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20/27

wish for19:過去の真実。

その後。

秀統に全部話した。

南音の事とか。

つーか、殆ど南音の話しかしてねぇ…。

俺、何だかんだ言って、南音には頼ってる部分があんだよな…。

秀統にも言われたし。


「憂灯…樋野大好きだな」

「はっ?何キモい事言ってんの?」

「お前の樋野に対する言動の方がキモいって」

「はぁ?普通に南音の話しただけじゃん」

「何かぁ…カレカノっぽい」

「はぁ!?何だよそれ!?考えただけでキモいし」

「そんだけ、樋野には頼ってるっつー事だろ。…樋野が、俺の代わり、か…」

「あ?何か言ったか?」

「別に?何も言ってねぇよ」

「なら、良いけど…。あ、まだ秀統に言いたい事あったんだ」

「まだあんのかっ」

「ダメかっ。最近、話して無かったじゃん」

「憂灯のせいじゃん…」

「そーですねー」

「うわ、すっげ棒読み」

「…すんまそん」

「古い上に、誠意が無いな」

「あ゛ー!!もー良いから聴けっ」

「さっさと話せよ」


秀統が笑いながら俺に言った。

大分、以前の俺ららしくなってきた。

1年?2年前の俺らに…。


「俺なぁ、彼女出来たっ」

「は?彼女?嘘だろ!!」

「酷っ!!俺、モテるんだぞ〜?」

「や、それは無い。俺のがモテるし」

「俺だって」

「いや、俺」

「…どっちでも良いわ。今、そこ論点じゃねぇし」

「で?彼女がどした?」

「多分、秀だったら知ってると思うんだけどぉ〜…」

「何よ?」

「その()…な?磨代 由李っていうんだけど…」

「磨代…磨代…有里…?」

「特別病棟…312号室…」

「―――……………っっ!!!」

「なぁ…由李って治んのかなぁ…?」


秀統は俺から視線を外した。


何か知ってる。


そう思った俺は、じっと秀統を見つめた。

秀統は、自分は医者になるんだってずっと前から決めてたんだ。

だから、親父の病院にもよく出入りしてる筈なんだよな。

だから、そういう…特殊な病気の子は………。

親父も、秀統には(スッゲ)ぇ期待してんだよ。

秀統に特別病棟見せて、患者の説明してない、とは言い切れねぇだろ?

…ま、してるって言い切れる訳でもないけどな。


「由李ちゃんは…」


秀統が重い口を開いた。


やっぱ、親父、秀統には話してんだな…。


親父は嫌いだから秀統に嫉妬はしねぇけど、やっぱり悔しい。

由李の事を1番知ってんのは、俺でありたいのに…。


「由李ちゃんは、大脳に障害があって…てか、出来たらしいんだけどな。中学までは普通に見えてたって言ってたから…」

「あぁー…そんな話、聴いた気ぃするわ。結局、どういう事なんだよ?」

「由李ちゃんな…中3ん時事故にあったらしい」

「事故?由李が?」

「そう。卒業式の日だったって言ってたかな…」


秀統の話はこうだった。


2年前――………


20xx年3月12日。

由李の中学の卒業式。

真っ青な空で、門出の日には、最高の天気だった。

卒業式も、(オゴソ)かに、感動的に執り行われたらしい。


由李の中学は、卒業式終わった後一旦教室帰って、最後のホームすんだって。

で、卒業生がホームしてる間に、在校生と教職員、保護者が外でアーチを作る。

そのアーチを通って、近くの公園まで行く。

卒業生全員が。

そこはもう無礼講で。

髪染めて来ようが、何しようが教師らも何も言わなかったって。

だから、不良グループの奴らは特服着たり…女子は改造のセーラー着てきたりしてて。

何か、それが有里の中学の伝統だったらしい。

由李の上の代も、下の代もやってる事なんだと。


由李は、そういうの着ねぇ()なんだけど、由李の連れはそういうの着る子も居て。

そのまま、街に遊びに行ったらしい。

特服着てる奴は特服のまま。

改造セーラー着てる奴は、それ着てるまま。

そんなの着てない子らも、最後だから――って、制服のまま遊びに行ったらしい。


初めは、良かった。

皆で騒いで。

けど…そんな格好してたら目立つじゃん?

それで…それで由李は―――………………………っ。


「最初に吹っかけて来たのは、向こうらしい。初めは、男だけのイザコザだったんだと。でも…」

「何…?」

「その内、向こうも仲間呼びだして…そうしたら、向こうん中にも女が居たって」

「そんで…?」

「最後…リンチみたいんなって…。蹴られた拍子に、頭打ったらしい…」

「…………………」

「外傷は全然大した事無かった。神経の方も…全部無事だった…けど…っ」

「脳…やっちまったのか…」

「そう…。由李ちゃんはまだ知らねぇよ。何が原因でそうなったのか。頭打った時に、記憶もあやふやになっちまったみたいで…」

「その“事故”の記憶がまんま抜けてんだな…」

「そういう事だな…」

「それって、結局どうなんだ?治んの?治んねぇの?どっちなんだよ?」

「それは…俺にも判んねぇ…。俺も、専門的に医学学んでる訳じゃねぇし…」

「そっか…。だよな…。けど…」

「?」

「信じてたら、信じてたら…いつかはっ」

「当たり前じゃん。まず、信じない事には治んねぇよ」

「だよなっ」

「由李ちゃん…大事にしてやれよ…」

「判ってる…。俺…本気だから…」

「そ、か…」


俺らは、それ以上何も喋んなかった。

一気に喋って疲れたのもあったし、俺は考えたい事があった。

多分…秀統もそうだったんだと思う。

今日、俺に一度に色々言われたから。


暫らく、無言の空気が続いた。


ガチャッ――


俺らは同時に振り返った。

屋上の扉の開いた音。

俺は、俺と秀統(シュウト)龍偉(ルイ)南音(ナオト)達以外に此処を使う奴を知らない。

今は授業中。

南音達は、絶対来ねぇ。

じゃぁ、誰が………?


「うわ。何。この空気」

「龍偉…」

「龍偉かよ〜!!ビビらせんなよなー」

「仲直りしたんだ」

「…何か、そんな言い方されると照れんな」

「そんな言い方されなくても照れるわっ」

「え〜?秀統、照れてんの〜?可ー愛ーいぃ〜っ♪」

「うっさい!!死に(サラ)せ!!」

「はぁ!?お前が死ね!!このボケ!!」

「ナス!!」

「カス!!」

「ハゲ!!」

「その物凄い低レベルな争い、止めてくれる」


瞬間、その場の空気が凍った。

龍偉は、普段から感情の起伏を表に出さねぇ奴だけど、切れた時も無表情だから怖いわー…。

笑ったらすっげ可愛いんだけどな。

まぁ、俺も龍偉が笑ってるトコあんま見た時無いけど。


「る、龍偉、図書室居るって言ってなかったか…?」


うわ、俺、今声裏返ったぞ?

聴いた?

そんだけ、龍偉は怖いんだよ…。


「あまりにも遅いから、殺し合いでもしてんじゃないかと思って見に来てみた」


………………。

いやいやいやいやいや。

殺し合いとか、しねぇから。

普通に。

怖いし。

さらっと言う龍偉のが、更に怖いけど。


俺と秀統は、互いに顔を見合わせた。

多分、2人とも思ってる事は一緒。


龍偉って(コエ)ぇ………。


「っていうのは冗談。秀統。呼びに来た。ついでに憂灯も」

「俺?」

「俺も?」

「秀統は答辞の最終確認。憂灯は…樋野さんちの南音君に頼まれた」

「あー…憂灯の彼女か」

「いや、違うし」

「あっそうなんだ。だから、樋野あんなに必死に…」


キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン…


授業終了のチャイム。

学校のチャイムって、何で何処も変わり映えしないんだろうな。

もっと違うのにすれば良いのに。

例えば?

んー…教会の鐘とか?


「樋野、憂灯捜してたのか?」


秀統が、チャイムが鳴り終わるのを待って話し始めた。

龍偉も、それに応える。


「うん。それも必死に。あれは、夫の帰りを心配する妻のようだった…」

「いやいやいやいや。有り得ねぇから」

「やっぱ、憂灯と樋野付き合ってんだよ」

「ホントに。そりゃ、お祝いしないとね」

「けど、樋野競争率高そうじゃね?」

「あー…僕の友達にも居た。冗談か本気か判んないけど、『樋野、マジキレー…』って言ってる人」


いやいやいやいやいや。

俺からすれば、南音よか龍偉のがよっぽどだと思うんですけどー…。

色白で(南音もだけど)、可愛くて(南音は綺麗だな)、守ってやりたくなる(南音もそう思う時がなくもないな)っていう…。

いや、これ、俺が南音に惚れてるとか、龍偉が好きだとかそういうのじゃねぇよ!?

だけど、男子校だったらあるかもしれねぇじゃん?

そういうの………って、俺は由李一筋だからな!?

そこんトコ、頼むぞ!?


「なー。憂灯、よっくモノに出来たよな?」

「そこはあれじゃない。憂灯のテクで…」

「つーか、お前ら勝手言い過ぎだから!!南音に聴かれて、後で殺されんの俺だぞ!?」

「うわー、尻に敷かれてるんだー」

「亭主関白で、俺様な憂灯がぁ?」

「いい加減黙れっての…。マジ、南音に聴かれてたら…」


「憂灯君…」


不意に聴こえてきた声に、俺は凍りついた。

今度こそ。

間違いなく。


「あ。噂の樋野さんちの南音君だ」

「おー…。あれが…って、俺も見た時あるしっ」

「そりゃ、あるんじゃない。学校のアイドルだし」


終わった…。

俺の人生、終わりだ…。

ごめん、由李…。

俺、もう由李に逢えねぇかもしれねぇわ…。


「いや?あのな?南音?これには色々事情が…」

「…最低ッ」


南音はそう言い残して、屋上から去って行ってしまった。


やっばー…。

南音、切れちまったし…。

コイツら…特に秀統ぉぉぉぉ!!!!!

絶ッッ対許さねぇ!!


「しゅぅ〜うぅ〜とぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

「わっ!?ちょ、殴る事無…っ」

「南音は切れたらずっと怒ってんだよ!!最低でも、1ヶ月はシカトなんだぞ!?おま…っマジ殺す!!」

「痛い痛い痛いっ!!!樋野ぉ〜!!ヘルプミィー!!!」

「…だってさ。樋野。憂灯、許してやって。この場合、秀統もだけど」


…は?

秀統と龍偉の言葉に、俺は攻撃の手を緩めた。

樋野?許す?

どういう事だよ?


すると、出て行ったと思っていた南音が、ひょっこり屋上の扉から現れた。

それは、本当に『ひょっこり』っていう擬音がぴったりだった。


「う、そ♪」

「は?」

「全部お芝居」

「…?」

「あの憂灯の慌てよう…。今思い出しても笑える…」


秀統が、顔を歪ませて必死に笑いを堪えていた。

南音は、悪戯っ子みたいに真っ赤な舌を出し、龍偉は…まぁ、相変わらず無表情で。

要するに。

あれだよな?

皆して、俺を騙したと。

………マジ、コイツら一回絞める…。


秀統につられて、南音も、そして、なんと龍偉までもが笑い出した。

有り得ねぇ…。

龍偉…あの龍偉が、笑ってる…?


俺も、3人につられて笑い出した。

3人を見てたら、切れてる自分がアホらしくなったから。

俺ら4人の笑い声が、蒼い蒼い空に吸い込まれていった。


ひとしきり笑った後、俺は南音と龍偉、2人から事情を聴かされた。


まず、南音は俺に多少ムカついてたらしい。

昨日の放課後の時から。

んで、士の件でそれが更に増幅され。

けど、今日学校来てたから、いっか…って思ってたのに、俺が来ねぇ。

靴箱に靴はあったのに、教室には居ねぇし、鞄も無い。

…まぁ、鞄は元々持ってきてねぇんだけど。


で、ホームの後図書室行ったら、龍偉に逢って。

龍偉に、1限終わっても俺が来なかったら、もっかい図書室来てって言われたんだと。

けど、龍偉も1限の途中で俺が教室行く訳無いって思ってたらしく。

途中で南音にメール送って、自分は屋上に来た。

そうしたら、俺と秀統が居て。

丁度良い具合に、南音の話してたからちょっとからかってやろうと思い。

また良いタイミングで南音が来て。

しかも、最高の台詞を吐いてくれて。

すれ違う瞬間に、ドアんトコで居ろって言ったらしい。


…俺、完璧遊ばれてんじゃん。


「言っときますけど、俺と憂灯君はホントに何も無いですからね!?」


改めて、秀統と龍偉に念を押す南音。

…や、判ってるから。

秀統には、彼女居るっつったし…。


「判ってるって!!樋野はそんな奴じゃねぇだろし、何より憂灯は女好きだし!!」

「…秀統にだけは言われたくねぇ」

「秀統、天然仔悪魔だから…」

「そうなんですか?」

「いや、(チゲ)ぇし!!こっちは普通にしてんのに、向こうが勝手に泣いたり怒ったりして俺を怒らすんじゃん。なのに、別れよって言ったら、また切れるし」

「そうなんですか…」

「南音、信用しちゃ駄目だぞ。秀は榊城家で1番口が(ウメ)ぇから」

「親父とお袋には負けるって」

「…褒めてねぇけど、同感」

「憂灯と秀統んトコの両親、凄いもんね」

「龍偉、ついていけてなかったもんな」

「僕は無理だね。憂灯とか秀統みたいに、合わせてくれるなら良いけど」

「橘川先輩、何か喋り方独特ですよね…」

「天然だからな」

「おぅ。極上もんの天然だな」

「そう?ありがと」

「「や、褒めてねぇし」」

「あははっ。てか、憂灯君、先輩と普通に話してんじゃん」

「あ、おぅ。ついさっきからな」

「色々話してたんだ。ごめんな?授業出させなくて」

「あ、いえ…。これから後の授業は全部出させますんで」

「マジかよ…」

「どっちが兄貴か判んないよね」

「いや、俺が兄貴だし!!」

「兄貴が留年すんな」

「あ?秀統、何か言ったか?」

「べっつにぃ。あ、樋野、由李ちゃんの話聴いた?」

「ユリちゃん…?誰ですか?」

「憂灯の彼女。俺んちの病院に入院してんだ」

「え。憂灯、彼女居たの」

「昨日出来たの。(スッゲ)ぇ可愛いんだぞっ」

「あ、あの子?真っ白の服着てた…」

「そうそう!!天使みたいな子」

「そういや…部屋も真っ白だったな…」

「へー。僕、見たい。憂灯の彼女」

「は?」

「あー…俺も最近ばたばたしてて、見てねぇなぁ。由李ちゃん」

「見たい」

「逢いたいわぁ…」

「判ったわっ。逢わせたら良いんだろっ。勝手にしろ」

「勝手にするしぃ。じゃ、龍偉一緒に行くか」

「うん」

「あ…憂灯君、士君…」

「あー…南音らも来るか?」

「え?」

「俺、今日も行く約束してるから。遊びには付き合えねぇけど、良かったら来いよ」

「良いの?」

「由李も喜ぶだろうしな…。あ、俺家帰ってから行くから、ちょぉ時間掛かるけど」

「マジで?行って良い?」

「良いっつってんじゃん。んじゃ、皆にも言っとけー」

「え?憂灯君、自分で言わないの?」

「まだ…士には逢いたくねぇからな。まぁ、飯は食うけどー」

「食欲には勝てない」

「龍偉、黙れ」

「んじゃ、僕らはそろそろ行くね。秀統。早く」

「えー?」

「いや。秀統、呼び出されてるから」


秀統はしぶしぶ立ち上がって、龍偉と一緒に屋上を後にした。


「良かったね、憂灯君」

「ん?あー…そうだな。まぁ、由李のお蔭なんだけど」

「大事?彼女」

「当たり前だろ」


俺は即答した。

この世で、由李以上に大事なもんなんかねぇ…。

例えば、空気みたいに。

俺には必要。



感想などいただければ嬉しいです。

宜しくお願いします。

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