wish for04:光へ。
「憂灯君?」
由李は世界が見えない分、空気を読むのが巧い。
俺の感情を汲み取るように、心配そうな声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「んー?」
「私に隠し事しないで?って言うのは…調子乗り過ぎかなぁ?」
「そんな事無いって。俺は…由李には隠し事出来ねぇ気がする…」
「そうなの?何で?」
「俺は汚れてるから…。由李には全部見透かされるだろうな…」
「汚れてる?憂灯君が?」
「ほんとはな…俺は由李と居れるような奴じゃねぇんだよ…」
優しく由李の頭を叩きながら、俺は話した。
由李は、全然納得してないみたいだけど。
それは、由李が俺の事見えてないから…。
本当の俺を見たら、由李は絶対失望するわ…。
窓から、月光が射し込んで来る。
陽光みたいに暖かくない。
けど、冷たくも無い。
俺は、太陽より月が好きだ…。
由李を抱きながら、そう思った。
「憂灯君は、汚れてなんかいないよ」
…それは、由李が俺のほんとの姿を見た事無いから…。
喉から出かかった言葉を、俺は飲み込んだ。
こんな事で、今の状況を壊したくはない。
「…なんで由李はそう思うんだ?」
俺は言葉を選んで、由李に問いかけた。
相変わらず、由李は俺の腕の中。
月光が、スポットライトのように俺らを照らしてる。
漆黒の闇に浮かぶ月。
そういや…昔月を捕まえようとした事があったな…。
「自分の事を判ってる人、判ろうとしてる人は、少なくともそうしない人より心が綺麗だよ」
由李の静かな言葉は、何か判んねぇけど、包み込まれるような説得力があった。
由李が言葉を飾るような娘じゃないのは、少し話しただけで判る。
それもあるのかもしれねぇな…。
「どういう意味?」
「善悪の区別が、自分の中でついてるって事。それは、自分を制御出来る人。それに…」
「それに?」
「大人の言う“良い子”が子供の思う“良い子”だとは限らない」
俺より年下なのに、この考え方。
…そんな事、考えもしなかったな…。
俺は、大人の言う“良い子”の規格外だろう。
留年、不登校(つーか、サボりだけど)、夜遊びと深夜徘徊。
中学で一定を保ってた俺の成績は、高2の2学期からジェットコースターみたいに駆け下りた。
おふくろは泣いた。
親父は、呆れた。
兄貴は我関せず。
弟は、罵倒した。
しかも泣きながら。
誰よりも性質悪ぃ…。
『17歳』。
この頃に、俺は変わったらしい。
俺に言わせたら、変わってなんかないんだけどな?
我慢する事を止めただけ。
仮面被るのを、辞めただけ。
それが、そんなにいけない事だったのか…?
俺が、家族を壊した?
何もかも、俺のせいなのか?
なぁ――……………!!!!!
誰か…応えろよ………。
突然、由李と俺の位置が逆になった。
由李が俺を抱き締めて、俺は由李の腕の中。
由李の心臓の音――生きてる音がする。
「泣きたい時は泣いて良い。泣きたい時は泣けば良い。我慢する事…無いんじゃない?」
由李にそう言われて、俺は初めて自分が『泣きたかった』事に気付いた。
プライド。
嘘。
強がり。
由李の腕の中では、無力なものだった。
プライドを1つ削いで、俺は漆黒から黒になった。
嘘を1つ落として、俺は黒から灰色になった。
強がりを脱ぎ捨てて、俺は由李の腕の中で白になった。
なれた。
「降り続く…哀しみは…真っ白な…雪に変わる…」
「ずっと…空を見上げてた…」
「この身体が…消える前に…今願いが届くのなら…」
「もう1度…強く抱き締めて…」
俺が唄うと、由李はさっきよりも強く俺を抱いた。
「もう1度…強く抱き締めて…」
「憂灯君、知ってるんだね…」
「あぁ…」
「これぐらい、我が侭言っても良いんじゃない?」
「我が侭…?」
「淋しい時は淋しいって言えば良い。誰かと居たい時は、傍に居てって言えば良いと思うよ?」
「じゃぁ………」
「何?」
「こうしてて…このまま…」
「ん…」
その日は、久しぶりに人の体温を感じながら寝た。
誰かと一緒に寝るのなんか、何年ぶりだろう…。
そのまま、俺は眠りに就いた。
俺が眠るまで、由李はずっと俺を抱いててくれた。
次回更新予定は、1週間以内を目途に考えています。
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