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69 修羅の惑星

「いてて、どこだ?、ここ」


 頭を抱えたまま立ち上がった。

 体が超重てぇ。

 マジで重力の高い惑星のようだ。

 そして辺り一帯、ごつごつした岩だらけ。


「はっ! はっ!」


 なんか気合を入れた掛け声が聞こえる。

 修行僧のような衣をきた青い髪をしたわりと可愛い女の子が、なんかシャドーボクシングをしている。……いや、空手家がやっているパンチの練習の方が近いか。


 そして一発一発が重たい。

 汗まで飛び散っている。


 でもなんか、右手には、ボールペンを持っている。

 虚空に何か書いているようだ。

 なんかよく分からんが、本人はすごく一生懸命のようだ。


「あ、あのぉ~」

「はっ!?」


 女の子は身をひるがえした。


「な、何者だ!?」



「あ、いや。俺はなんつーか、この惑星に強制送還されたボッチでして……」


「……? キサマ。この辺の者ではないようだな?」


 だからさっき言ったけど、別の惑星から送り込まれたボッチなのです。だけど重力が大きいせいか、話すだけで疲れてしまった。


「よそ者よ。ここに何の用だ?」


「え……。えーとですね」


 確かここに来た理由は、このGの高い星で修行して筆力をあげ、おもしろい話を書けるようになることだったな。


「おもしろい小説を描く為にここに来たんだよ」


 突然女の子は笑い出した。



「あははははは! 確かにこの星は多くのハイレベルのラノベ戦士がいる。だがお前のラノベ力だとすぐ死ぬだろう」


 ラノベりょく? ……ですか?


「ふ、分からいのか?

 大抵のラノベ戦士なら、相手のラノベ力は気配を感じるだけで察知できる」


 なるほど。

 ラノベ力とは戦闘能力を表す数値のようなものなのですね。


「えーと、そのラノベ力を上げたら、面白い話を書けるのですか?」


「当たり前だ。それは世界の常識である。そのようなことも知らなかったのか?」


「あ、うん」


「とにかくキサマのラノベ力は、ん? こ、これは?」

 

 女の子は瞬き一つせず、俺をじっと見つけた。

 この反応って、も、もしかして、お決まりのやつですか??


「もしかして俺に、秘められし力があるとかいうやつですか?」



「……ラノベ力……0.000000000……。なんなんだ。ラノベパワーが皆無の奴なんて初めてみた。赤ん坊でも0.0001はあるのに」


 そういや俺は、すべてのスキルを捨ててアイテムボックス一点強化したからね。

 ビッチ。俺は赤ん坊以下だってさ。

 もう書籍化は無理だ。

 諦めてくれ。


『あーん、あーん(ヤダー)』


 あんたも赤ん坊以下だな。


「残念だが、キサマには才能がまったくない。悪い事は言わん。これ以上進むと、ラノベの鬼と呼ばれる者達と出くわすだろう。奴らは面白い物語を作るために、手段を択ばない。死にたくなければ帰ることを勧める」


 え、ちょっと待って。面白い話を書くのに手段を選ばないというのは分かるんだけど、どうして俺が殺されなければならないんだ?

 

 

 あ、そっか!

 

 

 死ぬというのは、死ぬほどの挫折を意味しているんだろう。

 それくらい、ラノベの鬼という作者さんはおもしろい話が作れるってことだね。

 なるほどね。

 確かに俺は今0かもしれないけど、面白い物語を書いている連中と肩を並べているとそれなりに実力もあがりそうだ。


「構わねぇよ。どこにいるんだ? そのすげー奴らは」

「おいおい、ラノベ力たったの0で、どうやってラノベの鬼たちと渡り合うつもりなんだ?」


「どうもこうも当たって砕けろでいくまでさ。俺が面白い話を書かないと泣き止まねぇ奴がいるもんでね」


『あーん、あーん(それ、あたしの為に頑張ってくれるってこと? ボッチ君、カッコいい!)』


 いや、あんたが面倒なだけなんだけさ。


『あーん、あーん』


 女の子はあきれた顔で嘆息を吐くと、注意するように俺を指差して言った。


「本当にいいのか? 私は一応、忠告したぞ?」


「あぁ、いいよ。ところでここの星の人たちは、みんなすごい根性だね。死ぬ気で面白い話を書いているなんて……」


「当たり前だろう? それがプロの作家だ。面白くなければ生き残れない」


 そりゃそうだけどさ。

 面白くなければ、作家として終わるってのは分かるけど。

 とにかく、なんかすごい熱意を感じる。

 この女の子だって汗びっしょりになって、ペンを振っていたし。




 女の子は続けた。


「自分以外の者を全員抹殺すれば、生き残った作者の物語が一番面白いではないか!」





 はい?????



 あ、あのぉ……


 その発想、なんかすごく間違っているような気もします。


「だが気に入った。ラノベの悪鬼たちと合わせよう」


 女の子の持っていたペンから、赤いインクが滴った。

 それ、インクだよね?


 女の子はペンの先を悲しそうな眼差しで見つめた。


「……可哀想だが、弱い小説家はすぐに死ぬ」



 おい、ビッチ。俺、帰るぅ。転送しろよ!



『あーん、あーん(ダメだー。ここで修行しろ! ここで頑張って一番になったら書籍化できるよ)』



 だから無理だって。

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