wish for19:過去の真実。
その後。
秀統に全部話した。
南音の事とか。
つーか、殆ど南音の話しかしてねぇ…。
俺、何だかんだ言って、南音には頼ってる部分があんだよな…。
秀統にも言われたし。
「憂灯…樋野大好きだな」
「はっ?何キモい事言ってんの?」
「お前の樋野に対する言動の方がキモいって」
「はぁ?普通に南音の話しただけじゃん」
「何かぁ…カレカノっぽい」
「はぁ!?何だよそれ!?考えただけでキモいし」
「そんだけ、樋野には頼ってるっつー事だろ。…樋野が、俺の代わり、か…」
「あ?何か言ったか?」
「別に?何も言ってねぇよ」
「なら、良いけど…。あ、まだ秀統に言いたい事あったんだ」
「まだあんのかっ」
「ダメかっ。最近、話して無かったじゃん」
「憂灯のせいじゃん…」
「そーですねー」
「うわ、すっげ棒読み」
「…すんまそん」
「古い上に、誠意が無いな」
「あ゛ー!!もー良いから聴けっ」
「さっさと話せよ」
秀統が笑いながら俺に言った。
大分、以前の俺ららしくなってきた。
1年?2年前の俺らに…。
「俺なぁ、彼女出来たっ」
「は?彼女?嘘だろ!!」
「酷っ!!俺、モテるんだぞ〜?」
「や、それは無い。俺のがモテるし」
「俺だって」
「いや、俺」
「…どっちでも良いわ。今、そこ論点じゃねぇし」
「で?彼女がどした?」
「多分、秀だったら知ってると思うんだけどぉ〜…」
「何よ?」
「その娘…な?磨代 由李っていうんだけど…」
「磨代…磨代…有里…?」
「特別病棟…312号室…」
「―――……………っっ!!!」
「なぁ…由李って治んのかなぁ…?」
秀統は俺から視線を外した。
何か知ってる。
そう思った俺は、じっと秀統を見つめた。
秀統は、自分は医者になるんだってずっと前から決めてたんだ。
だから、親父の病院にもよく出入りしてる筈なんだよな。
だから、そういう…特殊な病気の子は………。
親父も、秀統には凄ぇ期待してんだよ。
秀統に特別病棟見せて、患者の説明してない、とは言い切れねぇだろ?
…ま、してるって言い切れる訳でもないけどな。
「由李ちゃんは…」
秀統が重い口を開いた。
やっぱ、親父、秀統には話してんだな…。
親父は嫌いだから秀統に嫉妬はしねぇけど、やっぱり悔しい。
由李の事を1番知ってんのは、俺でありたいのに…。
「由李ちゃんは、大脳に障害があって…てか、出来たらしいんだけどな。中学までは普通に見えてたって言ってたから…」
「あぁー…そんな話、聴いた気ぃするわ。結局、どういう事なんだよ?」
「由李ちゃんな…中3ん時事故にあったらしい」
「事故?由李が?」
「そう。卒業式の日だったって言ってたかな…」
秀統の話はこうだった。
2年前――………
20xx年3月12日。
由李の中学の卒業式。
真っ青な空で、門出の日には、最高の天気だった。
卒業式も、厳かに、感動的に執り行われたらしい。
由李の中学は、卒業式終わった後一旦教室帰って、最後のホームすんだって。
で、卒業生がホームしてる間に、在校生と教職員、保護者が外でアーチを作る。
そのアーチを通って、近くの公園まで行く。
卒業生全員が。
そこはもう無礼講で。
髪染めて来ようが、何しようが教師らも何も言わなかったって。
だから、不良グループの奴らは特服着たり…女子は改造のセーラー着てきたりしてて。
何か、それが有里の中学の伝統だったらしい。
由李の上の代も、下の代もやってる事なんだと。
由李は、そういうの着ねぇ娘なんだけど、由李の連れはそういうの着る子も居て。
そのまま、街に遊びに行ったらしい。
特服着てる奴は特服のまま。
改造セーラー着てる奴は、それ着てるまま。
そんなの着てない子らも、最後だから――って、制服のまま遊びに行ったらしい。
初めは、良かった。
皆で騒いで。
けど…そんな格好してたら目立つじゃん?
それで…それで由李は―――………………………っ。
「最初に吹っかけて来たのは、向こうらしい。初めは、男だけのイザコザだったんだと。でも…」
「何…?」
「その内、向こうも仲間呼びだして…そうしたら、向こうん中にも女が居たって」
「そんで…?」
「最後…リンチみたいんなって…。蹴られた拍子に、頭打ったらしい…」
「…………………」
「外傷は全然大した事無かった。神経の方も…全部無事だった…けど…っ」
「脳…やっちまったのか…」
「そう…。由李ちゃんはまだ知らねぇよ。何が原因でそうなったのか。頭打った時に、記憶もあやふやになっちまったみたいで…」
「その“事故”の記憶がまんま抜けてんだな…」
「そういう事だな…」
「それって、結局どうなんだ?治んの?治んねぇの?どっちなんだよ?」
「それは…俺にも判んねぇ…。俺も、専門的に医学学んでる訳じゃねぇし…」
「そっか…。だよな…。けど…」
「?」
「信じてたら、信じてたら…いつかはっ」
「当たり前じゃん。まず、信じない事には治んねぇよ」
「だよなっ」
「由李ちゃん…大事にしてやれよ…」
「判ってる…。俺…本気だから…」
「そ、か…」
俺らは、それ以上何も喋んなかった。
一気に喋って疲れたのもあったし、俺は考えたい事があった。
多分…秀統もそうだったんだと思う。
今日、俺に一度に色々言われたから。
暫らく、無言の空気が続いた。
ガチャッ――
俺らは同時に振り返った。
屋上の扉の開いた音。
俺は、俺と秀統、龍偉、南音達以外に此処を使う奴を知らない。
今は授業中。
南音達は、絶対来ねぇ。
じゃぁ、誰が………?
「うわ。何。この空気」
「龍偉…」
「龍偉かよ〜!!ビビらせんなよなー」
「仲直りしたんだ」
「…何か、そんな言い方されると照れんな」
「そんな言い方されなくても照れるわっ」
「え〜?秀統、照れてんの〜?可ー愛ーいぃ〜っ♪」
「うっさい!!死に晒せ!!」
「はぁ!?お前が死ね!!このボケ!!」
「ナス!!」
「カス!!」
「ハゲ!!」
「その物凄い低レベルな争い、止めてくれる」
瞬間、その場の空気が凍った。
龍偉は、普段から感情の起伏を表に出さねぇ奴だけど、切れた時も無表情だから怖いわー…。
笑ったらすっげ可愛いんだけどな。
まぁ、俺も龍偉が笑ってるトコあんま見た時無いけど。
「る、龍偉、図書室居るって言ってなかったか…?」
うわ、俺、今声裏返ったぞ?
聴いた?
そんだけ、龍偉は怖いんだよ…。
「あまりにも遅いから、殺し合いでもしてんじゃないかと思って見に来てみた」
………………。
いやいやいやいやいや。
殺し合いとか、しねぇから。
普通に。
怖いし。
さらっと言う龍偉のが、更に怖いけど。
俺と秀統は、互いに顔を見合わせた。
多分、2人とも思ってる事は一緒。
龍偉って怖ぇ………。
「っていうのは冗談。秀統。呼びに来た。ついでに憂灯も」
「俺?」
「俺も?」
「秀統は答辞の最終確認。憂灯は…樋野さんちの南音君に頼まれた」
「あー…憂灯の彼女か」
「いや、違うし」
「あっそうなんだ。だから、樋野あんなに必死に…」
キーンコーンカーンコーン…キーンコーンカーンコーン…
授業終了のチャイム。
学校のチャイムって、何で何処も変わり映えしないんだろうな。
もっと違うのにすれば良いのに。
例えば?
んー…教会の鐘とか?
「樋野、憂灯捜してたのか?」
秀統が、チャイムが鳴り終わるのを待って話し始めた。
龍偉も、それに応える。
「うん。それも必死に。あれは、夫の帰りを心配する妻のようだった…」
「いやいやいやいや。有り得ねぇから」
「やっぱ、憂灯と樋野付き合ってんだよ」
「ホントに。そりゃ、お祝いしないとね」
「けど、樋野競争率高そうじゃね?」
「あー…僕の友達にも居た。冗談か本気か判んないけど、『樋野、マジキレー…』って言ってる人」
いやいやいやいやいや。
俺からすれば、南音よか龍偉のがよっぽどだと思うんですけどー…。
色白で(南音もだけど)、可愛くて(南音は綺麗だな)、守ってやりたくなる(南音もそう思う時がなくもないな)っていう…。
いや、これ、俺が南音に惚れてるとか、龍偉が好きだとかそういうのじゃねぇよ!?
だけど、男子校だったらあるかもしれねぇじゃん?
そういうの………って、俺は由李一筋だからな!?
そこんトコ、頼むぞ!?
「なー。憂灯、よっくモノに出来たよな?」
「そこはあれじゃない。憂灯のテクで…」
「つーか、お前ら勝手言い過ぎだから!!南音に聴かれて、後で殺されんの俺だぞ!?」
「うわー、尻に敷かれてるんだー」
「亭主関白で、俺様な憂灯がぁ?」
「いい加減黙れっての…。マジ、南音に聴かれてたら…」
「憂灯君…」
不意に聴こえてきた声に、俺は凍りついた。
今度こそ。
間違いなく。
「あ。噂の樋野さんちの南音君だ」
「おー…。あれが…って、俺も見た時あるしっ」
「そりゃ、あるんじゃない。学校のアイドルだし」
終わった…。
俺の人生、終わりだ…。
ごめん、由李…。
俺、もう由李に逢えねぇかもしれねぇわ…。
「いや?あのな?南音?これには色々事情が…」
「…最低ッ」
南音はそう言い残して、屋上から去って行ってしまった。
やっばー…。
南音、切れちまったし…。
コイツら…特に秀統ぉぉぉぉ!!!!!
絶ッッ対許さねぇ!!
「しゅぅ〜うぅ〜とぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「わっ!?ちょ、殴る事無…っ」
「南音は切れたらずっと怒ってんだよ!!最低でも、1ヶ月はシカトなんだぞ!?おま…っマジ殺す!!」
「痛い痛い痛いっ!!!樋野ぉ〜!!ヘルプミィー!!!」
「…だってさ。樋野。憂灯、許してやって。この場合、秀統もだけど」
…は?
秀統と龍偉の言葉に、俺は攻撃の手を緩めた。
樋野?許す?
どういう事だよ?
すると、出て行ったと思っていた南音が、ひょっこり屋上の扉から現れた。
それは、本当に『ひょっこり』っていう擬音がぴったりだった。
「う、そ♪」
「は?」
「全部お芝居」
「…?」
「あの憂灯の慌てよう…。今思い出しても笑える…」
秀統が、顔を歪ませて必死に笑いを堪えていた。
南音は、悪戯っ子みたいに真っ赤な舌を出し、龍偉は…まぁ、相変わらず無表情で。
要するに。
あれだよな?
皆して、俺を騙したと。
………マジ、コイツら一回絞める…。
秀統につられて、南音も、そして、なんと龍偉までもが笑い出した。
有り得ねぇ…。
龍偉…あの龍偉が、笑ってる…?
俺も、3人につられて笑い出した。
3人を見てたら、切れてる自分がアホらしくなったから。
俺ら4人の笑い声が、蒼い蒼い空に吸い込まれていった。
ひとしきり笑った後、俺は南音と龍偉、2人から事情を聴かされた。
まず、南音は俺に多少ムカついてたらしい。
昨日の放課後の時から。
んで、士の件でそれが更に増幅され。
けど、今日学校来てたから、いっか…って思ってたのに、俺が来ねぇ。
靴箱に靴はあったのに、教室には居ねぇし、鞄も無い。
…まぁ、鞄は元々持ってきてねぇんだけど。
で、ホームの後図書室行ったら、龍偉に逢って。
龍偉に、1限終わっても俺が来なかったら、もっかい図書室来てって言われたんだと。
けど、龍偉も1限の途中で俺が教室行く訳無いって思ってたらしく。
途中で南音にメール送って、自分は屋上に来た。
そうしたら、俺と秀統が居て。
丁度良い具合に、南音の話してたからちょっとからかってやろうと思い。
また良いタイミングで南音が来て。
しかも、最高の台詞を吐いてくれて。
すれ違う瞬間に、ドアんトコで居ろって言ったらしい。
…俺、完璧遊ばれてんじゃん。
「言っときますけど、俺と憂灯君はホントに何も無いですからね!?」
改めて、秀統と龍偉に念を押す南音。
…や、判ってるから。
秀統には、彼女居るっつったし…。
「判ってるって!!樋野はそんな奴じゃねぇだろし、何より憂灯は女好きだし!!」
「…秀統にだけは言われたくねぇ」
「秀統、天然仔悪魔だから…」
「そうなんですか?」
「いや、違ぇし!!こっちは普通にしてんのに、向こうが勝手に泣いたり怒ったりして俺を怒らすんじゃん。なのに、別れよって言ったら、また切れるし」
「そうなんですか…」
「南音、信用しちゃ駄目だぞ。秀は榊城家で1番口が巧ぇから」
「親父とお袋には負けるって」
「…褒めてねぇけど、同感」
「憂灯と秀統んトコの両親、凄いもんね」
「龍偉、ついていけてなかったもんな」
「僕は無理だね。憂灯とか秀統みたいに、合わせてくれるなら良いけど」
「橘川先輩、何か喋り方独特ですよね…」
「天然だからな」
「おぅ。極上もんの天然だな」
「そう?ありがと」
「「や、褒めてねぇし」」
「あははっ。てか、憂灯君、先輩と普通に話してんじゃん」
「あ、おぅ。ついさっきからな」
「色々話してたんだ。ごめんな?授業出させなくて」
「あ、いえ…。これから後の授業は全部出させますんで」
「マジかよ…」
「どっちが兄貴か判んないよね」
「いや、俺が兄貴だし!!」
「兄貴が留年すんな」
「あ?秀統、何か言ったか?」
「べっつにぃ。あ、樋野、由李ちゃんの話聴いた?」
「ユリちゃん…?誰ですか?」
「憂灯の彼女。俺んちの病院に入院してんだ」
「え。憂灯、彼女居たの」
「昨日出来たの。凄ぇ可愛いんだぞっ」
「あ、あの子?真っ白の服着てた…」
「そうそう!!天使みたいな子」
「そういや…部屋も真っ白だったな…」
「へー。僕、見たい。憂灯の彼女」
「は?」
「あー…俺も最近ばたばたしてて、見てねぇなぁ。由李ちゃん」
「見たい」
「逢いたいわぁ…」
「判ったわっ。逢わせたら良いんだろっ。勝手にしろ」
「勝手にするしぃ。じゃ、龍偉一緒に行くか」
「うん」
「あ…憂灯君、士君…」
「あー…南音らも来るか?」
「え?」
「俺、今日も行く約束してるから。遊びには付き合えねぇけど、良かったら来いよ」
「良いの?」
「由李も喜ぶだろうしな…。あ、俺家帰ってから行くから、ちょぉ時間掛かるけど」
「マジで?行って良い?」
「良いっつってんじゃん。んじゃ、皆にも言っとけー」
「え?憂灯君、自分で言わないの?」
「まだ…士には逢いたくねぇからな。まぁ、飯は食うけどー」
「食欲には勝てない」
「龍偉、黙れ」
「んじゃ、僕らはそろそろ行くね。秀統。早く」
「えー?」
「いや。秀統、呼び出されてるから」
秀統はしぶしぶ立ち上がって、龍偉と一緒に屋上を後にした。
「良かったね、憂灯君」
「ん?あー…そうだな。まぁ、由李のお蔭なんだけど」
「大事?彼女」
「当たり前だろ」
俺は即答した。
この世で、由李以上に大事なもんなんかねぇ…。
例えば、空気みたいに。
俺には必要。
感想などいただければ嬉しいです。
宜しくお願いします。