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宴のふみ

「三年二組の記事サルベージかんりょおおおお!」

「茶道部記事復元おっけー」

「写真データも売れ筋のは破損なし!」

「うぉーーー!!! 」

 校舎内で唯一赤々とした室内で、野郎三名ともう一名が細々と活動している。ディスプレイには続々と結果が跳ね返ってきた。上々な成果に思わずみんなで雄叫びをあげる。

 僕を含めて三人のメンバーがだ。

「ねえ水を差すようで悪いんだけどこれでやっと0からのスタートだからね!」

「いぇーーーーい!!!」

 べシーン!

 ノートパソコンから音量最大のハリセン効果音が鳴り響く。

「聞けよ!」

 科学部部長兼パソコン部部員兼報道同好会アドバイザーの姫島さんが、いつもの余裕さをかなぐり捨てた。

 ーー文化祭一日目の放課後。僕ら報道同好会は、間借りしている科学部部室を陣取って編集作業にあたっていた。

 特別号を作るにあたり選んだのは、パソコンで記事を書き、編集する手法だ。出来上がったものを二日目の午後に印刷機へかける。紙で作るより効率的だし仕上がりもよくなる。

 最初は個人個人で記事を書き、あーでもないこーでもないとわいわい作業を行っていた。

 が、パソコントラブルでデータが飛ぶ危機に陥った。

 見かねた姫島さんが指揮をとって、なんとか最悪の事態は免れたところだ。

格闘したのは数時間。

「今の状況をおさらいすると、部室が使えるのは8時まで。これはパソコン部の届があってこそだからね。みんなは同好会だから延長届け不可。パソコン部から編集ソフトの指導を受けるってことで無理やり認めてもらってるから、曲げられないよ。それで、吉村くん、今は何時?」

「7時、45分です」

「そろそろ片付けないとまずいと思うんだけど、どう思う大岡くん」

「…………はい」

「学校で忍び込んで作業するのは憧れるけどリスク高すぎるからね。質問を変えるよ、どうしたい市ヶ谷くん」

 理詰めでこんこんと諭す姫島さんは、決して高圧的ではない。

 ただ淡々と、現状を説明しているだけだ。

 ただただ悔しい。

 今の自分達の力のなさが。

 どうしたい。

 その答えを言ってもいいものか。

「今のままだと明日間に合わないと思います。だから、ここじゃなくても、どこかで編集作業を続けたいです」

「……………」

「もちろん、姫島さんに迷惑はかけません。パソコン関係やってもらっただけで充分です」

 絞り出した心からの叫びに、大岡や吉村の顔色も変わった。

「……どこでやろうとしてるの、作業」

 僕が何も答えられないでいるなか。

「………………旧、報道部部室」

「えっ?」

 大岡がぽつりとつぶやいた。

「今は立木先生が管理してる空き準備室です。元々報道部の備品入れていて、今も残ってるところで。ちょうど展示やってるんで物は片付いてるし、三人くらいは部屋に入って作業ができる。電源はとれます」

「鍵は」

「合鍵持ってます。親愛なるOBさんからの差し入れで」

 自分を取り戻した大岡は強い。姫島さんの質問にもしっかりと返している。

「あそこはOBさんたちも籠って作業してたみたいで、目張りもばっちりです。立木先生もはずしてないみたいだし」

 吉村が援護射撃をしたときだった。

「できそうだけどやっちゃうのはいただけないかなー」

 音もなく、室内に立木先生が紛れ込んでいた。

「立木、先生?」

 前世は忍者か。

「姫島、メンバーの指導ありがとね!いやーこっそり夜中まで作業されたら、あたしの首が飛ぶじゃんよー」

 教師らしからぬ正直すぎる態度に、大岡は無言で反発したようだ。

「お、保身で言ってるって?それも半分、報道同好会の今後半分。出来たばっかりだし、いろいろ目をつけられやすいんだから、今は大人しく帰りな」

「紙面が……」

「そーね、学校でやるだけじゃできないね。私の知ってる限り、追い込みの時期は顧問の家に泊まり込んで作業するとこもあるみたいだけどね」

 なおも食い下がるとヒントのようなものをくれる。

「それは、立木先生のところでやれってことですか?」

 吉村の問いにも、オーバーリアクションで首をすくめた。

「ソーリー。あたしのとこは提供できない。けど、親とそれぞれの事情が許せばどっかに泊まり込んでもいいんじゃないの?」

 ため息をついたのは、姫島さんだった。

「……いいよ、僕の家でよければ。今日は親いないし」

「え、いいんですか!」

「最初からそのつもりだったでしょ」

「あ、ばれました?」

 大岡を軽く小突くと、姫島さんは荷物をまとめはじめる。

「じゃあこの三人と、家で活動続けますから」

「おっけー、帰ったあとのことは私は関知しない。わかったらさっさと学校を出な!8時3分前!」

 立木先生に追いたてられ、僕らは慌てて学校を出た。


「ーーなあ知ってる?」

「ん?」

「備品が残ってたのも、顧問引き受けてくれたのも、立木先生がOBだからっぽいって話」

「へえ?」

 確かに目をつぶってくれたことはちょこちょこあったかもしれない。

 現に、立木先生は生徒指導の先生に見つかりそうになった僕たちを誤魔化してくれたところだ。

「なんか、うまくやりなさいって言われた」

「あー、いいそう」

「うまくってなんだろうね」

「裏の活動をばれないようにやったり、上級生たらしこんで作業場所確保することじゃないのかな」

 姫島さんの言葉には苦笑いするしかない。

「ほら、いこっか。家ついたら親御さんに電話して。やることいっぱいあるよ」

「あざーっす!」

「ほら、きりきり働いてもらうからね」

 夜の闇に通学路は飲まれている。風はひんやりとしているものの、体だけは熱かった。

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