転がり落ちた日常
「アザミ先輩が部活休みだったから、もしかしたら一緒にかえれるかなあって、思っちゃった」
ベッドに寝転がりなから、一字一句覚えてしまった文面をまた開く。
散らかった部屋で考えるのは、今日の青柳のことだった。
あんな時間まで残っていたのは、きっと待っていたからだと思う。書いていないけど、他でもない小原さんを。
学校にいるときのアザミさんのガードは固い。変な虫がつかないように、小原さんが張り付いているからだ。クラスも部活も一緒。離れるのは時間割が重ならない科目や、更衣室くらいと徹底している。
自然に接触できる行き帰りだって、よっぽどのことがない限り、いつも一緒だ。
つまり、小原さんも一人になるタイミングがあまりない。
今日は奇跡的だったのだ。青柳はチャンスを掴もうとした。
けれど、先生にでも見つかって、帰らされたというところだろうか。
「お疲れ。すげー頑張ったな」
なんのことはない。青柳のほうがよっぽど強い。
何の進展もなくよかったと思う。
そんな自分が醜いと思う。
だから、やっとの思いで送った返信は、驚くほどそっけなくなってしまった。
こちらの時間に比例せず、相手からはすぐにくる。
「ありがとう」
メッセージのやりとりに。
どれだけ一喜一憂しているか。
自分がそうだから、置き換えてみて辛くなる。
耳障りなバイブが安眠の邪魔をする。
アラームの音を黙らせると、デジタル表示の時計が、新しい朝が来ていることを示していた。
「ーーっそだろ!」
朝イチの英単語の小テストはまだ対策していない。
今からなんとかなるか?
いや、宿題も手付かずで寝落ちなんて、まずは古文の予習からーー。
「晴季ー、起きてるー?」
母親からの声は、モーニングコール第二弾だろうか。
「はーい、起きてるー」
「さっき連絡網が入ったけど、今日休校になったって」
全ての段取りが飛んだ。
季節外れのインフルエンザも、なにもない。
「ちょ、どういうこと?」
ばんっと扉を開け放し、母親のいるリビングへと駆け込む。
「さあ……とにかく、詳しいことには連絡メールがあるから待つようにって。あ、次の人には回しておくから。さぼらずに勉強しなさいよ」
仕事に向かう準備を整えた母親は、手短に言うと玄関へと向かった。
「っ!」
何がどうなっているんだろう。
勉強なんて手につくはずもない。
PCを立ち上げ、携帯のブラウザを起動させる。
クラスメイトのSNSを巡回し、雪だるま式に知り合いの知り合い、そのまた知り合いのところにまで飛んで行ったときだった。
どうも、2年の藤和生が死んだらしい。
殺人事件、みたいな。
ひゅっと背筋が冷えた。
震えながらも、情報収取を続けていく。
死んだのは、殺された疑いのあるのは。
小原さんと、アザミさんのクラスメイト、らしい。
そういえば、昨日はアザミさんは、部活を休んでいた。
小原さんも、きっと一人で帰っている。
まさか二人とも、誰かを殺したりはしないだろうけれど。
死んだのは、アザミさんにしつこいストーカーをしていると小原さんに報告をしたこともある人だ。
「まじかよ……」
確信めいた予感がした。休校明けの藤和は、きっと荒れる。




