4月7日
「青柳静香です」
初めて名前を聞いたときには、俳優みたいだと思った。さぞかし名前に似合う寡黙な美少女なのかとも。
……横目で姿を見て、そんなことはないと感じた。
藤和高校1年4組。出席番号は1番目。
肩よりも長い髪を二つにまとめ、細いフレームの眼鏡をかけている。妥協を許さないような瞳と、校則をきっちりと守った制服。見た目はよくいえば真面目。悪くいえば暗そう。
間違っても、前に出て何かするようなタイプじゃない。強いていうなら名前の通り、静かに在るような感じがひしひしとする。名前負け、というわけじゃ決してない。けれど取り立てて目立つなにかはない。
これが、入学早々にして隣の席の主に抱いた第一印象だった。
「じゃあ次は横の男子な。女子、男子の順で交互に行こう」
彼女が座ると同時に、自分が立つ。
「市ヶ谷晴季です」
予定通りに自己紹介を終える。前の人物の存在感が霞むくらいに。
ア行の初めは滅多なことがない限り、男女別名前の順で先頭になる。4月の初めは名前の順で席が割り振られていくため、必然的に隣り合うのだ。
そこに気が合う・合わないの気持ちは反映されない。
自己紹介タイムが終わっても、彼女は周囲の人物と話そうとはしなかった。
無言で座る人物が隣にいると、居心地はよろしくない。
だから、話しかけようかと、視線をあわせたときだった。
目があったのに、そらされた。
タイプが違うから。この一言でおしまいだけど。
向こうが拒否したんなら、こっちから追いかける義理はないのだと思う。
4月7日。青柳静香。隣の席の女子。
真面目そうで、おどおどしてて、人付き合いが苦手そう。
関わることは、多分ない。