予鈴
「で、市ヶ谷はそのまま盗聴したってわけ」
呆れたように、木田はフードコートでアイスを食べている。
甘くないフレーバーは、色味が寒色だ。
「そりゃあ気になるし」
「いっちーはそのへんすごいから」
ポテトをぱくつきながら、吉村がフォローにまわる。
だからといって、木田の視線に変化はないけれど。
ーー放課後のフードコートに、大岡がいない状況にはやや慣れた。話す内容が他校生と違っているくらいで、仲良しグループに見えないことはないと思う。きっと。
「危機感の一つくらい持ちなさいよ。どこに盗聴機しかける教師がいるってのよ」
「それなんだよなあ」
話している内容は穏やかじゃないけど。
「さすがに報道同好会を支えるため、なんて思えないよね」
しかも、盗聴器は改造もされていた。どうみても素人じゃない。
「立木先生のことも調べたほうがいいかも」
吉村からの話は頭にとどめておく。
「けど、おかげでいろいろ分かった」
アザミミクが第一発見者であること。
彼女が転校を繰り返し、現在は独り暮らしであること。
得た情報を余さず共有する。
「自分達だけじゃわからなかったことだね」
「個人情報の不正取得の間違いじゃないの」
木田の突っ込みはもっともだった。
水をイッキ飲みする姿は男前だ。
それを言われると同好会の活動も黒に近いグレーすぎて、僕らは小さくなってポテトを食べる。
「あとは朝イチで立木先生に突っ込む」
正面突破。大岡を真似しようとしても、最後は王道に頼ってしまう。
「でもいっちー。やっぱり立木先生には、謎が多い。あんまり首突っ込まない方が」
「正面突破はやめてよね。次の日死体があがってたなんて嫌なんだから」
二人のいうことは一理ある。
でも自分の中で決めた。
「方法は、考える。でも、俺は、情報を集めるだけは集める。だから、よければ、協力してほしい」
ざわめきが遠い。
「それは大岡と何が違う?」
木田の問いは、自分でも考えあぐねていたことだった。
「使い方」
僕らは、なにかを判断できるだけの情報は持っていない。
だから判断できるようになるまで、貪欲に集め続ける。
校内の人間関係縮図であろうが、殺人事件のことであろうが。
怪訝な顔をしたのは吉村だった。
「どしたの?なんか用事思い出した?」
「サイレンが、聞こえた気がして」
「サイレン?」
フードコートにはBGMが圧倒的な存在感を放っている。
「救急車?」
「多分。あとは」
パトカー。
なんもなしに見やったガラス戸の向こう側に、警察車両が駆け抜けていくのが見えた。
「……事件かな」
「多分な」
最後のポテトを放り込む。
心臓が早鐘を打っていた。




