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四月のそのうち、諸々と仮入部期間あたり

一、二週間もすると、高校でクラスの立ち位置も固定化されてくる。ここで失敗したら、3年間はそのままだ。

ぶっちゃけ、そんなのはごめんだ。

最初から狙いにいく。ひょうきんなムードメーカーという位置を確立した。計画通りに。

対して隣の青柳は、同じようなおとなしめの女の子と一緒に動いている。

英語の時間に読書が好きだと発表したからかもしれない。

それはそれで、気の合うもの同士でいいと思う。

「市ヶ谷は部活なにする?」

「なにしよっかな~」

こちらが話すのは、はきはきしている女の子グループ。青柳とは所属が違う。あまり話すことはないだろう。隣の席だからといっても、タイプが違えばそこまで話さない。

それは同じ空間にいて、所属が一緒でも、高校では当たり前のことだ。

どんなタイプでも話しかけるようなやつもなかにはいる。

ただ、その出現ももう少しまたないと。

大多数は、同じようなタイプとしか話すことはしないから。

話したくても、様子見を選ぶやつも多いから。




部活動の仮入部期間。いくつか適当にまわったけれど、結局部活動には入らないことに決めた。運動部はできれば避けたい。体育でそのうち明らかになるが、運動があまり得意ではなかった。クラスでビリというわけではないが、平均よりは下である。

それに、やっぱり報道部に入りたかった。他は考えられなかった。本当に入りたかったのだと改めて思い知らされる。今ではかげかたちもないのに。

幸い藤和高校では部活は強制加入ではないので、帰宅部というのもありだった。

「青柳さん、部活なに入るの?」

ある朝の時間。友人たちが朝練やなにやらでいなかったこともあって、名前の順で隣席になった同級生に初めて話を振った。一人でいる時間を潰すとともに、クラスの人間と仲良くなれて一石二鳥。深い意味はない。大方どこかの文化部だろうとくくっていた。もしくは帰宅部。

「ーー道部だよ」

「へえ、いいじゃん」

青柳はこちらのほうを向かずに答えた。ややシャイな傾向があると把握している。目をあわせてくれないことは折り込み済みだ。

しかし最初の方は聞こえなかったので、適当に相づちを打っておく。予定調和の会話。

華道か書道、もしくは茶道だと思った。どれであっても違和感がない。いいと思ったのも嘘ではない。

「部活紹介のオリエンテーションで、かっこいいなーと思っちゃって」

なんだか思い違いをしているようだ。先ほどの文化部、どれも凛として、かっこいいといえなくもないだろう。しかしオリエンテーションでかっこよさをみせた記憶はない。

「え、書道部でかっこいい要素って、オリエンテーションであった?」

だめもとで聞いてみる。

「え、書道?」

そこでやっと、青柳はこちらを向いた。眼鏡に隠れてはいるが、大きく、きらきらとしている目だった。

「剣道部だよ!紹介のときスラックスはいてた先輩、スッゴクかっこいいよね!」

笑顔がまぶしくて、一生懸命で、なんというギャップ。

なにかが持っていかれてしまいそうになった。

ないないと思い、ひとまずオリエンテーションの様子を思い返す。

運動部は基本的にユニフォームを着用して紹介を行う。ただ、剣道部は胴着をきた部員の他に、一人だけ制服のままの先輩がいた。

確かにあのとき、会場はどよめいていた。

名前は確か。

「………あー!あのアザミさん?めちゃめちゃきれいだった人」

「うん。きれいなだけじゃなくて、剣道も強いし、頭もいいんだって!」

そういえば男女問わず、オリエンテーション後かなり騒いでいたことを思い出す。かわいいとか、かっこいいとか、そういう言葉が陳腐になるほどの、圧倒的な美しさ。オーラがあるというのだろうか。とにかくアザミという2年生は、校内一の美貌の持ち主として有名だった。その人を目当てに、剣道部に入ろうとしていたやつらも何人か知っている。

「へえ、すげえじゃん。今年はなんか入部多そうだ」

「うん、仮入部期間はすごかったよ。だからか、練習がすごい厳しかった」

普通は仮入部期間はゆるくやるが、剣道部は真逆をいった。その結果、例の先輩目当てで入部を考えたやつらはことごとく脱落していったとか。

「うわあ、えげつな。で、大丈夫だったの、青柳さんは」

「うーん」

困ったように微笑んだ彼女の腕には、湿布がはってあった。女子にも遠慮はなかったらしい。確かにあのレベルの高さは、男女両方のファンが大勢ついてもおかしくない。

「なんとかやれそう」

「そっか。がんばれ」

そこで市ヶ谷の友人たちが教室に入ってくる。会話はきりもよかったので打ち切った。

案外よくしゃべるんだな、と、また隣の席の女の子の認識がかわった。

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