1 - 父 エドモンド登場
2章です。
居間は玄関ホールを挟んで食堂と反対側にある。広さは食堂より一回り大きく、入って右側に暖炉が用意され、それを取り囲む形でソファーが配置されている。暖炉を背にして、右側にゆったりした一人掛けの肘掛け椅子がニ脚と暖炉に向かい合わせた場所に一脚。左側に三人掛けが一脚。現在は夏ということもあり、特に暖炉は使っていない。三人掛けのソファーにライナスとオリヴィアが座り、暖炉に向かい合わせた席にマーシャルが座ってエドモンドが来るのを待っていた。
「待たせてすまなかった」
居間の入り口から、侍従とナターシャを連れたエドモンドが入ってきた。そのまま空いている一人がけのソファーに二人はそれぞれ座り、侍従は二人の後ろに控えるように立った。
エドモンド・ファンタニア。オリヴィア達の父親であり、この国の国王である。特性は勿論『国政』で、五年前にガローシャ国の王として就任した。背はライナスよりも更に高く、逞しい身体つきをし、髪は艶のある黒髪で少し長めの髪を後ろに撫で付け、横の髪は耳に掛けている。真っ青な瞳を持ち、第一印象は逞しさが目立つが、瞳を見ると本人の懐の広さが垣間見られる風貌をしている。
「さてと。オリヴィア。特性判定が下って一ヶ月。来年度の研修が開始されるまでに残り一ヶ月切るのではないかと思う。既に私やライナスの提案で、おまえだけは研修が開始されているとは思うが、本格的に研修が開始されると自分の時間をゆっくり取ることも難しくなる。そこで、来年度の研修開始前に妖獣を見つけてきてはどうかと思い、今日時間を取って貰った」
「妖獣を捕まえる?」
「そうだ。お前も知っていると思うが、この国の要職に就く人間は皆、各々が使役した妖獣を持っている。彼らは王都以外にも用事で各地へ移動する事が多い。移動は勿論馬車や鉄道を使うことも可能だが、それだと移動するだけで数日掛かってしまう事もある。旅行など時間に余裕がある場合は、それはそれで良いが、仕事の場合は数日掛かってしまっては問題になることも多い。妖獣を使えば飛んで行くことができ、数日掛かった移動が数時間で行けるようになる。要職についている人間は、抱えている仕事の内容によるが時間が勝負の場合もあるから必然的に妖獣を使役することになるのだ。一般的にはニ年の研修を終えてから、各自必要と考えた場合に妖獣を見つけに行くのだが、お前は王家の人間だから、できれば研修が終わり次第、直ぐにでも私やライナスの手伝いをして欲しいと思っている。その為には、研修が終わってからではなく、研修が始まる前に妖獣を見つけに行って貰いたいと思っているのだがどうだろうか」
エドモンドが、オリヴィアをじっと見つめ、一言一言ゆっくり話した。
「確かに俺達も、どうせ見つけに行かなくちゃ行けないならさっさと行くか。と言って研修前に見つけに行ったか」
「特性判定の年は、暇ですからね」
「特性判定は、自分の誕生日に行われるから、その一年は一般教育課程の学生でも無いし、特性の研修生でも無いから、確かにそれだけだと暇と思われそうだが、時間があるはずだって事で、色々用事を頼まれて忙しかった記憶があるんだがな……。『暇だった』って表現できる人間はお前だけだと思うぞ。はぁ、まいいや。因みに父上は、妖獣をオリヴィア一人で見つけに行けっておっしゃっているのでしょうか?」
「特にそんなことは思っていない。一人で行きたいって言うなら特に止めもしないが。ライナス、お前の時はどうだった?」
「俺の時は、同期三人で行きましたね。大人数で行っても、それぞれ探している妖獣が同じ場所に生息しているとは限らないし、人数多いと統制を取るのも面倒だし。マーシャル。お前はどうだった?」
「僕は二人でしたよ」
「って事は、フェビアンとか。お前から人の名前が出る時は殆どあいつだな」
「そうですかね。あまり気にしたことが無いですが」
「息子二人は、友人数人で行ったと言うことだな。だから何人かで行って来ても勿論構わない。お前と仲が良い例の五人の中で一緒に行ってくれそうな人はいるかな。彼らも将来のことを考えれば今見つけに行っても問題はないと思うが」
エドモンドは、オリヴィアにそう問いかけた。
「そうですね。明日にでも皆に聞いてみます。因みに妖獣を見つけに行くと言って、何処に行けば見つけられるのでしょうか?あと、捕まえ方とか?色々分からない事だらけですが……」
オリヴィアは、自分以外の家族全員が妖獣を使役していることは知っているが、どこでどのように捕らえて使役したのか、その過程は知らなかった。
「妖獣は、国の北西にある孤島ガルバラに生息している。王都からだと、列車で『芸術』地区の主要都市『カルビナ』まで行って、そこから船で行くことになる。見つける方法だが、マーシャル、妖獣の羅針盤を持っているか」
「ありますよ」
ローブの中から、掌に載せられる程の大きさの黒い正八形の羅針盤を取り出し、エドモンドに渡した。
「これが自分の妖獣がどこにいるのかを探す時に使う羅針盤だ。ま、それ専用に造られた魔道具ということだな。羅針盤の針が振れたところにお前の探す妖獣が生息している。また、この羅針盤は、目的の妖獣に近づくと色が変わる。変化の色の虹と同じ七色。紫色が一番遠く、赤色が一番近い色になる。探す時の距離感はそれで判断できると思う。あとは、羅針盤にお前の情報を認識させる必要がある。方法はいくつかあるが、手っ取り早いのは血を一滴羅針盤の針に垂らすことだ。マーシャル、この羅針盤は誰も使っていない物か?」
「はい。新品ですよ」
「分かった。オリヴィア。今やってみるか」
「問題が無ければ是非」
オリヴィアは頷いて答えた。




