漢字で謎DX004
次の長文を読み、カッコ内の漢字①~⑤の読みを答えよ
見上げれば青。(①昊天)の合間から、鵯のけたたましい声が降ってきた。
ヒーヨヒーヨと悲鳴のような声を上げながら木々の陰へと飛び去るのをぼーっと見ていると、うっかり腕の隙間から工具を地面に取り落してしまい、辺りに(②鏘然)とした音が鳴り響いた。
「あっ」
一瞬遅れで声を上げてから、「しまった」と思考が追いつく。
「馬鹿野郎、何やってんだてめぇ! 商売道具を落とすんじゃねぇッ!」
親方の怒声。
ゼルフィンは「すみません!」と謝って、工房の屋根の下へと駆け戻った。
炉から熱風が吹き付けてくる。親方の白髪交じりの頭はびっちりと汗をかいていて、額には髪の毛が張り付いていた。
親方はむすっとした顔で言う。
「戻ってこいって言ったわけじゃねぇ。しっかり休憩できたのか?」
「はい。もう大丈夫です」
頷いた。
親方はぷいっと顔を背けて作業に戻った。
ゼルフィンの父の兄である親方の横顔は、数年前に(③斂葬)された父のそれによく似ている。
遊牧民である祖父方の一族に跡継ぎとして引き取られて遊牧民として育った父を、役人は「(④左衽)の民」と蔑んでいたが、村の者からは慕われていたらしく、父の遺体は村から近い(⑤堡塁)の傍に埋められた。
「で、手紙にはなんて」
親方はぽつりと、横を向いたまま、作業をしながら話しかけてきた。
ゼルフィンは首を振って答える。
「何も。……何も進捗なし、という便りだけ帰ってきました」
「そうか」と親方は頷いた。
父は病死したわけではない。天寿を全うしたわけでも、落馬等の事故に遭ったわけでもない。賊との争いに巻き込まれて、殺された。
そしてその場にはゼルフィンの姉もいて――。
しかしいくら捜しても、姉の遺体は見つからず、周囲の村々に尋ねて回っても保護されている様子はなかった。おそらく連れ去られたのだ。
旅に出て捜し出そうにも、ゼルフィンにはゼルフィンの生活がある。貯えには限りがあり、日々の仕事もこなさなければならない。だから代わりに、工房へ来る行商人に文を託して各地で姉の消息を尋ねてもらっている。
(姉さんは……)
――姉さんは、どこにいるのだろうか。無事なのだろうか。
「集中しろ。鉄に不安が出ちまう」
「は、はい」ゼルフィンは頷いて、金槌を手に取った。
カン、カン、カンと子気味良いテンポでリズムを刻んでいく。
やがて雑念は意識の彼方へと沈んでいって、ゼルフィンは作業に没頭していった。
答え
①こうてん:昊=大空。※だだっ広い天に日が居座ってるイメージで覚えよう。
②しょうぜん、そうぜん:鏘=玉や鈴、金属が鳴るさま。※擬音語っぽいので、金属が石畳に落ちたときの音を想像して覚えよう。
③れんそう:斂=おさめる。収斂の斂。
④さじん:ひだりまえ。衽=おくみ。着物の前身頃のあのややこしい部分。※左前は左のほうを(自分の体に接触するように)内側に着ること。古代では右でも左でもどっちでも良かったが、着丈が長くなるにつれ右前でないと動きづらくなったため右前がオーソドックスになり、左前の遊牧民等は野蛮人として区別したらしい。
⑤ほうるい、ほるい:堡=とりで、つつみ、どて。塁=とりで、るい、かさねる。