wish for23:俺の決意。
「憂灯君…2人っきりにして良かったの?」
南音が心配そうに俺に声を掛けてきた。
汰河も落ち着かないのか、座っているテーブルを指でずっと叩いていた。
俺らは3階のオープンスペースに居る。
秀統は龍偉と。
香は臣と。
汰河は1人で。
南音は俺の隣に。
汰河と南音、俺以外は、皆笑顔が零れていた。
「さぁ…由李が2人にしてって言ったしな…」
俺は、南音に視線を合わさずに応えた。
こういう時の南音の視線。
痛い。
何もかも見透かされそうな、強い視線だから。
声は心配そうだけど…。
瞳はなぁ…。
嘘吐かねぇから。
俺の醜い感情――汚い心、見透かされそうで怖いから。
絶対南音とは眼ぇ合わせねぇ。
「憂灯君…」
今の俺に何言っても無駄だぞ。
南音とは絶対話しねぇからな。
何で俺がこんなに南音拒むか…。
多分、皆は気付いてんだろ?
そう。
嫌だよ。
当たり前じゃん。
俺ん中、嫉妬でぐちゃぐちゃ。
由李を男と2人っきりにして普通に居れる訳無いだろ?
ほんとは、今すぐ士ボコりてぇよ。
でもなぁ…。
そんなの、出来ねぇんだよ。
しねぇの。
由李と…約束したから。
俺だって、醜い自分、由李の前で晒したくねぇしな。
それは、南音の前でも一緒。
連れの前で、自分の『素の素』なんか見せらんねぇよ…。
「あ、俺さぁ?ちょっと皆に聴いて欲しい事あんだけど」
南音の心配を無視して、俺は努めて明るい声を出した。
南音も、そんな俺を見て諦めたのだろう。
小さく溜息を吐いて、俺の言葉を無視している香と臣を呼んだ。
「香っ臣っ。憂灯君が呼んでる」
「んー」
「はぁいっ」
俺の前に、士以外のメンバーが集まった。
「話って何だよ?」
「んー?俺の決意でも語ろうかなぁって」
「はぁ?」
秀統の問い掛けに俺が応えると、汰河が訳が判んねぇ、といった顔で声を漏らした。
他の連中も、大体同じような感じだな。
…まぁ、龍偉だけは表情変なかったけど。
取り敢えず、皆の反応は無視して、俺は話し始めた。
「俺、これから真面目に高校生する事にしましたぁー」
…絶句。
皆、アホ面だなー…。
顔崩れ過ぎだろ。
どうしたんだよ?
…あ、俺のせいか。
にしても、皆驚き過ぎじゃねぇ?
俺が真面目に学校通ったらいけねぇのかよ。
「…あのな。そろそろ何か言ってくんねぇ?」
皆が何も言ないので、俺は溜息を吐いた。
俺の皆のイメージって、何だかなぁ…。
今更ながら、自分に付いてるイメージを嫌に思った。
自分の連れにすら、この扱い。
そりゃ、他人にはめちゃめちゃ悪い奴に見えるんだろ…。
「何で」
「ん?何て?」
「何で学校行く気になったの」
龍偉が1番初めに尋ねた。
他の奴らも、訊きたかった事は同じらしい。
皆、俺を見ている。
俺は由李の部屋を見て、口を開いた。
由李の部屋から、あの唄が聴こえてきた気がした。
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