wish for11:友<恋。
「これからどうする?」
「ファミレス行こーっ。お腹減った…」
「士、1番はしゃいでたもんね…」
「まぁ、その真逆な人も居たけど」
空がだんだんと黒に侵されてく。
俺らは、ついさっきカラオケ屋から出てきたトコだった。
南音がこれからどうするか話をふって、俺以外の奴はそれに入ってる。
俺?
俺は別に良いんだよ。
つーか、さっさと帰りてぇんだよな。
由李んトコ行きたい…。
「ちょっと憂灯君っ。憂灯君も何か言ってよ」
「あ?あー…」
「うわ。やる気無っ」
「いつもやる気無い汰河に言われたくねぇな」
「いつもじゃないんだけど」
「あのさー…。話題ずれてんだけど」
「てかっ」
香が急に大きな声を出した。
当然皆の視線は香へ集中する。
「俺、今日は帰る」
「え?香、帰んの?」
「あ、ほな、俺も…」
「臣も?」
「デートかっ?」
士の問い掛けに、香は曖昧に微笑んだ。
そして、臣は――……………。
「ちゃ、ちゃいますよっ!!!」
皆疑いの視線を臣に送る。
…ま、当然だな。
焦り具合と良い、必死さと良い、何より臣の顔が真っ赤になってんだもんよ。
これは“女”だろ。
「え〜?凄い嘘っぽいよ?」
悪魔の微笑を浮かべて臣に近付く南音。
「同感」
静かに臣に視線を送る汰河。
「良いなー!!」
……………。
ま、コイツは放っとこ。
「違うよ」
困ってる臣に、香が助け舟を出した。
香は、何か事情知ってるんだな…?
まぁ、臣が1番仲良さそうなの、香だしな。
「臣、親が今両方とも海外に行ってて、家に居ないんだよね。だから、早く帰らないと…」
「親が居ないって事は、今1人暮らしでしょ?何で早く帰んないと駄目なの?」
「妹が居るんよ」
「「「妹?」」」
南音、士、汰河の声が被る。
流石、ずっと一緒につるんでるだけあるわ。
「臣の妹、まだ小さくてさ。親が居ない間、臣が面倒見てるんだよね」
「へぇー…。そうだったんだ…」
「それなら、早く帰った方が良いよね」
「そうだよっ。臣、早く帰れっ」
「さっきまで引き止めてたの誰だよ…」
「細かい事は気にしなーいっ」
「じゃ、そういう事だから。また明日」
「ばいばーいっ」
「明日ね〜」
「ほななぁ」
そうして、2人は人込みの中に紛れていった。
残った俺らは………。
「で?どうする?」
また振り出しに戻る、と。
あ゛ーっっ!!!
良い加減にしろよ!!
俺は帰りたいんだっての!!
俺の中で、何かが切れた。
「俺も帰るわ」
「はっ?憂灯君何言ってんの?」
「何で憂灯君が帰る訳?」
南音と汰河が、何言ってるんだ、と言わんばかりに俺を見つめた。
士はきょとんとして俺と2人を交互に見てる。
「もー良いだろ?良い加減付き合ったじゃん?俺」
「いつもなら平気で夜中まで連れ回すのに、何で今日に限ってそんなに早く帰りたいの?」
「理由言ってくれなきゃ、納得いかない」
少し、2人の眼がキツくなった。
これは、何も言わずに帰る訳にはいかねぇなー…。
汰河は切れたらめちゃめちゃ怖いし、南音は南音で頑固だし。
「はぁー…っ」
俺は深く溜息を吐いた。
士は俺らを見るのに飽きてしまったらしく、近くにあった自販機と睨めっこしていた。
コイツ…。
今の状況全く判ってねぇな…。
俺は、そんな士を見て微かに笑みを零した。
こういうトコが、士の良いトコなんだよなー…。
「…約束があんだよ」
またしても、2人は「はぁ?」という表情をした。
眉を顰めて俺を見る。
『約束』は、嘘じゃ無い。
これはほんと。
まぁ…確定的な『約束』じゃ無いけどな。
時間とか決めてねぇし。
「誰と?」
「んー………言わないと駄目か?」
「言えないような相手なんだ?」
汰河の言葉が、少し刺さった。
言えないような相手じゃ無い…。
けど、そうしたら由李の病気の事も話す事になるんじゃね?
俺は、由李の事は軽々しく言えなかった。
言いたくなかった。
例え…南音達にも………。
「ちょっとした知り合い。これから逢う約束してんだよ。だから帰るわ。遊びに誘ってくれたのは、嬉しかった。サンキュな」
俺は、2人に背を向けて歩き出した。
2人とも、何も言わなかった。
それから。
俺は真っ直ぐうちの病院へ向かった。
由李に逢う為に。
歩きながら、俺は考えてた。
何で、こんなに由李に逢いたいんだろ…。
出逢ったのは、昨日。
近過ぎだろ。
なのに、凄ぇ逢いたい。
この『逢いたい』が、逢ったら『触れたい』に変わるんだろうって事は、安易に想像出来た。
俺…俺………由李が好きだ―――…………………。
考え事してたから、俺は周りの事なんか殆ど気にしてなかった。
だから、勿論自分をつけてる人間が居たなんて、気付いてなかったんだ…。
次回更新は1週間以内に行う予定です。
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