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4月8日 午後

「は?」

思わず本音が漏れた。

部活動紹介のオリエンテーション。1年生全員が体育館に集められ、部活動の紹介を受ける。各部の代表が出てきて活動内容や頻度、魅力を伝え、部員獲得に繋げる、という主旨らしい。

順番は、運動部から文化部だ。目当ての部活は文化部のひとつだけだったので、正直運動部の話は聞き流していた。女子バスケ部の先輩がかわいいと思ったり、どこかの部員のルックスがレベル高過ぎとか、それくらいしか見ていない。

けれど、最後の部活紹介が終わって、司会役の先生の補足説明には納得できなかった。

『……残念ながら、藤和高校の報道部は昨年度をもって廃部となりました』

ありえない。去年までちゃんと活動していたはずだ。

心の声が通じたのか、もう少しだけ説明が加わる。

「報道部は部員が減少し、新2年生、3年生が一人もいなかったこと。あわせて顧問の先生の転任もあり、廃部となりました。ただ、他にも魅力的な部活動があることからーー」

信じられない。そんな理由ですぐに廃部にするなんて。普通は少しくらい休部にさせておくとかさ。だってそうだろう?

藤和高校の報道部は、全国レベルだった。放送部門と校内新聞部門に別れて、どちらも十年連続で大会に出場し、好成績を残している。

受験勉強なんて、報道部に入るのために頑張ってきたようなものだ。

その場が解散となっても、しばらく動くことができなかった。

「なあ、報道部に入りたかったの?」

だからその声にも、反応が遅れてしまった。

いつまでも冷たい床の上に座り込んでいるのは自分だけだと気づく。慌てて立ち上がると、声をかけてきたのは平均身長の同級生男子だった。

「俺も報道部に入りたくて藤和にきたんだけどさ、まさか廃部ってさ、マジかよって思ったよね」

屈託のない笑顔に、明るい声。首を捻っても記憶にない。

「俺、3組の大岡」

道理で。隣のクラスだ。

「……4組の市ヶ谷」

「なんか先生見てきてるし歩きながら話そうぜ!」

すでに体育館には、ほぼ人の姿がない。上履きをつかんで、足早にその場をあとにした。

「いきなりごめんな?ただ、報道部は廃部にーって説明のときに、は?ってつぶやいてたの聞こえてさ、思わず話しかけたってわけ」

「へえ……」

集会は名前の順で並ぶ。ア行だし、大岡は多分隣の隣くらいに座っていたのだろう。それにしても、ペースは大岡に握られている。

「っとに計画狂ってどうすっかなーって感じでさ」

「……計画?」

会話にのせられてもやもやしつつも、疑問が勝った。報道部に入る計画だろうけれど。もしや推薦入試狙いの口か。

高校で全国レベルの部活動に所属していれば、一部のAO入試出願要件を満たすことができる。もちろん成績も必要だけれど、有名私大に入る方法としては、受験シーズンにのぞむよりかはいくらか負担が少ないという噂は聞く。

そんな、黒い計算を今から聞くのだろうか。かしこく生きるやつなのだろうか。

「そっ。テレビ局で働きたいんだよ。早くから番組をつくる訓練がしたくて、ここにきたのに廃部とかないだろ?」

「……確かに!」

嘘はなかった。心からの言葉。

純粋に、部活に入りたかったやつなんだ。

仲間になったかもしれなかった。

「ほんと、受験の労力返せよって感じ」

「だよなー」

大岡と話していると、すぐに教室前へと着いてしまった。

「なあ、大岡」

教室に入ろうとする同級生を、思わず呼び止める。

「……報道部ないなら、部活どうすんの?」

答えを見いだしたかった。

だから、志が同じやつに、思わず聞いた。

「んー、ないものは仕方ないしな。考え中」

また話そうぜ。

そう言いながら、大岡は教室へと入っていった。



報道部……新聞部と放送部が一緒になったようなイメージです。実在の報道部との関係はありません。


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