ナイトナイト1
「どした青柳?」
手元の画面とにらめっこをしていたから気にされたんだろう。同室の先輩、アザミさんから声をかけられて、思わず携帯を取り落とした。しかも画面が上を向いたまま、床を滑ってしまう。多くの人は、こんな私をドジだとかどんくさいと言う。
「ごめん、驚かせちゃったね」
けれど先輩はそうじゃない。
運動部は上下関係が厳しい。先輩だから偉い、と思っている上級生だっているし、実力があるメンバーのほうが上と考える同期もいる。だから後輩に対してもしっかりと謝り、だれに対しても心を配る先輩のことを、私はとても尊敬している。
「いえ、あ、携帯、ありがとうございます」
受け取ったピンクの携帯画面には、メールの文面が広がっていた。
きっと私は相当変な顔をしていたんだろう。
「すみません考え事してて。……ちょっと、もらったメールが変な感じで」
「迷惑メールとか?」
「いえ、クラスの人からなんですけど、バーナーで焼きもろこし作ったとか、包丁使わずピアノ線で切ったとか、なんとか」
「え、ほんとに?」
先輩は紺のジャージを格好よく着こなしている。リラックスしていた体がシャキッとなった。
「あ、はい。クラスの市ヶ谷って人がやってる、報道同好会の合宿みたいです」
どこのマンガの話かと私も思う。
ただ、報道同好会ならやっていてもおかしくない。
「バーナー持ち出してくるんだったら、科学部も噛んでるかな」
「あー、合同でやってるらしいです。学校に泊まりがけで」
「え、なにやってんだ」
「ですよね!」
いつもより饒舌な先輩は、誰よりも綺麗で憧れの的の「アザミさん」とは少し違う気がしていた。
小さな和室に、二人きり。
流れる空気は落ち着いている。きっと他の部屋だったらこうはいかない。
人数の関係で、私とアザミさんは学年が違っているにも関わらず、同室だった。
他の一年女子は大部屋にいる。三年生は引退していて、二年女子の先輩はアザミさんだけだ。
「気詰まりじゃないー?先輩との二人っきりでさ。集まる約束とかしてたら遠慮なく他の部屋行ってね?」
「いえ、大丈夫です。私、先輩と一緒の部屋で、すごく嬉しくて」
「えー、嬉しいこと言ってくれるなあ」
見とれてしまいそうな笑顔は、芸能人にも負けていないと思う。
長い合宿期間中、強く優しく、素敵な先輩と同室なんて本当に夢みたいだ。
と、携帯にメッセージが入る。
同期からだ。
「……アザミ先輩、そろそろお風呂、いかがですか?」
「あー、いいよ、先、一年生はいって。人数多いしそのほうが効率的だし」
「でも……」
お風呂は学年毎で、上級生から。これが、藤和高校剣道部合宿のルールだ。
「……じゃあ、先に入らせてもらおっかな。20分くらいしたら戻るから、そこから一年生が入るってことで、他の子にも伝えてくれる?」
「わかりました!」
先輩は手早く用意をして、出ていった。
一人残された私は、メールを返信する。
先輩との時間が楽しくて、お風呂の順番のことを切り出せなかったのは私のミスだ。
今は8時。
9時からのミーティングのことを考えると、一年生のお風呂のスケジュールはタイトなものになる。
「はあ…………」
一番仲がいいきーちゃんもいない。心細いし、耐えられるのか。今から不安になってくる。
携帯のランプが光った。
同期からのメールだろうか。
のろのろ手を伸ばすと、着信だった。
「え、ええ!?」
しかも、クラスメイト男子からの。




