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リスタート

「お疲れ様です、アザミさん」

「お待たせ」

 暑さなんて感じていないように、涼しい顔で相手はやってくる。ポロシャツにスラックスという夏服姿の僕に対して、アザミさんは着物に袴だ。部活の昼休憩に一人抜けてきたんだろう。スポーツドリンクと長財布を片手に、アリバイ作りか。

 特別棟の昼下がりに、部外者はいない。

 とても静かだった。

「これ、前話してたやつ」

 簡潔でスピーディーなやりとちは話が早くて助かった。反射的に差し出された茶封筒を受けとる。中にはきっかり、一万円札が12枚入っていた。

 高校生らしからぬ金額に、眉をひそめてしまう。

 だけど後戻りはできない。

「約束ね」

 どちらが下でも上でもない。

 ただ単純に、対価に見合う仕事をしろというだけの話だ。

「…………はい」

 きれいに微笑んで、取引相手は戻っていった。

 もらった封筒は、厚みのわりに、重かった。



 オレンジ色に焼けた空の下、剣道部が合宿から戻ってきた。

 諸注意のあとばらばらと解散する一行から、長袖の制服姿が一人消える。

 目立つ存在ながら人知れずフェードアウトしていくのは、注意していないと気づけないだろう。

 ある種の才能だ。

 2階の窓から見下ろしていた木田も、夕焼けに染まっていた。

「どうして報道部に力を貸してくれるの?」

 その言葉に、木田は顔をあげる。

 図書室には藤和高校の学校史が広がっていた。

 あわせて、市政の資料も積み上がっている。

 全て、なぜ藤和高校の部室棟が校舎から離れた場所に設立されたのか、の資料だ。

 今年の市のコンクールに出す予定の映像作品テーマでもある。すべて木田が引っ張ってきたものだ。

 会計やスケジューリング、機器調整や撮影が吉村の得意分野兼担当だった。役割分担はざっくりとしている。

 市ヶ谷は対外的な動きや、取材、記事作成、情報屋関係の責任を追う。

 木田は生徒会の立場から、学校の規定を探したり、冷静に校正する役回りだ。

 表立っては活動していないけれど、木田の存在はなくてはならないものになっている。熱量を持て余す市ヶ谷を、ときに軌道修正し、場合によっては張ってでも止める。

「全国にいった感じが忘れられない。もう柔道はできないから、それではいけないから、ここであたしは一緒に全国に行きたい。内容が違っても同じだと思うから」

 真っ直ぐすぎる答えを、吉村はゆっくりと咀嚼した。

「……そっちは?」

 木田や、大岡、市ヶ谷のように、全てをかけられるか。

 きっと自分はそちら側ではない。

 けれど。

「打ち込める、その先を見てみたいから」

 大岡も市ヶ谷も、あれだけ本気だから、僕はあれくらいなにかを好きになったことはないから。

「同じテンションにはなれないかもしれない。けど、一緒に目指してみたいんだ。それだけ人を動かせるものを、作りたいんだ」

 棚の影で市ヶ谷が二人の様子をうかがっていた。

 絶対に結果を出す。

 一人、決意した。



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