wish for25:最初の決意。最後の戸惑い。
「由李…病気じゃん?」
龍偉の質問に、俺はゆっくり応えた。
俺の応えに、秀統と龍偉以外は不思議そうな顔をした。
「俺、思ってたんだけどさ」
最初に汰河が口を開いた。
「由李ちゃんて、何処が悪いの?」
「あ、俺も思った」
「俺も〜」
「俺も。何処も悪そうに見えへんもん」
「あー…それは…」
秀統が、俺をちらちら見ながら4人の会話を止めさせようとした。
俺に、気を遣ってるんだろう。
別に、良いんけどな。
俺が、皆に学校行くって言ったのは、由李の病気の事を説明しようと思ってたからで…。
俺の“夢”の為にも…高校卒業して…大学行かねぇと…。
由李が、俺が今から勝手にする事を、許してくれるか…判んねぇけど…。
「別に良いよ」
俺は、秀統を制して話し始めた。
「由李…眼ぇ見えねぇんだわ」
「え…?」
「嘘やろう…」
「あんな子が…?」
「眼が見えない…?」
4人バラバラの反応。
龍偉は、黙って俺が話すのを見ていた。
心なしか、表情が険しい気がする。
秀統は、少し俺から視線を外していた。
そんな2人を視界の端に捉えながら、俺は更に続けた。
「俺さ…由李の眼が見えるようにしてやりたいんだ。それが出来るとか出来ないとか…そういう問題じゃなくて。俺がやるって決めたから」
「憂灯君…」
「憂灯…」
4人は勿論、秀統も俺を見た。
驚きとほんの少し…羨望の眼差し。
俺が自意識過剰なだけかもしれないけど。
龍偉を見ると、滅多に笑顔を見せない龍偉が、笑っていた。
それに、俺はかなり勇気付けられた。
「頑張れ」――そう、言ってくれてるみたいで。
「だから、真面目に勉強して高校卒業して、大学行こって思って」
また、皆は黙り込んだ。
んー…こんな真面目に反応されたら…ちょっとなぁ…。
俺、めちゃめちゃガキだったみたいじゃね?
…や、ぶっちゃけガキだったけどさー。
秀統ん事無視ってたとか。
親父嫌いとか。
ガキですけどぉー。
俺だって、好きな女出来たら変わるぞ?
「…ほら。やっぱ憂灯だって考えてんじゃん」
沈黙を破ったのは、やっぱり龍偉だった。
龍偉は、多分俺ら3人――俺、秀統、龍偉――の中だったら、1番大人かもしれねぇな…。
ちゃんと、気まずい空気を打破してくれる。
そういう所は、由李と似てるかもしれない。
「僕、秀統に言った」
「あぁ…言ってたな。あれ、結構堪えた」
「あ?そうだったのかよ?」
「って、俺よか龍偉のが憂灯の事理解ってるなって思ったから。ムカつくじゃん」
「…榊城先輩ってさ」
「結構ブラコン?」
「あぁ?今、何か言ったかぁ?北清ぇ?金十ぉ?」
「えっ!?いや、滅相もございませんっ。ね、汰河君?」
「俺、何も言ってないから」
「うわ…汰河君良い度胸してるー…」
「怖いもの知らずっすね…」
「気に入った!!」
「「「はっ?」」」
…何だよ、俺ん事ほったらかしかよ?
別に良いけどっ。
けど…秀統…それで、あん時泣いてたのか…。
可愛い奴だなー…。
「居たっ」
後ろで、声がした。
振り向いたら、そこに士が居た。
「話、終わったよ」
何か…士の眼腫れてる…?
泣いたのか…?
まさか、由李が泣かせた訳じゃねぇよなぁ…?
そんな事を考えていたら、南音に頭を叩かれた。
「った…何すんだよっ」
「ぼーっとしてるから。部屋、行くんでしょ?」
南音に促され、俺は他のメンバーと一緒に由李の部屋へと向かった。
「あ、お帰りぃー」
俺らが部屋に入っていくと、由李は唄うのを止め、こっちを向いた。
天使の微笑み。
皆、自然と笑顔になる。
由李って、凄いよな。
何で、こんなに良い娘がこんな不公平な思いしないといけないんだ?
「まだ、2人紹介してなかったよな?」
「士君と一緒に来てた人?」
「そう。南音と汰河って言うんだ」
「南音君と…汰河君」
「そう。2人ともっ」
俺は2人を傍まで呼んだ。
流石に気まずいのかな。
2人とも、真っ直ぐは由李ん事見えないようだった。
南音は目を伏せて、汰河は由李を通り越して後ろの壁を見ている。
「なぁ…」
由李見ろよ。
俺が、そう言おうとした時。
「憂灯君、皆に話したんだ?」
由李が、俺の言葉を飲み込んだ。
少し、哀しそうな表情。
やっぱり、俺のした事は間違ってたのだろうか…。
「ごめん…。けど、コイツらだったら…っ」
「うん、判ってるよ。ありがとう」
由李はそう言うと、ゆっくり2人の方へ手を伸ばした。
まだ、2人とも何も喋ってない。
由李には、何処に居るか見当がつかないだろう。
けど、俺は黙って見ていた。
これは、俺じゃなくて…南音が。
汰河が。
俺以外の、他の奴らが乗り越えなきゃいけない事だから。
由李の手は、2人を探していた。
けど、由李には見つけられない。
南音と汰河も、由李の手を取るのに、戸惑いと…当惑もあって拒否している。
…ように見えた。
少なくとも、俺には。
俺が、由李の手を取ろうとした時。
南音と汰河が、同時に有里の手を取った。
「初めまして由李ちゃん。俺、樋野 南音」
「北清 汰河だよ」
「俺達の事…判る?」
南音は由李の右手を、汰河は由李の左手を取って言った。
そっと2人の手を握って由李は微笑んだ。
「南音君は…綺麗な指だね。汰河君の手…温かい」
南音と汰河は、由李に向かって微笑んだ。
此処だけ見てたら、別世界だなー。
まぁ…汰河だけちょっとオーラ違うけど。
少しして、由李が2人の手を離した。
「磨代 由李です。仲良くしてくださいっ」
そう言って、俺らに向かって笑った。
皆、同じように由李に笑い返した。
もう…コイツらは由李に対して遠慮したり、気を遣ったりはしないだろう。
由李も、それを望んでる。
「もう此処までの道順判るだろ?遊びに来てやって」
「お前、いつから由李ちゃんの保護者なんだよ」
「保護者じゃねぇし〜」
「じゃあ何よ?」
「決まってんじゃん。彼氏」
更新が大幅に遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
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