4月半ばも過ぎたころ
朝起きて、学校に行って、放課後は掃除当番になっていたらそれをして帰る。学校を出たらショッピングセンターの本屋で立ち読みをして、家に着くのは大体6時。落ちこぼれを避けるため、夕食を食べたら宿題と予習復習。
正直、単調な毎日がこれからも続くのかと思うと味気ない。
ひとまずクラスでつるんでいる友達は、みんな部活に入ってしまった。
「つまんねえなあ」
近くの女子が怪訝な顔をしながら様子をうかがってくる。
「……?」
「……!」
思わず本音が漏れてしまったらしい。二人分離れたところに立っている青柳が首を傾げた。
トイレ掃除の真っ最中。男子の相方は備品を取りに用務員室へ。女子の一人はトイレの故障の報告のため職員室へ報告へ。掃除の班分けは名前の順で6人構成だ。なぜだかこのとき、あとの二人は季節外れの風邪で学校を休んでいた。残ったメンバーが待機しているといっても、俺と青柳しかいないのだ。
サシでいるときに空気がまずくなると面倒くさい。
「ごめん、独り言」
へらっと笑いながらごまかす。流すことで仕切り直し。
少なくともこれで食い下がる人はいなかった。
けれどこのときは違った。
「市ヶ谷くんは、報道部に入りたかったの?」
まっすぐな瞳が俺を見る。なかったことにしてくれない。
作り笑いが崩れ落ちる。
「…え、なに、青柳さん」
「部活に入らないの、珍しいと思って」
「だってー、そんなの個人の自由じゃん?」
正論をもっともらしく、けれど嫌味にならないように。
青柳は少しだけ考え込んだ。
「……市ヶ谷くんは、好きで帰宅部になったのとは違うとは思うから」
仲間と一緒に何かをする。クラスとは違う友達ができる。
先輩にしごかれたり励まされたり、はたまた愚痴であったり。
笑いながら話しかけてくる部活動所属の奴らの話をいつも聞いている。
どこかうらやましく思いながら。それを、青柳は見ていたというのだろうか。
「……なに?人間観察が趣味ってわけ?まじ根暗じゃん」
「っ――」
「で、俺のこと観察してなんなの?わー当たってる!すごいね!……なんて言ってほしかったの?」
青柳は長いスカートのすそをぎゅっと握りしめている。そのしぐさで、自分の問いかけは当たっているはずがないとすぐにわかる。
でも、これを冗談にするつもりはなかった。
「おまえさ、なにがしたいわけ?」
唇を引き結ぶ。泣くかな、と思った。
「聞いて、みたかった」
「なにを」
「なんで動かないのって」
しぼりだしてきた声に間髪入れずに聞いてもひるまなかった。それどころか、返ってきた問いに腹パンされたみたいな感じだった。動けない。
「廃部になったのはつい先月のことで、顧問の先生や先輩部員がいなくても、備品とかは残ってるかもしれない。ほかにも報道部に入りたかった人がいるかもしれない。何人かまとまったら、あの映画みたいに、部活を復活させることができるかもしれないのに」
「っるっさいな!!」
大声を出して黙らせた。自分ができなかった、しなかったことを責められているみたいだった。
確かにそうだ。青柳のいうことは間違っていない。
ただ、成功する保証はない。怖い。失敗が怖い。
だから動かなかった。動けなかった。
なにかをしてダメだった時のことが怖かった。そのくせ人がうらやましかった。
足音が近づいてくる。
班のメンバーだ。
俺は青柳から目をそらして、メンバーを迎え入れるための笑顔をつくった。