大事件
「やっぱりなにかあるんじゃない?職員室ざわついてたよ。二年の島すっごいパニックになってた」
職員室偵察班、吉村の報告を聞きながら、四階の窓から駐輪場を見る。
普段の倍以上、立ち当番の先生がいる。
風紀強化シーズンでもないし、これはおかしい。
「通学路も私服っぽい警官いたし、ほぼほぼ確定なんじゃない?殺人事件が起きたってこと」
木田も続けた。
「だろうな」
敷地内には見慣れない車が止まっている。
恐らくは警察車両だ。
「アザミさんと小原さん、まだ来てなかった」
「靴箱見たの?」
「うん。そろそろ来ないと遅刻だよ」
吉村と木田が話しているが、靴箱は存在証明にはならない。
「…………来るのかな」
「来るだろ」
どんな困難にあっても、学校を休まなかった人だ。いつもどおり、朝練からきていてもおかしくない。
しかも、一人じゃないのだし。
「じゃあまた、放課後」
密会を解散し、教室に戻ると、ほとんどが席についていた。
教室もざわざわしている。
隣の席では、青柳が本を読んでいた。
「おはよ」
「……おはよう」
「早いな、朝練あったの?」
「……うん」
固い表情は、朝イチでなにかあったと思わせるには十分だった。
「よっ、あんたたち召集した理由、わかる?」
開口一番、立木先生は切り出した。
先生に用があることはあっても、逆はほとんどない。
しかも全校集会後終了後のわずかな移動時間に空き教室に引っ張られるなんて、藤和であるとは思ってもいなかった。
教室には僕の他に、木田や吉村もそろっている。
「今回の殺人事件のことっすか」
時間がないのでストレートにぶつける。先ほど緊急全校集会が開かれ、二年の男子生徒、東村が殺されたことは全校生徒に知れ渡っている。
「そっ。この件、報道同好会は詮索禁止ね」
ナチュラルに言われたものだから、ついうなずきそうになった。
教師としては自由人すぎる。なにかを強制してきたことはない。
なにか、おかしい。
「危険だから、からですか」
「木田さん、正解」
「でも、藤和生に起きたことで」
「藤和の生徒が当事者でも、殺人事件なら学校の枠は越えてるんだよ。行動力があるのは知ってる。その気になればやりとげるだろうことも知ってる。けれど、高校生が抱えられる範囲を越えている。だから、この件には最初から関わらないように」
真面目くさった先生は、別人のようだった。
がらりと戸をあけ出ていったのは、先生が先だった。
「……どうする?」
木田は僕らに水を向けた。
「……僕は、立木先生の意見に賛成。殺人事件は扱いきれないよ」
「追悼記事に留めるか?」
「それもしないほうがいいと思う。状況が分からない以上、様子を見た方がいいでしょ」
「…………」
手に余る。
それはよく分かる。
大岡なら、どうしたか。
「……分かった」
その日、僕たち報道同好会は、号外を打たなかった。




