漢字で謎DX001
次の長文を読み、カッコ内の漢字①~⑤の読みを答えよ
(①鷁首)の嘴の先に、真っ白い小鳥が止まっていた。
「見ろ、ルア=ジーダ。美しい鳥だな」
ついと伸ばされた指の先に目線を遣って、ルア=ジーダは同意した。
「ええ。そうですね」
尾の長い小鳥だ。
ルア=ジーダは鳥の形の舳先とそれに留まった小鳥を見比べて微笑ましく思い、「親子みたいですね」と言おうとしたが、……しかし彼がそれを口にする前に、皇子が「旨そうだな」と物騒な言葉をぽつりと吐いたので、ぽかんと口を開けて絶句しないわけにはいかなかった。
「……シャダール皇子!」
「冗談だ。冗談」皇子はひらひらと手を振った。「こんな小さな舟の上で狩りなどしないさ。ひっくり返って舟が駄目になる。……アレはショックがデカかったからな」
なにやら経験がある様子の物言いに、ルア=ジーダはそっと溜息をついた。
本来ならば多くの者が(②連袂)して然るべきこの皇子が変人で、身の回りの世話をしている者たちさえ皇子の伴を固く遠慮するのは、今に始まったことではない。
なにしろ皇子はついこないだまで、森の奥深くで獣どもと共に暮らしていた野生児なのだから。常人には理解しがたい言動をとるのも、仕方がない。
こんなのに国を束ねられるのは嫌だ。本人だって王になる気は毛頭なかったのだろう。
しかしそうは言っても仕方がない。どうしようもない。てんでどーにもならない事情というのは、残念ながら、世の中には往々として存在するのだ。
まあつまり――。
「俺の母は俺に王位を継がせたくなくて(③佚遊)を決め込んだんだがなあ。兄上たちがごっそりおっ死んじまったってんならしょーがない」
という経緯。そしてその結果がコレだ。
……どれだ?
突拍子もない皇子の行動はルア=ジーダの頭をいつも悩ませる。しかもその顔が、昔から憧れていた「(④肇国)の王シャダール」の肖像画とそっくりな顔なのがまたなんとも憎らしい。
考えているうちに、当の皇子はといえば懐に佩いた二本の短剣を抜いて、ひょいひょいひょいとジャグリングしている。周囲で舟遊びをしている女人がきゃあきゃあと歓声を上げて(⑤抵掌)した。
しかし、物が物なだけに、皇子の伴として来ているルア=ジーダは気が気ではない。
「皇子! 危ないですからっ、剣で遊ぶのはおやめください!」
子供を叱っている気分だ。
「俺は子供ではないぞ?」皇子がニヤニヤニヤ。
訂正。子供より性質が悪い。ぷつん、とついに堪忍袋の緒が切れた。
すうっと息を吸って――。
「皇子ーっ!」怒鳴った。
答え
①げきしゅ、げきす:鷁=架空の鳥。※鷁首は鷁の首の形をした船のへさきっぽいものだろう。
②れんべい:連=つらねる。袂=たもと。※なんか寄り添って一緒に行動しているイメージだろう。
③いつゆう:佚=なくなる・抜け出す。※佚遊は「世俗? 知ったこっちゃねえ」って感じで気ままに過ごすことだろう。
④ちょうこく:肇=はじめ・ひらく。
⑤ししょう:抵=たたく。掌=手。※抵の「し」は常用漢字の表外音訓。