漢字で謎DX002
次の長文を読み、カッコ内の漢字①~⑤の読みを答えよ
彼に出会ったのは二か月前のことだった。
それはとある会議の日のことだった。
ルア=ジーダが会議室へと足を運んでいるとき、欄干に寄りかかり退屈そうな顔をして乾菓子を食べている男に目がいった。
――新しく来た皇子だ。
一目見て、分かった。ルア=ジーダは王宮勤めの者の顔はすべて覚えているので、見かけない顔の者がいたらすぐに分かるし――いや、それよりもまず目を引いたのはこの男が放つ異彩さだった。質素な服を着ているのに、なぜか存在感があり、園のような不思議な匂いがする。
ルア=ジーダが一礼すると、皇子は、にかっと笑って「そう硬くなるな」と言った。
軽く世間話をして別れるつもりが、皇子はルア=ジーダのことを気に入ったらしく、あれこれと質問攻めにされた。
「ふぅん。おまえは肇国の王について(①研覈)するために王宮に来たのか。すごいな」
「滅相もございません」
「俺は育ちが悪くて学などないうえに、いまやこの(②垣籬)から出ることすらままならぬ。おまえさえよければ、色々教えてほしい」
言いながら、皇子は懐から(③芳卉)を取り出してルア=ジーダに差し出した。
メオの花だ。
ああ、匂いの元はこれか。とルア=ジーダは思う。
本来ならばこの花は特別な者へと贈るものなのだが、皇子はこれまでずっと山で暮らしていたというから、――仕方がない、今はまだ目くじら立てて(④匡飭)する必要はなかろう。……と、花を受け取った。
思えばあの時、皇子が満足気ににっこりと笑ったのを、自分はもう少し疑問に思うべきだった、とルア=ジーダは深く深く反省している。なぜならば、その日を境にルア=ジーダの生活は一変してしまったのだから。
実は皇子があの花の意味を前もって調べていただとか、「下僕として使えそうな奴」を探すためにわざと無知な振りをしていただとか、ルア=ジーダが立ち去ったあとに王宮中に「ルア=ジーダが花を受け取った」と言いふらしたりだとか、その他諸々。
「そう怖い顔するな。眉間に皺寄せてると、早く歳をとるぞ」
イライラとしながら(⑤清灑)な壁を睨んでいるルア=ジーダに皇子がそう言った。
――誰のせいだと思っているのだ。
「あなたに巻き込まれたせいで、私はいまだに『変態』呼ばわりされていることだとか、あなたが失態をやらかすと私がお叱りを受けたりすることだとか! あなたには、積もる恨みがあるんですよ!」
ルア=ジーダがそう抗議すると、皇子はけらけらと声を上げて笑った。
「それは悪かったな。……いっそのこと俺の付き人になるか?」
「冗ッ談じゃないですよっ!」
ルア=ジーダは力を込めて即答した。
答え
①けんかく:覈=激しく議論すること。※研覈=詳しく調べること。
②えんり:籬=竹などを組んで作った低い垣。
③ほうき:卉=草。※芳卉はなんかいい香りがする草のことらしい。
④きょうちょく:匡=ただす。飭=整える。
⑤せいしゃ:華美なところがなくさっぱりしているさま。