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裏表

「っしゃー、今日も働いたー」

 大岡が大きく伸びをする。

 文化祭も終わり七月に入った。科学部部室の窓は全開。薄い色のカーテンが風を受けて大きく膨らんでいる。半袖の制服に風が心地よかった。

  冷蔵庫には作りおきのアイスティー、水道横のラックにはマグカップが3つ並んでいる。科学部を報道同好会が乗っ取る日も近いかもしれない。

「それにしても、アザミさん女子だったんだね」

 今更ながら性別を知ったのは、ついこのまえの剣道部朝練後の取材のときだ。男女なんて意識していなかったから、やっぱり驚く。

「もうあのレベルを人間のくくりにいれたらダメだよな。……市ヶ谷、あのとき話しかけられてなかったっけ?」

「あー、写真頼まれたとき?写真撮ってくれてありがとう、ってだけ」

 わざわざ下手くそって伝える必要はない。

 吉村は何かを感じ取ったのか、話題を変える。

「でも、これで剣道部以外は写真の協定できたよね」

「おー、我ながら頑張ったー」

 報道同好会が文化祭で存在感を示せたのは大きなチャンスだった。ちょうど各部の部長交代のシーズンとも重なり、挨拶まわりに行ったのだ。その足で、写真撮影の許可と写真データのやりとりについての交渉を成立させてきた。

 主に大岡が。

 剣道部はあの小原さんが新しい主将になり、得体のしれないアザミさんがいる時点で取材できる気がしない。

「次なにする?インハイ特集で紙面組むか?」

 さすが会長。コミュニケーション力はダントツだ。企画力も、執筆力もある。

「そうだねえ、全員配布のタブロイド型で、自前の編集、印刷、紙は上質紙までだったら行けそう。カラー刷りや印刷業者に頼むまでのお金はないなあ」

 吉村は写真と編集作業、会計系に強い。

 さて、自分はなにができるのだろう?

「こんちはー」

 姫島さんがのそっと入ってくる。クマをこしらえ、姿勢悪く歩くとボストンバックを隅においた。

「もうここ何部なのかわかんないね」

「報道同好会科学研究室とかでどうですか?」

「逆だよ逆、科学部付き報道同好会情報班ってところじゃないの、怪しげな写真販売してた団体さん」

 それを言われると弱い。

「そういえばあれ、不問になったの?風紀の木田さんとか黙ってないと思うけど」

 文化祭の展示、表と裏はパーテーションで区切っただけの空間で行っていた。

 地味の極みな展示に男子が異様に集まった。勘のいい木田が何も掴んでいないわけがない。

「ああ、木田なら丸め込んだ」

「はっ!?」

 相討ちならともかく、丸め込んだって。

 けろっとしている大岡は何をした。吉村と顔を見合わせる。

 姫島さんが立ち上がり、冷蔵庫からアイスティーを取り出す。

「お客さんみたいだけど」

 曇りガラスからは影が1つ見える。部屋の前をうろうろしていて、入ってこれないようだ。

「姫島さんじゃないんですか?」

「基本誰も来ないしね。間借りしてる分働きなー。女の子みたいだし」

 その言葉と仕草でぴんと来る。

 扉を開けると、青柳がいた。

「市ヶ谷……」

 慣れない呼び捨てにくすぐったさを感じながらも、晴れない顔の彼女が心配になる。

「青柳、どした?」

「…………きーちゃん、最近元気がないの。なにか知らない?」

 部屋を振り返り、思わず大岡を見てしまった。



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