交渉成立
「それじゃあ、鮮美に関わる情報があれば週一で連絡よろしく」
「分かりました!もしいけそうなら剣道部の情報もお願いしますね!ギブアンドテイクってことで」
連絡先を交換し、大岡と小原さんは怪しげな取引を成立させた。
俺たちはその様子を見守っている。姫島さんも少なからず噛んでいるのだろう。
止める気はなさそうだった。
「止めねーの、よっしー?」
「いっちーこそ。写真のときも気にしてたから」
軌道修正するなら、ここで自分が動くしかないとは直感が教えてくれた。
「……こっちのほうに力を入れるのは反対だけど、まだ情報屋みたいなことしてるほうが取材のネタはとれるだろうし」
「そう言われればそうだねー」
他に理由があるのだろうか。
ふわっとはしている。でも考えなしではない。吉村はつかみどころのないキャラクターだ。
「…………よっしーが止めない理由は?」
「活動資金ためるのに、証拠が残る写真より情報のほうが危なくないかなーなんて」
なるほどな。
お前のほうがよっぽど危ないですよ。
混沌とした取引に、方向性を見失いかけたときだった。
「あ、いたいた」
ゆったりとした声一本で、その場の空気が劇的に変わる。
「探したよ、小原」
袴の裾を少し揺らして、アザミさんはやってきた。
ジャージを羽織っていても線の細さが分かる。
「悪い、今行く」
不機嫌モードとは打ってかわり、きれいな小原さんモードにチェンジだ。
「…………おっ、青柳と仲のいい子発見ー」
光栄なのか、災厄なのか。
ロックオンされたかと思えば、つかつかと距離を詰められ、使い捨てカメラを渡された。
「ちょうどよかった、写真とってよ」
「え?」
写真嫌いなこの人が、どういう風のふきまわしだろう。
「いいから。ほら、小原も微妙そうな顔しないで笑顔!」
自然な笑顔で小原さんの隣に行き、ピースを作ったアザミさん。
そっぽを向きながらも逃げはしない小原さん。
「はい、とりますよー」
俺はフレームにおさめ、二回シャッターを切った。
アザミさん以外はみんな呆けている。
「撮れた?ありがとう」
満面の笑みでアザミさんは近づいてくる。どういたしましてとでもいいながら、使い捨てカメラを渡してしまえば、気紛れは終わりだろう。
「……隠し撮りしたやつに言っといて。へたくそって」
しわがれた低い声の出所を、反射的に探してしまう。
「っていうかそのカメラどうしたんだよ」
「姫島くんのやつかな。端数余ってたから使っちゃった」
「あー、顕微鏡の写真とったときの余り。いいよ使っちゃって。現像したかったし」
先輩たちは和やかに話している。
俳優のようなかわりっぷりは、小原さんの比ではない。
こんな人たちを相手にギブアンドテイクなんて、こっちがむしりとられて終わりじゃないだろうか。




