について二人で相談して決めて欲しい」
「分かりました。明日トスターナ様と会話します」
「いつ王都を出るか決めたら教えてくれるか。ガルバラまで行く列車や船の手続きは私の方でするから」
「ありがとうございます。それでは決まり次第ご報告します」
「よろしく頼む。今日話したかった事は以上だ」
この後、宰相と打ち合わせがあると言うことで、エドモンドは、ソファーからゆっくり立ち上がり、従者を連れて書斎へと消えていった。
2章はここまでです。




