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サルベージ

 ーー昼休み、校内放送は、教室のざわめきでかき消されそうだった。

 楽しそうな表情をはりつけながら、耳だけは必死に情報をキャッチするよう感度を最大にする。

 ぼそぼそとした聞き取りづらい声で呼び出されているのは、アザミミクだ。

 この人は目立つことを避けているはずなのに。放送をかけられるなんて呼び出しを無視したのだろうか。

 何かが変わろうとしている。

「悪い、用事思い出した!」

 弁当を手早く片付け、一階へとかけ降りた。

 事情聴取が行われるなら、一階の会議室か職員室内が固い。

 そう踏んで階段を降りていくと、冷たい気配がした。

 思わず踊り場で身体を縮こまらせると、見惚れるようなアザミさんが、凛としたたたずまいで歩いている。

 黒も白と言わんばかりの風格で。階下へと向かっている。

 足音をたてないように尾行すると、職員室へと消えていった。

 さて、どうするか。

 場所柄長居はできない。

 職員室の窓はグラウンドに面している。中での様子は、グラウンドから分からないこともない。

 スリッパのまま外に出て隠れて様子をうかがっても、入室したアザミさんは一向に出てくる様子はなかった。

 それどころか、室内にあった扉をあけ、そこへ消えていく。

 場所は大穴、応接室か。

 応接室の様子を伺うにはどうしたらーー。

「市ヶ谷」

 かけられた声にびくりとする。

 ただ、態度に出してはいけない。

 今の自分は、バカっぽくて親しみやすい市ヶ谷なのだから。

「昼休みは自由に過ごしていいんだけれど、今の君は謎過ぎね」

 こちらが返事をする前に牽制される。

 移動するよう促され、僕は素直に立木先生に従うしかなかった。

「スリッパでここまで来たら、生徒指導対象だよ。今回は見なかったことにするけど。ほら、行きな」

 何か引っかかる。

 立木先生はタバコを吸わない。外に出る意味がないのだ。

「……先生こそ、何してたんすか」

「昼休憩の息抜き」

 確かにラフな服装に加え、片耳にイヤホンを突っ込んでいる。

 生徒がやったら怒られそうなこと。いつもなら反発して新聞に問題提起してやるが、そんな気分にはなれなかった。

 なぜ僕は見つかり注意されたのか。

 この先生は、正義感から注意したのではない。

 そう、例えば。

「俺が見つかったら芋づる式にばれて、先生の立場がまずくなりそうなことやってます?例えば」

 盗聴。

 先生は無言で小さな機械を投げて寄越す。

 青色のウォークマンだ。

「イヤホン持ってたらそれで聞きな」

 ポケットからイヤホンを探して差し込む。

 耳元からは、応接室でされている話が聞こえてきた。

 かまをかけるつもりが、本当に盗聴を行っていたなんて。

「……先生は、なに」

「あんたたちの違法行為見逃してるんだから、聞かないのが礼儀でしょ」

 底しれなさは、僕に恐怖を思い起こさせた。

 それでも盗聴している内容に集中するほうに力は自然と振り分けられた。



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