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傷跡

 科学部を出禁になって以来、報道同好会はテストがあるという理由でメンバーで集まらなくなっていた。一年生の7月。そして次の企画も決まらないままテスト期間を迎えた。

 それまで毎日集まっていたから、最初の方は変な気分だったけれど、いつの間にか慣れてしまった。

 落ち着かないというか、歯になにか引っ掛かった気持ち悪さを感じなかった訳じゃない。無視を決め込んで、時間が勝ってしまっただけのことだ。

 休み時間にお互いの教室に行くくらいはできたはず。連絡くらいはとれたはず。

 なのにそうしなかったのは、きっとみんながどうしていいか分からなかったからだ。

「……今帰り?」

 ローファーに履き替え、校門へと向かっていた青柳に声をかける。

 報道同好会の関係者で気安く話せるのは、あろうことか青柳だけになってしまった。

 掃除当番後、図書室に本を返しに行ったのを見計らって声をかけたなんて本人には知られたくない。

「うん。家でやるほうがはかどるから」

「そっか」

 テスト一週間前から、全ての部活動は活動を取り止める。剣道部も休みだ。

 青柳が誰かと一緒に勉強しているのは、確かに想像できない。一人黙々とやりそうなタイプだ。

「……でも意外。市ヶ谷は、みんなでやるのかなって思ってた」

 例えばクラスメイト。例えばメンバー。

 いつも誰かと一緒にいるから、そう思われても仕方ない。

「あー、遊んじゃいそうで怖いしさー!」

 青柳は微笑んでいる。

 なのにどこか見透かされているような気持ちになる。

 本当は人が嫌いで、誰かといることも得意ではない。

 今の市ヶ谷晴季は作り物なんだってことを、知られているような気がした。

「……あのね市ヶ谷」

「ん?」

「大岡くん、最近元気がなさそう」

「え?」

 思ってもない言葉に変な声が出る。

「市ヶ谷もそうだし、吉村くんもぼんやりしてるけど、大岡くんを一人にしないほうがいいと思う」

「それは……」

 反省とか、やりにくさとか、どんな顔して会えばいいかとか。考えすぎて、動けない。

「あのね、大岡くん、備品置いてある教室の合鍵こっそり作って入り浸ってる」

 動くしかない。そうしないと、なにも変わらない。誰も変えられない。

「青柳、ありがと!」

 僕は目的地までダッシュした。

 運動不足で息が切れる。ボストンバッグが揺れる。

 息を整えて引き戸に手をかけ、一気に開いた。

 ーーブラウン管のテレビに昔流行った髪型の10代が写っている。

 古ぼけた椅子に体育座りで、大きなヘッドフォンをつけた大岡が振り返る。

「……バックナンバー?」

 大岡はVTRを停止させ、ヘッドフォンを外した。

「ん、バックナンバー」

 壁には一面にファイルボックスに入った紙面が収まっている。段ボール箱には昔ながらの機材から比較的新しいカメラ。

 ニスが剥げ落ちた机にはパソコン部から譲り受けたパソコン。

 室内の様子は以前見たときより整然としている。

「これ、全部……」

「いや、分類とかちょっと立木先生に手伝ってもらった」

 それでもこの量を一人でなんて。

「テストやばいなあ」

 力なく笑う。

 何を言ってもこいつには敵わない。

「俺、間違ったなあ」

 ぽつりとつぶやかれた本音に、何を返したらいい。

「全然違うんだよ。熱量とか、これを取り組みたいとか、昔の先輩と違うんだよ。俺は、こんなふうにやりたかった。俺はこういうことをするために、誰かのために、誰かの声を伝えたくて、マスコミに入りたくて、修行で報道部に入りたかった。その結果がこれだよ。俺は、誰かのためになることはできなくて、俺は」「大好きだからこそ!」

 思い詰めてほしくなかった。

 大声で強制的に遮る。

「大好きだからこそ。ああいうことをした。大好きだからこそ。ああいうことをしちゃいけなかった。……やり直せるよ」

「…………」

「一緒にやり直そう」

 誰かを傷つけて。自分も傷ついて。忘れないで。

 今度は誰かを傷つけないように。できるだけ傷を少なくできるように。


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