漢字で謎DX003
次の長文を読み、カッコ内の漢字①~⑤の読みを答えよ
よくよく見れば、シャダール皇子の足元には遠い異国の『地中海の建築』やら『(①大禹)の治水』やらの分厚い本が散乱していた。
ここ数日は何事もなく平穏な日々を過ごしており、まったくどうして、心穏やかで素晴らしいじゃないか。――と思っていたところへ、これだ。
「皇子、今度は何を企んでいるのです?」
散乱する資料から察するに、公共水路に関する「何か」を考えているようだが……それに関しては、ここ数か月、民からの不満も上がっていないし、大臣たちから挙げられた議題の中にも見当たらない。
というかこの国の治水に関しては、すでに数百年も前に、皇子と同じ名の例の王により整備されており、国の中央を東西に横切る大河の(②泛々)たる様は「銀の大帯」と讃えられている程度に有名で、現に昨日だって晩餐の場でも、歌の題材にされていたほどだ。
――なのに、この皇子がこんな悪い顔をしているということは。
どうせろくでもないことを考えているのに違いないである。絶対に、必ずだ。
皇子は言う。
「昨夜の(③郢曲)を歌っていた女を口説き落として来てくれないか?」
ほら、ろくなことじゃない。
「なんですって?」ルア=ジーダは冷ややかな視線を投げかけつつ聞き返した。
皇子は足元の包みから何か――ぼろぼろの木切れのような物を取り出してルア=ジーダに見せつつ、言う。
「これは彼女の荷物の中に入っていた物なのだがな、荷を預かっていた兵が、『不審物』ということで俺に提出してきたのだ」
「……暗器ですか?」
「違うな。毒やら刃物やらが仕込まれていないのは確認済みだ。……というか、宮仕えの者には見慣れない物だろうから分からなかったのだろうが、これは(④梭杼)だ。織物を織るのに使う道具だな。楽師なのにこのようなものを持ち歩いているということは、御守のようなものなのかもしれん。これに巻かれている糸は、この国のものではないようだから。御守ならば、手元に返してやらねばなるまい」
取り上げたという梭杼は、船のような形をしていて中央に赤い糸が巻いてあった。言われてみれば御守のような気もしてくる。
「流れ者ということですか。しかし、異国の楽師を起用することはそう珍しいことではないですし、気に入ったのなら、あなたが直接召すればよいではないですか? 私の給金ですと(⑤錙銖)にも満たないので、食いついてこないのでは?」
「そう謙遜するな。お前、最近宮中でひっきりなしに話題にされてるじゃないか」
「誰のせいだと思っているんです!」
「がなるなよ。――悪かったって。だから、お前がノーマルだってことを証明するためにも彼女とお近づきになってほしいんだ。お前が『変態』だと俺が困ることに、最近ようやく気付いたんだ。反省してる」
皇子の自分勝手な言い分に、ルア=ジーダはもはやため息しか出なかった。
答え
①たいう:中国の夏王朝の王。黄河の治水にあたった。
②はんぱん:川の水が満ちて流れている様子、それに浮かんで漂っている物、また、転じて浮ついているさまやありふれたさまであることを示す。
③えいきょく:平安から鎌倉時代に歌われた宮廷歌謡。
④さちょ:機織機で横糸を通すのに使われるシャトル。
⑤ししゅ:ほんのわずかな量であること。銖=100粒の黍。錙=24×8銖の黍。